Lucky Kilimanjaro 熊木幸丸、ダンスミュージックで表現する人間の複雑性 「誰にでも存在する地獄をちゃんと認めたい」

ラッキリ熊木、ダンスと人間の複雑性

頑張って自分を定義しなくてもいい

――流動性という話で言うと、「果てることないダンス」の〈体じゃなくこの反応こそが私だと〉というフレーズを思い出しました。やはり「動き」が大事というか、性別とか肩書きとか職業とか、そういうもので人は自分を定義づけようとするけど、ラッキリの視点はそういうものではないですよね。

熊木:大体、定点で考えちゃいますよね。でも、実際には、「私は○○である」と言葉にした瞬間には、時間軸的にはもうそこから離れちゃっているわけで。なので、違和感があるんです。明日の自分は違う自分かもしれない。そういう人間の複雑なバランスで心の状態は成り立っていると思いますし、そこにある「動き方」自体が、その人だと思っています。なので、自分が踊れない人間だと思っている人こそ、こういう音楽を聴いてほしいですね。それで、「人間ってもっと複雑で面白いのかもな」って思ってもらえればいいなと思います。

――「ファジーサマー」では〈いつだって言葉は間に合わない〉と歌っているけど、そういう言葉にできない状態自体を柔らかく肯定しているような曲ですよね。複雑さの肯定というか。

熊木:人間って複雑なので、「多少諦めちゃえば?」って思うんですよね(笑)。そんなに頑張って自分を定義しなくてもいいし、ひたすら自分の心の動きだけを追っていけばいい。どれだけ自分は変わらないと思っても、社会の状態が変われば自分の状態は絶対に変わるし。定点にい続けることって絶対に無理なんですよ。要は、「雑に生きればいいんじゃない?」っていう感じです(笑)。

――(笑)。「ファジーサマー」の歌詞に出てくる「ゴロゴロ」という表現は、「週休8日」でも引用されていた漫画『波よ聞いてくれ』のセリフからとっているそうですね。

熊木:そう、すごく好きなんですよ。「胸がゴロゴロする」という表現、すごくいいなと思って。「胸が張り裂けそう」とかいろいろ表現はありますけど、「ゴロゴロ」って単純に可愛いですよね(笑)。そうやって言葉にするだけでちょっと方向が変わってくるじゃないですか。特にこの曲は、言葉が間に合わないような感覚とか、背骨がないように感じる感覚とか、そういうものを歌っているから。それを「ゴロゴロ」と表現するのは、立体感が出るなと思って。

――カップリングの「地獄の踊り場」も、「ファジーサマー」に通じる「寄る辺のなさ」を肯定的に表現している曲だなと思いました。

熊木:そうですね、この曲は、誰にでも存在する地獄をちゃんと認めたいなと思って。それこそ高いビルの上の方に住んでいる人でも、ダークな時間って絶対にあると思うんですよ。そういう誰にでもある地獄を、明るくするわけじゃなくて、そのということが「地獄の踊り場」のテーマですね。この曲は音楽的には、ドラムンベースをやりたくて。ニア・アーカイヴスという人のMixmagのDJを見て「かっこいい」と思ったことがきっかけなんですけど。ただ、それこそピンクパンサレスとかもいるし、ドラムンって世間的には流行でもあるけど、この曲はちょっと違うラインでやりたかったんです。有機的な感覚とのバランスというか、踊り切れない感じを大事にしたかったんですよね。いわゆるドラムンの早くて踊れる感じより、もっと歪なグルーヴ感というか、整合性はあるけど、ちょっと踊り辛さもある。そのバランスはすごく考えました。

――熊木さんには、「地獄」のような時間ってよく訪れますか?

