My Hair is Bad、20代を凝縮した最初の集大成 変化を取り入れた先で再び王道に向き合った理由

My Hair is Bad、王道に向き合った理由

 『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)出演や、待望のサブスク解禁も話題になったばかりのMy Hair is Badが、5枚目のアルバム『angels』を4月13日にリリースした。本作には、これまでの制作やライブで培われてきたマイヘア節の王道がブラッシュアップされた形で凝縮されており、メンバーが20代最後に取り組んだ記念碑的な作品とも言えるだろう。他のバンドと同様にコロナ禍でライブが止まり、自分たちらしさを見つめ直して行く中で、何を自覚し、どんな挑戦に乗り出したのだろうか。My Hair is Badの現在地について、これまでの歩みも振り返りながら、3人にたっぷり語ってもらった。(編集部)

My Hair is Bad – 5th Full Album「angels」全曲トレーラー

「自分たちが一番好きなバランスのMy Hair is Badに」(椎木)

ーーまず、アルバムができ上がった今の心境を聞かせていただけますか?

椎木知仁(以下、椎木):完成したのが去年の8月だったんですよ。僕らにとって20代最後のアルバムだったので、メンバー3人とも20代のうちに録り終えたかったんですけど、それが実際にできてホッとしているというか。20代最後にきちんといいものを残せたなと思っていますし、完成から少し時間が経っているので「やっとみんなに聴いてもらえる」という気持ちですね。

ーー全曲渾身の出来かと思いますが、お気に入りの曲をあえて1つだけ挙げるとしたら、どれを選びますか?

山本大樹(以下、山本):僕は「仕事が終わったら」ですかね。(コロナ禍の)今、国中の人たちがこう思っているんじゃないかと。

椎木:いや、お酒飲まない人もいるから(笑)。

山本:特に2番サビの〈よく頑張った!えらいな!/好きなもの頼んでいいな〉はプチプラが流行っている最近の風潮に合っているなと思います(笑)。早くみんなで乾杯したいですし、ライブ終わりに打ち上げがないのはめちゃくちゃ寂しいですよ。仕事仕事っていう感じになっちゃうし。

山田淳(以下、山田):この前も3人で弁当屋とかマックに寄って、それぞれ買ってから「お疲れー」と帰っていったよね。

山本:そうそう。ツアーでいろいろな地域に行っても、夜遅いとお店が開いていないからね。「仕事が終わったら」みたいな風景を僕は本当に待ち望んでいます。

ーー山田さんは1曲選ぶならどれですか?

山田:ドラムが一番好きなのは「リルフィン・リルフィン」。僕、男らしいドラムが好きなので。

山本:音もいいよね。

山田:そうそう。あと俺、A型なので、「1Aはこういう感じだったから、2Aは1Aを引き継ぎつつ、ここをちょっと変えよう」というふうにドラムパターンを考えるのが好きなんですよ。全曲そういう作り方をしているんですけど、一番分かりやすいのはこの曲かなと。椎木が喋っている裏で鳴っている音は、A型っぽい感じに仕上がっていて、全体を見ても綺麗に作れたかなと思います。

椎木:なるほどね。僕はどれにしよう……いや、全曲いいんですけど、強いて選ぶなら「花びらの中に」ですかね。この曲は今の自分にしか書けなかったし、3人でスタジオで鳴らしている時も、今までのことを思い出して切ない気持ちになって。デモができた時、メンバーだけではなく、「この曲どうかな?」って同い年の友達にも送ったんですけど、それで気持ちを聞けたのはすごく面白かったし、思い出深い経験になりました。

ーーその時話したことで印象に残っていることはありますか?

椎木:「20代の終わりを表現してくれる曲ってないよね」「確かになー」という話になったのはすごく覚えていますし、それもあって「だったら20代の終わりに振り切って、30歳の誕生日前日に聴くような曲を作ろう」という気持ちになりましたね。〈落ちてく花びらの中に/今夜僕を埋めよう〉という歌詞が出てきた時は、「そうか、20代の自分を殺しちゃうんだ」「もう見ないことにするんだな」と自分でも驚いたんですけど、それはそれで美しいのかなと。

ーーアルバムは「花びらの中に」で締め括られますが、やっぱり“このアルバムが20代最後の作品になる”という意識は強かったですか?

山田:そうですね。僕らはバンドを始めて14年になるんですけど、やっぱり20代が一番“バンドしていた”ので、その集大成になればいいなと思いながら気合いを入れて作りました。

山本:レコーディングが去年の2月、5月、8月だったんですけど、そう考えるとしっかり時間をかけながら作れたんですよね。だからどの曲もシングルで出しても遜色がないほどのクオリティになったし、もちろんこの曲順でズラッと並べた時にも成立しますし、いいアルバムになったなと思います。

椎木:今まで出してきたマイヘアのアルバムって、最初に激しい曲があって、そのあとバラードがあって、ちょっと面白いゾーンがあって、しっとりと終わっていくというような流れが多かったんですよ。

ーーインディーズ時代に発表された1stアルバム『narimi』の頃から“黄金の曲順”みたいなものはありましたよね。

椎木:はい。「1枚通して飽きないように、自然に流れで聴けるアルバムにするためにはどうしたらいいかな」と考えたときに、自分から出てきたバランスがそれだったんですけど、それはもう自分の好みでしかないので無理して変える気にもなれず、続けてきたような感じで。2019年以降は僕自身「新しいことを」「今までやったことのないことを」と言い続けていましたけど、今回のアルバムは20代の集大成、若いマイヘアの集大成ということで、変に曲げたりせず、自分たちが一番好きなバランスのMy Hair is Badにしようと思いながら制作しました。

