ハラミちゃんが大切にする、ストリートピアノから生まれる一期一会 価値観の変化に導かれた幸福度の高い生き方
ハラミちゃんは、YouTubeをはじめとする動画サイトの人気コンテンツのひとつ「ストリートピアノ」が生んだ、大人気ポップスピアニストだ。いつでもどこでも誰の曲でも、耳コピと即興で弾く超絶技巧と、愛くるしいキャラクターが支持され、今年1月には日本武道館公演を成功させるなど、その快進撃はとどまるところを知らない。彼女はいかにしてストリートピアノに出会い、リスナーに愛され、唯一無二のポップスピアニストになったのか?これからハラミちゃんを知る人、もっとハラミちゃんを知りたいという人のために、日本中を元気にする「ハラミちゃんの素顔」に迫りたい。(宮本英夫)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】
ストリートピアノとYouTubeの相性の良さ
ーーストリートピアノって、今は専門の情報サイトもあるんですね。どの街のどこにピアノが置いてあるとか、書いてある。
ハラミちゃん:そうなんです。まめに誰かがまとめてくれてますね。助かってます。
ーー2018年くらいから、日本でストリートピアノが一気に普及し始めたみたいですね。そして2019年に、ハラミちゃんが活動を始める。
ハラミちゃん:私が始めた頃にはもう先駆者の方が活躍されていたので、遅かったかなという感覚があったんですけど、全体で見たらそうでもなかったのかな? と思ったり。
ーー『駅ピアノ・空港ピアノ・街角ピアノ』(NHK BS1)という番組の放送がスタートしたのも、その頃だったと思います。そもそもストリートピアノって誰が仕掛けたんでしょう。
ハラミちゃん:発祥の地はイギリスで、日本では鹿児島かな? 初期にネットで活動を始めたのは、さなゑちゃんや、よみぃさんだと思います。さなゑちゃんはニコニコ動画出身の人で、よみぃさんも中学生からネット活動をしている方なので、実はネット文化からストリートピアノは広がっていると思うんです。ストリートピアノ自体はその前からあったものですけど、昔からネットで活動していた人たちがコスプレをして弾いたり、ポケットウィズさんがポップスを弾いたり、さなゑちゃんがカップルが弾いているところに乱入するとか……音楽だけを届けるというよりは、エンタテインメントとしてやっていたものという印象です。
ーーなるほど。
ハラミちゃん:そこが最初のストリートピアノ文化の礎となって、その次の世代は、音楽家として、ピアノの音色が個性的だったり、演奏のキャラクターも濃くて。そこでもう一回ブームが起きて、ストリートピアノの文化がさらに盛り上がったように思います。2020年はYouTubeでストリートピアノというジャンルの再生回数自体がすごく伸びましたね。理由として、そもそも音楽が好きな人が多いことに加えて、ストリートピアノの持つ“ハッピードッキリ”といったテイストがYouTubeと相性が良いのではないかと感じています。
ーーでもハラミちゃんは、そのブームに乗ろうと思って始めたわけではないんですよね。
ハラミちゃん:はい。知らなかったです。
ーーたとえば活動開始が1年遅れたら、コロナ禍になって、ストリートピアノができなかったかもしれない。すごいタイミングでした。
ハラミちゃん:本当に私は、ラッキーが50回ぐらい続いているんです(笑)。タイミングや選択してきたこと全てにおいてラッキーが続いている感じなので、本当に周りに感謝しています。
ーーハラミちゃんの動画を見ていると、もちろんピアノの演奏に目はいくけど、ハラミちゃんを見ている周りの人を見るのが面白くて。笑ったり、泣いたり、歌ったり、男性も女性も、お年寄りも子供も、本当にいろいろな人がいますよね。
ハラミちゃん:そうですね。今までに620本ぐらい動画を上げているんですけど、それぞれ“はじめまして”の人なのに、その人の人生が見えるというか。亡くなったお母さんが好きだった曲や、結婚式で流した曲……その人の人生をこんなにシェアしてもらえるなんて、なかなか普段の生活ではないことだし、ストリートピアノでしか起こらない価値だと思っているので。そういうところが、自分がのめり込んだ要因なのかなと思います。
ーー最近では、ハラミちゃんを見てピアノ始めたという女の子まで登場しましたよね。
ハラミちゃん:私のInstagramやTwitterに、「ハラミちゃんの格好をして弾いてみた」というメッセージもたくさんいただきます。子供が帽子とポシェットを持って“ハラミちゃん風”とか、大人でも趣味でピアノを始めたという方もいらっしゃって。ピアノ教室でも即興や耳コピで、楽譜通りではない音楽を教える“ハラミちゃんコース”といったものがあるそうです(笑)。ーーそれはすごい。
ハラミちゃん:そういうお話を聞くと、自分はただ楽しくやっていただけなので、ありがたいというか、嬉しいなと思います。
ーーずっと言っている「ピアノを身近に」という夢が、叶いつつありますね。
ハラミちゃん:本当にそうですね。
ハラミちゃんが選ぶベストパフォーマンス
ーーちなみに、これまで世に出した動画の中でのマイベストパフォーマンスは?
