brainchild’s 菊地英昭&渡會将士、4年ぶりアルバム完成に至るまで コロナ禍での思いが反映された“記録”の一枚

brainchild’s、アルバム完成まで

 EMMAこと菊地英昭(THE YELLOW MONKEY)が、自身の自由な表現のためのプロジェクトとして2008年にスタートさせたbrainchild’sが、4年ぶりに6作目となるアルバム『coordinate SIX』をリリースした。

 brainchild’sはこれまで多様なメンバーを迎えてバラエティに富んだ作品を発表しており、現在は「第7期。」。ボーカリストはワッチこと渡會将士(FoZZtone)、ベース・神田雄一朗(鶴)、ドラム・岩中英明(Uniolla/MARSBERG SUBWAY SYSTEM)に、第6期に参加していたキーボード・MALを加えた5人編成で、新作を完成させた。

 この新作に着手したのは2年前だがコロナ禍でやむなく制作を中断、配信で曲を発表しつつ、ようやく完成に至った。その経緯と作品について、菊地と渡會が忌憚なく語ってくれた。(今井智子)

「コロナ禍になったからこそできた」(菊地)

ーー『coordinate SIX』は4年ぶりの新作になりますが、前作『STAY ALIVE』も前々作『4』から4年があいていたので、brainchild’sはそういうインターバルなのかなと思ったんですが。

菊地英昭(以下、菊地):(笑)。でも前作『STAY ALIVE』は、その前に2枚ほどミニアルバムを出したから、フルアルバムとしては4年ぶりだったんですけど常に動いている感じの4年間だった。今回は本当に4年ぶり。本当は2年前に出す予定だったんですけど、コロナ禍になってしまって。これはアルバム出してもツアーできないぞということで、作りかけていたんですけど中断したんです。ただ、みなさんと接点は欲しいので、出来上がった曲を配信でリリースして、ぼちぼち動いてはいました。

ーー2年前に制作を始めた時に、作品のテーマなりコンセプトといったものはあったんでしょうか。

菊地:はっきりとはなかったです。作り始めて半分しか曲がなかったので、これからどういう曲をプラスしていこうかなという段階だった。でも今回、キーボードにMALが参加してくれることになったので、彼を入れてアルバムを作ってツアーをやろうという構想はあった。だから音の方向性というのは何となくあって、それをやりたいと思っていた矢先に中断になって。

ーー具体的にはどんなサウンドを考えていたんでしょう。

菊地:それまで4人でやってて、「7期」と自分で呼んでるんですけど、それはそれでソリッドでカッコよかったんです。でも自分はピアノのサウンドが好きで。今の7期の最強のメンバーにプラス鍵盤が入ったら、もっと強くなるだろうという構想が出始めた時期だったんです。

ーーMALさんが加わって8期にはならないんですね。

菊地:MALは、その前に6期のメンバーとして1回参加してるので、メンバーが入れ替わっただけで8期というのも変だなと、今は「第7期。」ということにしてます。

brainchild’s デジタルシングル「Set you a/n」30秒SPOT

ーー最初の配信シングル「Set you a/n」は2020年8月リリースでした。このタイトルの読み方は?

菊地:「セッチューアン」。ワッチのアイデアで。

ーー歌詞に〈折衷案〉が出てくるのでそうかなとは思ったんですが(笑)。これは2年前のアルバム制作に向かっていた時にできていた曲ですか。

菊地:その前年の冬ぐらいから録り始めた曲の一つです。歌詞はまだできてなかったので、サウンドを録り終えてから1回歌詞をつけて出来上がったんですけど、そこでコロナが来てしまって。で、1回できたものをそのまま出すのは違うなとなり、歌詞を書き直してもらって、音も録り直したところがある。

渡會将士(以下、渡會):この曲は難しかったです。曲をもらって歌詞を書こうというところでコロナ禍が始まって、自分のツアーも中断したり。その当時は、春には収束するだろうという空気もあって、それを見守りながらの作詞だったので、何を書いたらいいかさっぱりわからないという状況で。たぶんEMMAさんの中でも、曲に最初に持っていたイメージと時代が変わってきて。どうしたもんかな、と変化していく感じがありましたね。

