THE YELLOW MONKEYがライブを通して繋ぐエンタメの未来 厳戒態勢で行われた東京ドーム&横浜アリーナ公演を見て

THE YELLOW MONKEY繋ぐエンタメの未来

 THE YELLOW MONKEYが11月3日、『THE YELLOW MONKEY 30th Anniversary LIVE -DOME SPECIAL-』と題した東京ドーム公演を開催した。このライブはコロナ禍以降日本では初、いや、世界規模で見ても初であろうスタジアムクラスでの有観客ライブ。当日はキャパシティ上限の1万9000人という大勢の観客を迎えてライブが行われた。『THE YELLOW MONKEY 30th Anniversary LIVE』は、東京ドーム公演を終えた後、11月7日に横浜アリーナを実施し、12月7日に国立代々木競技場第一体育館、12月28日に日本武道館と続いていく。

徹底した感染予防対策 ファンと共にリベンジ果たした東京ドーム公演

 正直、ここまでの道のりは非常に険しいものだった。6月末の情報解禁時も、アリーナやドーム会場でのライブ開催に対して賛否の意見があった。実際、6月30日のアナウンス時点では「現時点では0%から100%の間のキャパシティ設定」ということで、無観客によるライブ配信も想定していた。しかし、7月に入ると音楽コンサートなどイベントの人数制限が上限5000人までに緩和され、実際8月には和楽器バンドが横浜アリーナでコロナ禍初のアリーナ有観客ライブを開催し、バンド/スタッフ/観客/関係者の新規感染者がゼロだったことが報告されている。

 こうして迎えた11月3日当日、読売新聞、西日本新聞の朝刊には東京ドームの外観写真に「19,000 / 46,902 ここから始めます。」とメッセージを載せた一面広告を掲載。来場者に対しては接触確認アプリ「COCOA」のインストールや座席番号ごとに入場時間を指定する分散入場など、徹底的な感染予防対策を事前に促したほか、入場時にはCOCOAによる陽性者との接触確認や検温、足拭きマットによる足裏消毒、スタンプによる電子チケットのもぎりも実施した。筆者も当日、会場に足を運んだが、“3密”を回避した会場周辺の様子はとてもドーム公演直前とは思えない穏やかなものだった。

 約5万人のキャパシティに対して1万9000人という数字は半分以下。当初は「東京ドームの客席が埋まらないTHE YELLOW MONKEYのライブは貴重だ」なんて意地悪な見方もしたものだが、1席ずつ空けた形だったこともあり、会場を見渡した限りでは「埋まっていない」感は皆無だ。むしろ、久しぶりに目にするドームクラスの会場に「こんなに大きかったっけ?」と、緊張と驚きを隠せずにいたほどだった。

 開演直前には、TYMS PROJECTのスタッフによる挨拶の時間も用意された。バンドにとっても、またエンタメ業界にとっても大事な1日である本公演に対して、観客に向けて「ここにいる全員で、ここから始めます」と呼びかける姿からは、このライブがTHE YELLOW MONKEYというバンドやスタッフにとってだけではなく、世界中のエンタメ界にとって重要なものであること、大きなターニングポイントになることが重々伝わった。

 と同時に、この日の来場者および会場に足を運ぶことができなかったファンの「ライブを成功させよう!」という思いも相当強いものがあることは、さまざまな面から伝わってきた。例えば、公演中の声援を上げたり一緒に歌うなどの「これまで当たり前だった行為」を我慢し、拍手やハンドクラップ、バンドタオルを掲げるなどでバンドの熱演に応える姿からは、限られた条件の中でもTHE YELLOW MONKEYとの久しぶりの再会を楽しもうという強い思いが伝わった。また、ライブに直接参加できなかったファンも『Sing Loud! あなたの声を、会場へ、メンバーへ。』企画を通じて、自身の歌声・歓声を事前録音してバンドに届け、ライブの成功に協力した。