ーーバンドを続けてきたなかで“これはMy Hair is Badらしいよね”と認識している要素は3人の中にいくつかあるかと思いますが、そういうものを今の自分たちで衒わずにやっているのが今作ということですよね。

椎木:そうですね。逆に言うと、次に出る6枚目のアルバムもこういう質感にしちゃったら『angels』の意味が薄れちゃうと思うし、次のアルバムは『angels』がちゃんと映えて見えるようなものにしなきゃいけないなと思っています。

My Hair is Bad - 味方

「本当にやりたいことなら“やろうよ”っていう気持ち」(山田)

ーーアートワークのテイストも大きく変わりましたよね。曲順だけでなく、アルバムタイトルやアートワークも含めて、マイヘアのアルバムってフォーマットが統一されている印象を受けていたので。

椎木:曲やライブ以外の部分については、僕らの方からはっきり「こうしたい」と指示しているわけではないんですよね。そういうところはスタッフやデザイナーに任せて、「こんなのどう?」と聞かれたら「こっちがいい」と選んでいく方が自分の性に合っているので、今回もそういうやり方をしています。今作に関しては、パステルカラーのイメージが何となくあったんですけど、いつものデザイナーの方とやりとりをしているうちにこの案を出してくれたので、「あ、これっすわ!」と。イメージにぴったりだったのでこのアートワークに決まりました。

ーーなるほど。全体の構成は『narimi』の頃から続いているものを踏襲しているけど、とはいえ、今の3人が作ったら当然『narimi』にはなりませんでした、というのが今作ですよね。そう考えると、新しさをより強く求めるようになった2019年以降の活動が今作にも影響しているように思えるので、少し振り返りたいのですが、2019年6月にリリースした『boys』は改めてどのようなアルバムでしたか?

椎木:作り終えたときは「すごくいいアルバムができたな」「マイヘアの強みを押し出せたな」と思っていたんですが、自分たちが当時想像していたよりも届かなかったというか。リリース後は「このアルバムでこのくらいしか届かないのか」「ここからどうなっていくんだ?」という不安が少しありました。そこから「何が足りないんだろう?」と考えていったんですけど、今思えば自分たちの好きなことをやったアルバムだったし、言葉や曲のイメージをもっと届けるためには、音楽的な技術や知識が足りないんだろうなと。楽器1つにしても、機材1つにしても、コード1つにしても、もっと考えて、自分たちだけではなく聴いてくれた人も気持ちよくなるようなアレンジを覚えていきたいなと思いました。だから『boys』は“新しく変わりたい”というモードのきっかけになったアルバムだったと、今になって思いますね。

ーー“新しく変わりたい”という椎木さんの気持ちを山本さん、山田さんはどう受け止めていたんですか?

山田:椎木が本当にやりたいことだったら「やろうよ」っていう気持ちでしたね。ちょっと違うなと思う部分があったらちゃんと言いますし。この3人でバンドを続けてきたなかで、変えないままにしておいた方がいい部分ももちろんあると思うんですけど、新しい部分と変わらない部分のバランスが最終的に取れれば、いろいろなことをやってみてもいいんじゃないかと思っています。

山本:僕ら、コロナ禍になるちょっと前くらいに上京してきたんですよ。自分としてはそこからマインドが変わって、「東京に出たなら何かしら得たいな」「自分のためになって、さらにバンドのためにもなるものがいいな」といい意味でガツガツしている感じがあったので、椎木が新しいことをやろうとしているのも大賛成でした。それに、飛び込まないと分からないことっていっぱいあるし、「合わなかったらやめればいい」くらいの感覚というか。なので、「いいよ、やろうやろう」という感じではありましたし、結果論ですけど、今回いいアルバムが作れたからそれは間違っていなかったなと思います。

ーー『boys』リリースからしばらく経ち、2020年春から新型コロナウイルスが蔓延し、ライブが活動の大半を占めていたMy Hair is Badの生活も大きく変わりましたよね。

椎木:そうですね。僕らは年間100本以上のライブをやり続けていたので、ライブができなくなって、メンバーにも会えないような時期もあって……すごく変化の大きな1年でした。ライブ活動が止まってしまった分、曲を聴き直したり、ライブ映像を観直したり、自分たちのバンドを客観的に見つめ直す時間にもなりましたね。あと、「ここでサボったらどうにもならない」という気持ちから、いっぱい曲を作ったり、パソコンでデモを作ったりするようになったことも大きかったです。

ーーそうしてじっくり制作に向き合える環境の中で生まれたのが、2020年12月にリリースされたシングル『love』『life』でした。

椎木:『love』『life』は音作りの面で今までのMy Hair is Badとは違うことを根本からやってみたようなシングルでした。ギターで言うと、単純に歪ませなかったり、シングルコイルの音をかなり増やしたり。あと、スリーピースの音だけで作った曲が多かったんですけど、ストリングスなどを入れず、その代わりに裏メロをギターで弾いたら、マイヘアのままもうちょっと高く跳べるんじゃないかと思って。いろいろとチャレンジしたシングルでしたね。

ーーリリース後の手応えはいかがでしたか?

椎木:「変わったね」とは言ってもらえるけど、お客さんも毛嫌いせず、マイヘアの曲として聴いてくれている感じがして。受け入れてもらえてよかったなとホッとしました。新しいベーシックが1つできたというか、ここからまた試行錯誤していくんだろうなというきっかけが生まれましたね。

My Hair is Bad - 白春夢

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