菊地:「Set you a/n」は「サーチライト」という仮タイトルだったんです。コロナ禍に入って、暗いだけじゃなくて光を感じられるものがあったらいいなと。なので、本当に折衷案というか、どっちにもバランスよく取れるような歌詞が出来上がったというのはあるんじゃないかな。あと「妥協案」という替え歌もあります(笑)。

ーーbrainchild’sにとって「Set you a/n」は初の配信曲でしたが、リリースしての手応えなどはどうでしたか。

菊地:手応えというか、その当時はそれしかないだろうという気持ち。せめてそこで繋がっていられればいいなと思って出しました。ライブもできないし、結局出す側も受け取って反応してもらえるのもネットの世界しかないじゃないですか。そこでの繋がりしかないから、逆に自分にとってはそこで繋がれているのが救いでした。反応をネットで見られるのがよかった。そこから配信が続くんです。

菊地英昭

ーー「Heaven come down」「Brainy」が2021年に配信されて、この6月の「Brave new world」までの6曲が『coordinate SIX』に収録されていますね。「Set you a/n」のように中断前に制作された曲から発表した感じですか。

菊地:3曲目までは用意していた曲で、あとは新しくみんなで合わせて作りました。その時その時の感情が反映されてるのが曲だったりワッチの歌詞だったりするので、それを出しておくべきだなと思って。

ーーそれはコロナ禍での思いや経験といったものが作品に反映されていくことになりますね。

菊地:そうですね。コロナ禍になったからこそできたというか。いい側面も悪い側面もあるんでしょうけど、歌詞の世界もそうですし、この曲を入れたいという感覚もそうですし。いろんなことがコロナに影響されたので、それも含めたアルバムの形になった。今までのbrainchild’sより曲の雰囲気がカラフルだと思うんですよね。自分の世界観をガッと出すんじゃなくて、いろんなところに目を向ける、そういう感覚も含めてカラフルにしたので。MALも一緒にやってくれることになったので、それも大きい。歌詞はほぼワッチが書いてくれてるから、その時その時のテーマがあるよね。

渡會:そうですね。最初の3曲はコロナ1年目で、いろんなことがSNSで溢れまくってたので、それに対して時系列を追って書いてた感じで。コロナが進んでいく様子を、そのまんま歌詞に突っ込んだみたいな。

ーー普段自分の曲を書く時と変わらないですか。

渡會:いや、なるべくネガティブなこととか批判的なこととか歌いたくないと思うタイプなんですよ。でもEMMAさんが用意した曲には、「これは何らかのディスが入ってるな」と(笑)。ギターのサウンドの圧力だったり、そういうもので、これはみんなで「イエー!」って歌う曲じゃないなって。EMMAさんからは何もそういう言葉はないんですけど、「ミックス仕上がったんで歌詞書いてください」っていう時点で、サウンドでめちゃめちゃ語りまくってるんですよ。今回はそういうことを意図的に取り込むタイミングなんだなと思って、社会風刺とかシニカルな歌詞になってますね。

渡會将士

ーーEMMAさん、意図した通りに伝わってる感じですか。

菊地:はい、7期になってワッチが歌詞を書くようになってから、そういう色というのはあまりなかったんですね。それまでのbrainchild’sは自分が歌詞を書いてたので、結構攻撃的だったんです。それが、ワッチが入ったことで違う世界観になっていったところがあって。けど、ここにきてワッチが、前に俺がやってたようなことを書き出したので「これは期待できるぞ」と。どんな風になるかなと思ったら「Heaven come down」「Brainy」が出てきて。こういうのができるなら、今の攻撃性はワッチに任せようと。自分はちょっと俯瞰したところから見るような歌詞にしました。それで「FIX ALL」みたいに、今までみたいに毒を吐いてるばっかじゃないぞってところに、自分が行けた。