 この『Sing Loud!』企画についても説明しておきたい。企画公式アカウントにおいて公開される、「JAM」や「バラ色の日々」をはじめとするTHE YELLOW MONKEYのライブ定番曲や、ライブ中のコール&レスポンスの公式音源をベースに指定のパートでコラボし、タグを付けて対象サービスに投稿することで今回のライブで使用されるというもの。東京ドーム公演でも上記の2曲で事前に募ったシンガロング音声が使用されており、現場で聴く限りでは観客は一切歌っていないものの、まるでその場にいる者が一斉に歌っているような錯覚に陥るほどの完成度で、ライブストリーミングやWOWOWでのテレビ中継でライブを体験した方の中には「実際に歌ってしまっているのでは?」と勘違いしてしまう人も多かったようだ。これも「THE YELLOW MONKEYのライブを成功させたい!」というファンの思いが強く現れた結果だろう。

 改めて、東京ドーム公演の内容にも触れておきたい。本来は4月に2公演、異なるセットリストで行われる予定だったものを1日開催に変更。さらに当初計画していた演出も完全な形で再現できないことなどさまざまな制限があった中、バンドは先のナゴヤドーム公演、京セラドーム公演からの流れを受けた「ドームツアーの締めくくり」をしっかり表現しつつ、さらに約9カ月ぶりのライブ再開に対する熱い思いが込められたセットリストで、1万9000人の来場者および中継で参加した視聴者をもてなした。「真珠色の革命時代~Pearl Light Of Revolution~」からドラマチックにスタートする演出も、おそらくその一環ではないだろうか。

 その後も新旧の代表曲を交えながら、王道ナンバー連発のセットリストで観る者を魅了。特に、演奏にリンクしてスクリーンの映像が動く演出が用意された「球根」では、冒頭での菊地英昭(Gt)のエモーショナルなギタープレイと、吉井の繊細さとパワフルさが入り混じったボーカル、曲が進むにつれて独特のうねりを生み出す廣瀬洋一(Ba)&菊地英二(Dr)のグルーヴ感に圧倒された。また、名古屋や大阪同様にセンターステージにて演奏するパートも用意され、「Foxy Blue Love」や「SLEEPLESS IMAGINATION」など初期の楽曲を含む選曲でバンドの歴史を存分に感じさせてくれた。さらに、「JAM」では吉井の「Everybody singin’!」に続いて、先の『Sing Loud!』企画で募ったシンガロング音声が流れると同時に、観客に配布されたリストバンド型ライト「フリフラ」が曲に合わせて赤く光り、その幻想的な雰囲気が楽曲の世界観をより強いものへと昇華させた。

 ライブ後半は、2001年1月の初東京ドーム公演を思い出させる「メロメ」のような意外な選曲も飛び出したものの、以降は「天道虫」や「パンチドランカー」など熱量の高い楽曲を連発。「また40周年、50周年とここでやらせてもらいたいなと。そのときはテレビ、ネットの皆さんもここに集まってほしい」という言葉に続いて披露された「バラ色の日々」では、募集したシンガロング音声による合唱にあわせて会場の観客が高くバンドタオルを掲げる。さらに、最新ナンバー「未来はみないで」ではスクリーンに歌詞を表示するなどして、吉井が歌詞に散りばめたメッセージ性を強くアピールした。

 アンコールでも「楽園」や「ALRIGHT」「悲しきASIAN BOY」といったライブの定番ナンバーを連発。筆者はこの中でも「ALRIGHT」の後半の歌詞〈何よりもここでこうしてることが奇跡だと思うんだ〉に、以前とは異なる重みを感じ、気づけば涙腺が緩んでいた。そして、改めてこの“奇跡”を実現させてくれたバンドと、それを全力で支えるファンの姿に拍手を送りたくなった。

 東京ドーム公演のラストナンバーに選ばれたのは、意外にも「プライマル。」だった。ご存知のとおり、この曲は再集結後初のツアーで1曲目に選ばれた楽曲。もしかしたら、当初予定していた4月の東京ドーム公演=“THE YELLOW MONKEYシーズン2のエンディング”もこの曲だったのでは……そう思わずにはいられない粋な選曲に、さらに胸が熱くなったことを付け加えておく。

 このような形で「コロナ禍初のスタジアムライブ実現」までの過程を説明することで、読む人にとってはこれを美談と受け取るかもしれない。しかし、一定期間を経てバンド/スタッフ/観客/関係者の新規感染者がゼロという報告を受けるまで、予断は許されない。この挑戦が“withコロナ”の世界におけるひとつのモデルケースとなり、今後のエンタメシーン復興の、良い意味でのヒントになることを願いたい。

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