安田レイ、THE CHARM PARK提供曲「風の中」に反映した“頑張っている人”の葛藤 掴み始めた自身の制作スタイル
安田レイが、新シングル『風の中』をリリースした。表題曲は、バドミントン部の高校生を描いたアニメ『ラブオールプレー』第2クールエンディングテーマとして書き下ろし。自身の部活動での経験と重ね合わせながら書いたという歌詞は、アニメの視聴者のみならず、現在進行形で部活に打ち込む人から過去にそうした経験をした人まで、広く届くものに。THE CHARM PARKが作・編曲した爽快なサウンドとの組み合わせも絶妙だ。ソフトバンクのハート型ワイヤレスイヤホン「HeartBuds」テーマソングであるカップリング曲「each day each night」も含め、現在の安田のモードや、来年の10周年に向けた意気込みなどを聞いた。(編集部)
自分の経験してきたことを曲にしていきたい
ーー「風の中」はTVアニメ『ラブオールプレー』の、第2クールエンディングテーマ曲ですね。歌詞は書き下ろしということですが、特にどんなことを考えて書きましたか?
安田レイ(以下、安田):制作期間が、まだアニメの放送が始まる前だったので、原作の小説を読んで歌詞を書きました。ただ原作小説を読んで、そこで描かれているバドミントン部の話と、私が中学生の時に入っていたダンス部の思い出とを重ねていきました。部活って大変ですよね。私が通っていた中学校のダンス部は練習場所もなくて、柔道部がいないときに柔道場を借りて踊ったり。校舎がほとんど山の中にあったので、ビヨンセの曲をかけていてもセミの鳴き声の方が大きいほどだったんですけど(笑)、部活が終わると真っ暗な中、30分かけて駅まで歩いて帰ったり。何のためにここまで頑張らなくちゃいけないんだろう、と、思う瞬間もあったんです。それは原作を読みながらも思ったことで、そうした心の葛藤を曲で描きたいと思いました。
ーー自身の部活動での経験も、歌詞に反映されているのですね。
安田:はい。スポーツや部活を頑張っている人に向けて、ただ頑張れという応援歌や、ただ楽しい曲にはしたくなかったんです。頑張っている人だからこそ抱える悩みや葛藤を描きたくて。それに、部活はみんなのサポートがあってやり遂げられるわけで、支えてくれる仲間や友達の存在も、感じられる歌詞にしたかったんです。繰り返しで、意味がないと思ってしまう毎日の中にも、実は大事なヒントがある。それは大人になってわかることですけど、日常の中に、身近なところに大事なものがあるということをこの曲の中で表せないかなと考えたときに、「風」という言葉が出てきたんです。この曲のサウンドもそうだし、いろいろな要素が「風」に繋がってきて。〈答えはまだ風の中〉というのはサビのフレーズですが、ぱっとひらめいたもので、これはもうそのままタイトルにしようと思いました。
ーー安田さんの曲は日本語がタイトルというものは少ないですし、シングルでは久しぶりですね。
安田:久しぶりに直球というか、サビに出てくる言葉をそのままタイトルにしました。「風」って身近なものじゃないですか。自然に吹いてくる風もあれば、この物語ではバドミントンの試合中に、自分で風を生み出すといった描写もあるんです。いい風が吹いてこないのなら、自分でその風を生み出せばいいんだというのは私にとっては発見でした。
ーー〈なんだか人生あぁ回りくどいな〉というフレーズ、そして歌声に特にリアリティを感じました。安田さんの青春時代が目に浮かぶようです。
安田:〈回りくどい〉というフレーズはこだわりました。部活の帰り道のヘトヘトな感じ、生々しさは出ているかなと。〈こっちを睨む 僕の未来へ〉というフレーズもこだわった部分です。理想の自分、なりたい自分が、そんな簡単にここまで来れないよと、遥か先からこちらを見ている感じ。なりたい自分というのが明確にあって、理想が高いからこそ、すぐにはそうなれないのがわかっている。甘くはないけど、それでもそこへ向かっていこうという思いを歌ったフレーズです。
ーーTVアニメのエンディングテーマですが、安田さんの人生観までもが伝わってくる曲ですね。
安田:タイアップ曲であっても、自分で歌詞を書くときはやはり自分が経験したことじゃないと聴いている人にはうまく伝わらないと思うんです。今回は原作小説からもインスピレーションをもらっていますが、常に自分の経験してきたことを曲にしていきたいという思いはありますね。久しぶりに学生時代を思い出して、この曲の制作中は考えることがたくさんありました。
ーーアニメやマンガはよく見たり、読んだりしますか?