ーー「FIX ALL」は希望を感じさせつつEMMAさんの内面性が垣間見える気がします。

菊地:なんか通り越しちゃって、そういう風に考えるしかねえなって、自分は思えちゃうところもあって。コロナ禍でいろんなアーティストがリリースしたものを聴いて、すごく希望のあるものとか、何も考えないでいい曲もあったりするじゃないですか。それを聴いたりすると、自分もそういうところあるなって。たぶんワッチが社会風刺的なシニカルな部分をやってくれるから、できたこと。

ーーワッチさんは自分の作品だったら歌わないと言っていましたけど、EMMAさんとのコンビネーションだから歌えるというのもありますか。

渡會:そうですね。日々勉強という感じ。ただ攻撃するだけの音楽って品がないですし。ラップがラップとして文化になったのは、どんなにディスってもきっちり韻を踏んでることが一因だと思うんですよ。今まではやんわり踏んでいた韻を、今回は「これでもか!」ってぐらい踏みまくって、韻の中にちょっとした遊びを入れたりして。説明しないと誰も気づかないような、クイズみたいなのが入ったりして、すごく楽しくやれました。

菊地:「Brave new world」は「7人のこびと」が入ってるんだよね。

渡會:はい。〈グランピーもドーピーもスニージーで〉って、「7人のこびと」の名前なんですよ。そのあとに〈訃報、悲報、警報大好き〉って続くんですけど、それは「ハイ・ホー」って歌からきてて。

brainchid's「Brave new world」Lyric Video

「EMMAさんが一番のギターキッズなんだって気づいて」(渡會)

ーーネタは「白雪姫と7人のこびと」でしたか。EMMAさんのギターも曲によってカラフルで耳に残ります。

菊地:自分は曲を作る時に持っているギターでフレーズが変わってくるので、それも大きいかもしれません。たとえば、レスポールを持って作る曲、フライングVを持って作る曲、テレキャスターを持って作る曲、といったように世界観が変わるので、自分でも楽しんでる。出てくるフレーズも、弾きたくなるフレーズも違ったりして。曲のためにギターを選ぶというのもあるし。ギタリスト目線だと、それも曲の世界観を広げている感じがありますね。

渡會:レコーディングの時すごいですもんね。アンプのヘッドが「ドワーン!」と。ギターもいっぱい並んでて。初めて体験した時は、ギターキッズにとってなんて夢のような空間なんだろう、なんて素晴らしいんだろうって思いました。でも何度もレコーディングしていくうちに、ああそうか、EMMAさんが一番のギターキッズなんだって気づいて。ずーっとギターを持って「どうしよっかなあ」って言ってる時の顔がめちゃめちゃ嬉しそうで。

菊地:ずっとそんな感じですよ。

ーー『coordinate SIX』では何本ぐらい使われてるんですか。

菊地:期間が長いので忘れちゃったんですけど、結構使ってる。12弦が1曲だけ入ってたり、アコギは気に入ってる2本。他にもあるんですけど。

ーーお気に入りの理由は持ちやすさとか?

菊地:音ですね。ガットは絶対これ、普通のアコギはこれって。どんなに弾きにくくても、自分が合わせる。

ーー余談めきますが、「ギターソロ不要論」がネットで論争になっていました。EMMAさんはどうお考えですか。

菊地:何回か言ってるんですけど、自分は必要なければいらないと思ってる。自分が作る時は、ギターソロはソロだと思ってなくて、間奏とか展開だと思ってて。流れでギターソロって感じで入れるのはつまらないと思うので。必然性があるものとして、ここでギターソロと言われてるものが来ないと曲の流れがおかしいよね、という感覚で作ることが多い。そこでテクニックを出すこともないし。音が欲しいとか、必要なら出しますけどね。逆に、世の中で、いらないと思われるギターソロが多いから、そういう風に言われるんじゃないかな。飛ばされるようなギターソロを作るからダメなんだよ。「ここでこれが聴きたかった!」と1回聴いたときに思ってもらえるぐらいにしないと。「FIX ALL」は俺としてはちょっと無理やり入れた感じ。本当はバッキングだけでいいんだけど、ちょっとソロっぽく弾いてる。

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