熊木:たくさんあります。昨日も理由もなく焦ってたし。なんとか制作をしたり、歌詞を書いたりしようとするんだけど、「なんか今日はダメだなあ」って全部やめてゲームやってみたり。自分の無力さはよく感じますし、特に僕は「自分はできないんだ」と考えてしまう時間がすごく多くて。「自分は最高だ!」と思っている時間なんて、どのくらいあるんだろう? という感じです。なので感覚的には、今回の「ファジーサマー」や「地獄の踊り場」は僕の日常の感覚に近いんです。こういうゴロゴロした感じの方が、常に自分から沸いているものという感じがします。

――ただ、今回のシングルの熊木さんの内省の音楽への表出の仕方は、例えば「夜とシンセサイザー」のような楽曲と比べても違うものですよね。

熊木:そうですね、違いますね。「夜とシンセサイザー」もツアーでやったときに改めて「いい曲だな」と思ったんです。こういう曲に救われる人は沢山いると思いますし、ちゃんと歌っていきたい曲だと思っています。でも、今回のシングルに関してはちょっと違う心境ではありますね。自分の暗い面に対してのコミュニケーションの仕方が変わったというか、自分自身の暗い部分に対して、より味わうことができるようになったというか。自分の暗い部分をより踊らせることができるようになっている。こういう部分に対してのコミュニケーションの仕方は年々変わっている気がします。歳を経るからか、経験を積むからかわからないですけど、寂しさ、悲しみ、苦しさとの付き合い方はいろいろあるなと思うようになってきました。

――今回は、ジャケットも熊木さんのポートレートで、今までとトーンが違いますね。どこか内向的なテイストがあって。

熊木:そうですね、こういうことができるのも、Lucky Kilimanjaroの立体感というか。「あくまでも僕らは、みんなの心と一緒に踊りたいんだよ」ということが表現できたシングルになったんじゃないかと思います。

――こうしたシングルが生まれたことがバンドにとって大きいことだと思うし、夏フェスや秋のツアーで「ファジーサマー」や「地獄の踊り場」がどんな空間を生み出すのかも楽しみです。

熊木:次のツアーは、「踊りってなんだろう?」ということをより突き詰めるツアーにしたいと思っています。『TOUGH PLAY』のツアーよりももっと振り切ってもいいかなと思っています。もっとみんなが「踊る」ということに対してより興味が沸いたり、理解が深まったり、「踊りたい!」って思える状態ができればいいなと思います。僕自身、自分の知らない地点に行けるんだろうなという予感もあるので、楽しみです。みんなが大事にしまっているものをちょっと出せるような場所を、自分たちのダンスミュージックで作っていけたらいいなと思います。

『ファジーサマー』

■リリース情報
Lucky Kilimanjaro
デジタルシングル
『ファジーサマー』
2022年7月13日(水)リリース
各音楽配信サイトにて配信中

01.ファジーサマー
02.地獄の踊り場

■ライブ情報
『Lucky Kilimanjaro presents.TOUR“YAMAODORI 2022”』
9月11日(日)大阪:大阪城野外音楽堂
9月18日(日)横浜:KT Zepp Yokohama
10月1日(土)金沢:EIGHT HALL
11月3日(木・祝)札幌:PENNY LANE24
11月6日(日)仙台:Rensa
11月12日(土)福岡:DRUM LOGOS
11月13日(日)広島:CLUB QUATTRO
11月18日(金)名古屋:Zepp Nagoya
11月25んち(金)東京:LINE CUBE SHIBUYA
企画制作:dreamusic Artist Management,Inc./VINTAGE ROCK std.
TOTAL INFORMATION:VINTAGE ROCK std.
TEL.03-3770-6900[平日12:00-17:00]/WEB http://www.vintage-rock.com/

<チケットオフィシャルホームページ先行予約(抽選)>
受付期間:7月13日(水)0:00〜7月25日(月)23:59
受付URL:https://eplus.jp/luckykilimanjaro22-official/
枚数制限:1公演につきお1人様4枚まで

オフィシャルサイト:http://luckykilimanjaro.net/

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