ハラミちゃん:ベストパフォーマンスは……いろんな部門がありますが、一番心に残っているのは、さっきも少しお話した、亡くなられたお母さんが好きだった「木蓮の涙」(スターダスト☆レビュー)をリクエストしてくれた方です。その時私はサビの部分しか知らなかったのですが、なんとか応えたいという思いで、サビだけ弾かせていただいたんですけど、聴きながら涙を流してくださって、本当に音楽で通じ合えた感覚があって、すごく印象に残っています。演奏という意味では、ベストパフォーマンスではなかったと思うんですけど、心という意味では、ストリートピアノでしかできないこと、という感覚がありました。
ーー忘れられないですよね、それは。
ハラミちゃん:さらにそれをYouTubeで公開することによって、多くの方に、身近で体験した死に対しての思いや共感するコメントをいただいたので……ストリートピアノはハッピーで楽しいだけじゃないというか、“通じ合える”部分もあるということを伝えられた気がして、その動画がとても心に残ってます。
ーー逆に、個人的に思い入れのある楽曲を演奏して感極まったとか、そういう経験はありますか。
ハラミちゃん:うーん、自分が好きな曲やジャンルと、普段弾いている曲は割と乖離しているので、実は自分が弾きたい曲をあまり演奏したことがないんです。それは自分の意志がないということではなくて、“ハラミちゃん”というアーティスト像が、“人が弾いてほしい曲を弾く”というものだと思っているので。それには即興や耳コピができることを生かせるし、自分の性格的にも合っているので、自分から伝えるよりも、人の思い出に寄り添うほうが、自分にとって幸福度が高いと感じてます。
ーー本名の自分と、“ハラミちゃん”というアーティストは、分けて考えているんですね。
ハラミちゃん:でも、アーティスト活動をしていない自分も、元からそうだったんですよ。幼稚園、小学校の時から、音楽の授業で、クラスの友達のために耳コピして弾いていたので、やってることは変わっていないんです。その時から自分の好きな曲を弾くことはなかったので、今も“ハラミちゃんモード”と切り替えているわけでもないんですよね。
ーーなるほど、そっちが素なのかもしれない。そのあと、音楽大学のピアノ科に入学したのは、プロの演奏家になろうと思っていたんですよね。
ハラミちゃん:はい。
ーーそういう道のりを経て、今、本来の自分に戻って来たということも言えるのでしょうか。
ハラミちゃん:そうですね。高校生の時、音大受験の直前に厳しい先生に見ていただいたんですけど、私の演奏を一回聴いて、「あなたにはピアニストは無理」と言われたんです。自分の中で音大に行く人生しか考えていなかった時にそう言われて。音楽大学に行くしか道がなかったので進路は変えませんでしたが、演奏家という道がいかに狭き門で、クラシックのピアニストとして成功することがどれだけ大変か、身をもって知りました。だからピアニストという夢は、音大に入る時に一度消えていたんです。