好奇心やルーツを自在にぶつけ合うミクスチャー新世代 Kanna、ネガティブな時代に突き詰める“楽しさ”

ヒップホップの中でもSEAMOやHOME MADE 家族、nobodyknows+がルーツにあるNouchi(MC)と、Van Halen、Led Zeppelin、ジミ・ヘンドリックスなどのハードなギターロックがルーツにあるKoshi(Gt)によるZ世代、1MC1ギターの2人組 Kanna。2人のルーツがぶつかり合うミクスチャーロックをポップに昇華した音楽性で、2022年には『FUJI ROCK FESTIVAL』の「ROOKIE A GO-GO」と『SUMMER SONIC』の「出れんの!? サマソニ!?」といった大型フェスの新人ステージに出演。躍進を続ける彼らに、地元の名古屋での結成からこれまで、そしてこの先のビジョンについて話を聞いた。(高久大輝)
バンド形態から現体制へ ルーツの異なる者同士の制作スタイル
――まずは結成の経緯から伺いたいと思います。そもそもは高校1年生の冬頃、2人の共通の友人のドラマーとKoshiさんがスタジオに入るときに、そのドラマーの方にNouchiさんがついていったのが始まりなんですよね。
Koshi:そうです。Nouchiが勝手に来て、こんなヤツいるんだと思って(笑)。その日に結成したんで、振り返ってみるとすごいですよね。
Nouchi:僕はついていっただけです。本当に何も考えず(笑)。まだ名前はなかったけど、とりあえずバンドを組むことはその日のスタジオ終わりに近くのファミレスで決まって。
Koshi:もともとは4人組だったんです。いわゆるバンドの形態で、ボーカル、ギター、ベース、ドラムがいました。ちゃんとバンドを組んだのはそのときが初めてでしたね。
Nouchi:僕は軽音部で一瞬やったことはあったんですけど、自分たちのオリジナル曲をやるバンドというのは初で。1曲目からオリジナル曲をやっていました。
Koshi:作曲も僕らのどっちかがやっていたんですけど、本当に雑なラフを、基本はスタジオでアレンジ詰めていく感じで。ライブも今みたいにいろんな音を使っているわけじゃなく、ボーカル、ギター、ベース、ドラムでできる表現に縛られていましたね。大学受験の時期にメンバーが抜けて、2人になってから今の制作方法にシフトしていきました。

――結成当時、名古屋の同世代でラップやバンドなどを始める流れはあったりしたんですか?
Koshi:僕らの周りは少なかったですね。高校にも軽音部があったんですけど、曲を作るというよりコピーバンドがメインで。
Nouchi:ヒップホップに関してはまだ今ほどメインストリームではなかったというか。ちょうど『フリースタイルダンジョン』や『BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権』でMCバトルがちょっと有名になってきて、ラップは聴くものというよりMCバトルを観るものという認識の人が多かった気がします。曲を作る人はあまりいなかった印象ですね。
でも僕には漠然と小さい頃からラップを使って音楽をやるという夢があって。たまたま高校生の頃にPCを買い、DAWで曲を作ろうと思って、それが今の形に移り変わっていった感じです。
――現在はどのような制作方法なのでしょう?
Koshi:僕の方がいわゆる0→1が多いんですけど、そこからのアレンジは2人でやっていきますね。基本はオンラインでデータを送り合う形です。作業的に僕らは得意なことが分かれていて、Nouchiはもちろんラップができるし、ベースやドラム、ピアノもできるんで、こっちでバーっと作ったものをブラッシュアップして投げ返してくれて、こっちもそれに対して返して……というのを数ターン繰り返して完成します。Nouchiのルーツにあるヒップホップにはビートの文化があるから、より凝ったものが作れるし、いつも良くなって返ってくる印象があるので、お互いに任せる領域があるイメージです。Nouchiはソロ名義(NoukunDollar)でも自分でトラックを作ったりしているので、お互いに0→1ができるんです。
Nouchi:そうですね、僕はギターが弾けないんでそこは任せていて。基本的に後から引き算できるように、お互い自分のターンであえて音を盛り盛りにして送り合います。で、あとから黙って引き算する(笑)。
――そういった制作方法だからこそ2人のルーツがぶつかったような音楽性ができ上がっているんですね。先ほどNouchiさんのルーツにあるヒップホップの話が出ましたが、データをやり取りする中でお互いのルーツを感じるポイントは具体的にどこにありますか?
Koshi:僕はそもそもあまり電子音の、特にトラップ系の音楽には触れてこなかったんで、Nouchiから“ツツツツツツ……”というサスティンの短いハイハットのアレンジが来るとすげえヒップホップだなと思います(笑)。それ以外でも、よりブーンバップ的なドラムが返ってきたり、そもそも選ぶ音色やフレーズに感じますね。ローが強かったり、サンプリングっぽい質感だったり、洗練されていて、「聴いたことあるな」って思いますね。
Nouchi:僕はKoshiからギタリストらしいフレーズが返ってくると「ああ、ロックだな」って思います。自分でもたまにギターのフレーズを考えることがあるんですけど、ギタリストらしくならなくて。テクニカルさもそうなんですけど、ギターならではのチョーキングやスライドの感じはピアノでは出ないし、そもそもピアノで演奏している状態だと思いつかないんですよね。ピアノやドラムのフレーズでも、どことなくギターっぽいというか、スムーズに流れるような感覚のフレーズが返ってくるとKoshiのルーツを感じますね。