安田:マンガはあまり読みませんが、アニメは好きでよく見ます。想像力が広がるもの、近未来ものとか、日常ではありえないような、アニメだからこそという話が好きですね。『7SEEDS』はみんなに勧めるほど好きな作品で、最近は『SPY×FAMILY』にハマっています。
ーー「風の中」は曲先、つまりバックトラックが出来上がっていて、そこに歌詞をつけたのですか?
安田:そうです。今回THE CHARM PARKさんに作曲と編曲をお願いしました。もうずっとファンで、私の出演するラジオ番組にもゲストで来てもらったりしていたんです。私から伝えたイメージは、汗も感じるけど爽やかな感じというもので、Charmさんがつくってくれたトラックには、やはり「風」の要素がすごく感じられたんです。それに、暑いけど涼しいといった両極端の要素が並び合っているとも感じたので、歌詞を書くに当たってその点にも後押しされました。
ーーTHE CHARM PARKさんも、英米のポップスにもJ-POPにも精通しているところが、安田さんと共通しています。実はそういう方、今は少ないとも思います。
安田:そうかもしれないですね。それでやりやすさというか、共感を得られるのかも。お互いにルーツがアメリカにあって、そこも意識したと言ってくれて。私たちがこれまで聴いてきた洋楽は共通するものも多くて、その上でメロディを考えてくれたので、歌詞を書いていてもピタッとはまるのが気持ちよかったです。
ーーTHE CHARM PARKさんは自分の音楽のテーマとして、「懐かしくて新しい音」を挙げています。「風の中」もロックなギターと、現代のシンセサウンドが同居していて、まさに懐かしくて新しい曲だと感じます。
安田:私は1993年生まれなので、ロックなギターが流行っていた頃を知らない世代ですけど、知らない人には新しく感じられて、知っている人には懐かしさもあるサウンドというのはトレンドにもなっているので、そのように編曲してもらえて嬉しいですね。
ーー最近は1人で歌詞をすべて書く曲のリリースが続いています。自信はついてきましたか?
安田:まだまだ自信はないです。もちろん毎回、いいものをつくれているとは思っていますけど。これがベストじゃないというか、もっといい歌詞が書けるはずだという思いが常にあります。これで100点満点となったら、次からもう頑張れない気もしますしね。人一倍時間がかかるので締め切りギリギリまでいつも、壁とにらめっこしながら、「(言葉よ)降りてこい、降りてこい」という感じで書いています。
ーー歌詞を書く、自分なりのコツのようなものはつかめてきましたか?
安田:私は、曲の頭から順に書いていきます。サビから書き始める人はすごいなって思う。ドラマでいったら、前の話がないのにクライマックスを撮るようなものじゃないですか。私はやはり、前の段階を踏んでからサビにたどり着きたいので、必ずAメロから書き始めるんです。ただAメロのスタート地点で考えている時間がとても長いので、それが自分のスタイルなのかなと思いながらも、早く書けたらいいのにと思いますね。
ーー「風の中」は洋楽的な要素もありつつ、J-POPらしいJ-POPというか、疾走感のある爽快な曲です。安田さんのR&B〜洋楽嗜好がかつてなく表現された昨年のEP『It's you』をつくれたからこそ、あらためてJ-POPを新鮮に歌えるのかなとも感じました。
安田:久しぶりにアッパーな曲をつくったんですよね。あまり歌い上げない曲を、というムードの時期が私の中で続いてたんですけど。「風の中」をリリースしたら、「こういう曲を待ってました!」というファンの皆さんからの声がたくさん届いて。世の中が大変な時だからこそ、みんないつも以上に音楽にエネルギーを求めているような気がします。私もいつも、音楽から生きる力をもらっていますけど、「風の中」のような曲がやはり一番エネルギーを届けられると思いますね。最近はライブでも、セットリストをアッパーな曲で固めているアーティストが多かったりと、「音楽で楽しみたい」というみんなの気持ちが強くなっていますよね。私もそんな曲をもっとつくらなきゃと、使命を感じることもあり、「風の中」はこれからの私の音楽活動に大きな影響を与えてくれる曲だと感じています。