『SYNCHRONICITY'22』をイラストで振り返る MONO NO AWARE、ZOMBIE-CHANG、ドミコらが届けた生の音楽体験

 4月2日、3日の2日間に渡って、『SYNCHRONICITY'22』が開催された。場所は渋谷・道玄坂のど真ん中。Spotify O-EASTを含む周辺のライブハウス6つに跨って、70を超えるアーティストが集結した。同イベントとしては3年ぶりの有観客開催だった。オーガナイザーの麻生潤は開演直前、会場の一つであるduo MUSIC EXCHANGEのステージに立ち、素直な気持ちを真摯に伝えていた。

 「生の音楽体験を届けたい」。レコメンド技術が発達し、一方でCOVID-19によってオフライン開催のフェスが減っている今、新しい音楽はネット上で見つけるという環境がスタンダードになりつつある。麻生の言葉は言い換えると、「平面的な音楽体験に落ち着くべからず」ということではないかと思う。イヤフォンから伝わる情報には限界がある。鮮やかさを保った一回性を感じられるのは、やはり生だ。今回私は初日に参加し、MONO NO AWARE、ZOMBIE-CHANG、ドミコ、D.A.N.、toeの5組のアーティストを目にした。どの音楽にも、生の発見と興奮があった。

 duo MUSIC EXCHANGEのオープニングアクトを務めるはMONO NO AWARE。必聴の最新アルバム『行列のできる方舟』に「幽霊船」という曲がある。まさに海を行く船のように縦乗り、横乗り自在にゆれる一曲だが、この日は後半に大幅なアレンジが効いていた。曲が半ばまで差し掛かり、彼らがこれから新しいフレーズを進んでいくとわかった瞬間、会場は興奮した。玉置周啓(Vo/Gt)がそれに呼応するように身を振り乱す姿や、加藤成順(Gt)が目を閉じグルーヴに身を委ねる姿が忘れられない。贅沢な50分の締めくくりは「東京」。彼らの中で最も有名な楽曲の一つだが、すでに支持を得ている曲が変容するのもまたライブだ。〈幻の街東京 君のいる街東京 そして色づく東京〉。フェスがこうして私たちの街に帰ってきたことを、曲の終わりに改めて噛み締めた。

 モデルでありトラックメイカーでもあるメイリンによるソロプロジェクト ZOMBIE-CHANGは、テクノビートをベースにゲーム音や電話のコール、踏切の警報音といったアンビエントサウンドを織り交ぜたトラックと愛らしい歌声、加えて前衛的ビジュアルを兼ね備えたアーティストだ。これだけでも十分に惹きつけられる存在だが、ステージ上ではZOMBIE-CHANGのさらなる魅力が垣間見えた。披露された「Granny Square」、「TAKE ME AWAY FROM TOKYO」などをはじめとした彼女の楽曲の多くには、トラックに不穏さが、フレーズに無常さが滲み、音源だけを聴くと破滅的な衝動の危うさを感じる。しかしライブでは、ある種の“軽さ”とともにそれらのダウナーポップを歌い上げる。疲れや燃え尽きを抱えている人も、彼女のやさしい笑みを含んだパフォーマンスを仰ぎ見れば、少しだけ体が軽くなるかもしれない。

 次はドミコをO-WESTで拝む。長谷川啓太(Dr/Cho)の骨太で同時に精密機械のような確かなドラミングと、さかしたひかる(Vo/Gt)の粘着性の高い歌声と自在なギターサウンド。ライブではさらにリバーブを効かせ音像を広げることで、2ピースとは思えない重力を感じさせる。しかし今回新たに知り得たもう一つのドミコの特徴は、シンクロ率の異常な高さである。音楽には複数の音を組み合わせるハーモニーの気持ちよさがあるが、二人のパフォーマンスからは“合わせている”という情報が入ってこない不思議さがある。目線を送るような素振りにそれが現れていないというだけのことではなく、まるで一つの意思が二人を動かしているような、元々一つだった生物が必要に応じて二つに分かれているような、そんな感覚に近い。ハーモニーを超えた圧倒的融合に対する気持ち良さと、あり得ない現実に対する不気味さの共存。それが私たちを虜にするのだろう。

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