何事においてもネガティブな時代へのメッセージ
――リリックについても伺いたいのですが、「Peace Out」のような別れをテーマにしている曲でもNouchiさんのリリックからは前向きさを感じます。そういった価値観はどのように育まれたんでしょうか?
Nouchi:もともと自分に厳しくて、他人にも厳しかったんです(笑)。とにかくちゃんとしていて。今は自分に甘く、他人にも甘くで生きているんですけど、「落ち込むのは男らしくない」「前を向いて生きていくべき」みたいな厳しい価値観を持っていた時期の名残なのかもしれないですね(笑)。
Koshi:バンドを始めたくらいのときはめっちゃ厳しくて。しょうもない遅刻したときとかでも「スタジオ代、払って」と言ってくるみたいな(笑)。ちゃんとしてました。そこからの変化の過程で自分に甘く、他人に厳しい時期があったんです(笑)。やっぱり人は急には変われないから。今でもちゃんとしているところはちゃんとしているけど、ちゃんとしなくていいところはちゃんとしなくなったね(笑)。
リリックも最終的にポジティブというか、後味が悪くないですよね。一緒にいる時間も長いので「人間性が出ているな」と感じることが多いですね。「そうそう、こういう人だよね」って(笑)。間違いなくリアルなリリックです。

――そういったポジティブなリリックは今の社会に対してのメッセージでもありますか?
Nouchi:今の日本は、SNSでも現実でもみんな悲観的というか、何事においてもネガティブに転換しがちだと思うんです。だから僕らの曲を聴いて、テイクイットイージーというか、「ラフにいこう」と思ってくれたら嬉しいですね。
――そんなKannaは高校時代からこれまで活動していて壁にぶつかったと感じることはなかったですか?
Nouchi:やっぱり最初にベースとドラムのメンバーが抜けたときですかね。抜けた後しばらくメンバーが見つからなくて、そのライブが全然できなかった期間は落ち込んだというか、暇だったというか(笑)。少し退屈な時間ではありましたね。
Koshi:もどかしい時期ね。高校2年生くらいのときはがっつりライブハウスでライブしていたんですけど、そういうたくさん曲を作り溜められる時期も必要だったなと思いました。大学に入ってからサポートが見つかって、抑圧されていた分、弾けた感覚があります。
――動画で拝見したのですが、路上でライブをしていた時期ですか?
Nouchi:そうですね。ちょうどメンバーが受験で抜けて、コロナ禍が始まってライブハウスも閉まってしまって……というタイミングで路上ライブをやり始めて。当時、Suspended 4thを筆頭に盛り上がっていた路上界隈から本格的に始まったんです。名古屋の路上ライブの名所(栄三越前、栄噴水前など)があって、当時サポートしてくれていた人もみんな、路上ライブをやっている他のバンドのメンバーで、今一緒にライブしているサポートドラマーも最初に音を合わせたのはそこでやった路上ライブだったよね。
Koshi:路上で始めたのも、たしかSuspended 4thのメンバーが「路上でやったらいいんじゃない?」「サウンド的にも路上と合うと思う」と言ってくれたからで。すごく良くしてくれましたね。

――やはり路上でのライブはライブハウスとは感覚が違いますか?
Koshi:そうですね、ライブハウスはステージもあって一応全員が聴いてくれるから、僕たちに意識を向けてくれている人をどう楽しませるかが重要だと思うですけど、路上は止まらずに歩いて行く人も当然たくさんいるから、自分たちに一切興味のない人を振り向かせるところから始まるんで、そういう意味では全然違いましたね。
Nouchi:見て学んだ部分もあるし、他の路上でやっているバンドはインストをやっていることが多いんですけど、僕らはマイクを使っているので、あえて歩いているサラリーマンに声を掛けたりしていて。言葉で訴えかけたりしていましたね。路上でだいぶ場数を踏んで、ステージ慣れしていった気がします。
Koshi:メンタルが鍛えられたね(笑)。
Nouchi:全然止まってくれない日もあったけど、「寒いからかな」とか天気のせいにしてみたり(笑)。