連載「lit!」第9回:The 1975、King Gnu、ジャック・ホワイト……今年、夏フェスを賑わす要注目の新作ロック

 週替わり形式で様々なジャンルの作品をレコメンドしていく連載「lit!」。第9回となる今回は、2022年の夏フェスシーンにおける要注目アーティストの新作ロック作品を5つ紹介していく。

 今や、日本のロックシーンにおける新たな王者としての覇気を放つKing Gnu。数々の春フェスにおいて圧倒的な存在感を示したマカロニえんぴつ。直近でリリースされたそれぞれのバンドの痛快な新曲を聴いて、この2組こそが、今年の夏フェスシーンを象徴する存在になるという確信が以前にも増してより深くなった。

 また、3年ぶりの開催となる『SUMMER SONIC』では、ついにThe 1975が、同フェスにおける初のヘッドライナーを担う。彼らは、初来日を果たした2013年から『SUMMER SONIC』と共に歩み続けてきたバンドであり、出演を重ねるごとに同フェスにおける存在感を強め、そして着実に日本のリスナーからの支持を拡大し続けてきた。「Guys」で歌われているように、彼らは日本でのライブに強い思い入れを持っているからこそ、今回のヘッドライナーとしての出演には、さぞかし気合いが入っているだろう。また、The 1975は、コロナ禍に入って以降、2020年3月の公演を最後に約2年以上もの間ライブ活動を行っておらず、その長きにわたる沈黙を破る今回のステージは、非常にプレミアムなものになるはずだ。

 他にも、今年の『SUMMER SONIC』で初来日を果たすBeabadoobeeや、『FUJI ROCK FESTIVAL』2日目のヘッドライナーを担うジャック・ホワイトなど、今年の夏フェスにおける要注目のロックアクトを挙げていけばキリがない。長い間、海外アーティストの来日公演が中止・延期となっていただけに、いよいよ開催が目前に迫った各フェスのラインナップを見ながら、「ついに洋楽フェスが復活する」という歓びを感じている人は、きっと多いと思う。

 前置きが長くなってしまったが、今回は、各アーティストがリリースした新曲/新作を一つずつ紐解いていく。この記事が、今年の夏フェスを楽しむ上での一助になったら嬉しい。

The 1975「Part Of The Band」

 ついに、10月にリリースされることがアナウンスされた最新アルバム『Being Funny In a Foreign  Language』。その先行シングルとして発表されたこの曲は、(これまでのThe 1975のアルバムのリードナンバーがそうであったように)彼らの新たな可能性を大胆に打ち出した新基軸のナンバーだ。例えば、Sigur Rósの「Hoppípolla」やボン・イヴェールの「Perth」を想起させるような壮大で深淵なサウンドスケープ。その中で、軽やかに躍動するストリングスやホーンのサウンド。そして、コーラスセクションにおいて歌のメロディと呼応し合うように煌めくアコースティックギターの音色。そのどれもが、言葉を失うほどに美しい。また、単に静謐なだけではなく、全編にわたり力強く脈打つビートがしっかりと際立っており、静かに、しかし確かに心を奮い立たせてくれる。あまりにも感動的なナンバーである。

 The 1975は、ジャンルの解体とクロスオーバーが次々と加速していく2010年代のシーンにおいて、鋭く時代に向き合いながら、自分たちの表現を果敢に更新し続けてきたロックバンドである。そしてこの曲は、いつまでも変化・進化し続けることを掲げて歩んできた彼らだからこそ至ることのできた輝かしい新境地である。しかし同時に、この曲はあくまでも「Part Of The Band(バンドの一部)」に過ぎないのだろう。最新作が描き出す景色の全容は依然として想像もつかないが、『SUMMER SONIC』のステージから何か手掛かりを得られるかもしれない。その意味で、同フェスのステージは、全世界が注目する特別な一夜になるはずだ。

The 1975 - Part Of The Band (Official Music Video)

King Gnu「雨燦々」

 ドラマ『オールドルーキー』(TBS系)のエンディングで主題歌として流れたこの曲を初めて聴いた時、井口理(Vo)の凛とした歌心に強く胸を打たれた。そして、その清廉な歌声が切り拓いていくサウンドスケープの壮大さに圧倒された。一方で、リリースされた音源を聴くと、鋭く煌めくフィードバックノイズや鮮烈なギターソロをはじめ、随所にロックバンドとしての技巧が光っていることに気づく。ロックの表現を突き詰めた先に、広大なポップの景色が開けていく。これまで彼らは、その奇跡のようなバンドマジックを何度も起こしてきたが、その中でも「雨燦々」は、今まで私たちが体感したことのなかったような破格のスケールの景色を描き出していく楽曲になると思う。

 2022年下半期、King Gnuは、いくつもの夏フェスにおけるメインステージを経て、11月の東京ドーム公演に挑む。今回の新曲は、そうした数々の大規模なステージを掌握していくための重要な切り札となるはずだ。この楽曲が、新しいロックアンセムとして無数の人々を熱狂の彼方へと導いていく光景を想像するだけで、すでに胸が熱くなってしまう。彼らと同じ時代を生きられることが、一人のロックリスナーとして何よりも嬉しく、そして誇らしい。

雨燦々

ジャック・ホワイト「If I Die Tomorrow」

 The White Stripesでの功績も知られるジャック・ホワイトは、2022年に入ってからフルスロットルで走り続けており、4月にアルバム『Fear Of The Dawn』をリリースした約3カ月後の7月22日に、立て続けで今年2枚目となる新作『Entering Heaven Alive』を発表予定だ。「If I Die Tomorrow」は、その先行シングルとして発表されたナンバーである。アコースティックギターの弾き語りを基軸としたフォーキーなサウンドは、他の既発曲「Love is Selfish」「Queens of the Bees」にも通じるものであり、そうしたテイストは、鋭利で重厚なガレージロックを叩きつけた『Fear Of The Dawn』と対をなすものだ。ガレージロックの側面とシンガーソングライターの側面、その両極の振れ幅こそが、彼の表現者としての果てしないポテンシャルを表しており、美しい憂いを秘めた「If I Die Tomorrow」は、まさに後者の真骨頂である。今年、全くモードの異なる2つのアルバムがリリースされたということは、それらを掲げて行われるこの夏のライブは、2つのモードを往来するようなスリリングなものになるはず。『フジロック』のステージも、きっと予測不能で濃密な時間になると思う。

Jack White – If I Die Tomorrow (Official Video)

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