Lucky Kilimanjaro 熊木幸丸、ダンスミュージックで表現する人間の複雑性 「誰にでも存在する地獄をちゃんと認めたい」

ラッキリ熊木、ダンスと人間の複雑性

 Lucky Kilimanjaroがデジタルシングル『ファジーサマー』をリリースした。ラッキリの夏曲といえば「エモめの夏」を思い浮かべる人も多いだろうが、今年のラッキリが表現する「夏」は今までとは少し違う。熊木幸丸のシックなポートレートによるアートワークが示すように、この「ファジーサマー」が描くのは、宙ぶらりんで掴みどころのない心の微細な動きに音が輪郭を与えたような、内省的なダンスミュージック。たしかに踊れる。だが、すべてを忘れてハイテンションで踊ってしまえるアッパーな曲というよりは、じっくりと胸の内側に浸透していくような深いアンビエンスをまとった1曲なのだ。

Lucky Kilimanjaro「ファジーサマー」Official Music Video

 カップリングの「地獄の踊り場」もまた、ドラムンベース的な狂騒感が胸の内側のざわめきや右往左往する日々の思考へと直結するような、胸の奥底へ深く潜る1曲。ダンスミュージックの肉体性は損なうことなく、しかし、弱さも惑いも隠さない、極めて「内面的」と言えるこの2曲を通じて、ラッキリはアルバム『TOUGH PLAY』で辿り着いた地平とはまた違う場所へ早くも歩を進めている。この新機軸のシングルに、フロントマンの熊木幸丸はどんな思いを込めたのか。単独インタビューでじっくりと聞いた。(天野史彬)

ライブは「ふざけるくらいでちょうどいい」

Lucky Kilimanjaro 熊木幸丸
Lucky Kilimanjaro 熊木幸丸

――ご結婚おめでとうございます!(※7月1日に、熊木は大瀧真央(Syn)との結婚を発表した)

熊木幸丸(以下、熊木):ありがとうございます(笑)。

――そもそもラッキリは大学のサークルで結成されたバンドですが、年月を経るに従いバンド内の関係性も変わっていくこともあるのかなと思うんです。大瀧さんと熊木さんのご結婚だけでなくても、そうした変化を感じられることはありますか?

熊木:う~ん、それぞれ社会人になったりはありましたが、ずっと同じ感覚でやれている気がします。当然、音楽のプロとしての責任を感じることは増えましたけど、そこでメンバー間の関係性がぎくしゃくすることもなくて。僕ら、「仲良さそう」ってよく言われるんですけど、日常的に遊ぶことはほぼないんです。ただ、一緒にいるときはサークルの部室にいるときの感覚になるし、それはこのバンドが始まってからあまり変わらないと思います。

――ライブの会場が大きくなることに関して、メンバー間でお話しされたりはしますか?

熊木:それこそ『TOUGH PLAY』のツアーはパシフィコ横浜をはじめ、大きなところでたくさんやらせてもらいましたけど、僕ら自身、そこまで実感はないというか。実際にステージに立ってようやく「こんな大きさになってるんだ、あはは」という感じで(笑)。いい意味で緊張感がないというか、規模が大きくなっていることは嬉しいけど、「僕らがやるべきことをやるだけだよね」っていう感じでやれていますね。

――改めて、『TOUGH PLAY』のツアーはいかがでしたか?

熊木:うちはバンド全体ですべての状態を話し合って音を作り上げていくんですけど、今回のツアーは回っている間の変化が大きかったと思います。お客さんをちゃんと踊らせるグルーヴを生み出すには、ちゃんと脱力した、滑らかな演奏が必要で。大きな会場でやる緊張感を持ったうえで、楽しく脱力してグルーヴィに演奏するにはどうしたらいいんだろうということを突き詰めたツアーでした。

――やはりグルーヴィな演奏には「脱力」が必要ですか?

熊木:今の自分の考えとしては、脱力していなければ、グルーヴィな演奏は絶対にできないなと思っています。本当は、寝るのと同じように演奏できないといけない(笑)。歌もそうなんですよ。「頑張るぞ! 一音入魂!」みたいな感じで力が入ると、リズムの繋がりがすごく悪くなってしまう。ふざけるくらいでちょうどいいです。平均台の上を走るようなリスキーさもそこにはあるのですが、これができれば、音楽が「繋がる」感覚をちゃんと得られるのかなって思っています。

――なるほど。

熊木:あと演出面で、今まで通りノンストップで、お客さんが主体となって踊れるような空間を意識しつつ、今回は「座る」っていう演出にも挑戦したんです。ライブの途中で、僕の言葉やバンドの演奏に向き合ってもらうというか、「見てもらう」時間をあえて作ったんです。そうすることで、踊るだけでなく、音や言葉がお客さんの中に流れていく状態を作れたらと思って。今までは「俺も踊るから踊りましょう!」という感じだったんです。でもそれだけじゃなくて、自分のなかにある音、自分のなかにある気持ち、みんなが演奏するサウンドから「うねり」が生まれている状態を作りたかった。そういう奥行きが絶対にLucky Kilimanjaroには必要だと思っていたので、この演出を入れることができたのはよかったと思います。それによって改めて、「ダンス」という部分もより際立てることができたのかなと思うし。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる