雨のパレード 福永浩平、2021年に再認識したバンドの本質 今のモードで書きたかった“個性を肯定する1曲”

雨のパレード福永、個性を肯定する1曲

 雨のパレードがデジタルシングル「first step」を発表した。この曲は現在、本田翼出演のGLOBAL WORK「ウツクシルエットパンツ」のCMソングとしてオンエア中で、「自分のコンプレックスを自信に変えられる」という商品コンセプトを基に、「もっと自分を愛せるように」というメッセージが込められた、前向きな1曲となっている。また、外側に開かれた『BORDERLESS』と、内側を見つめた『Face to Face』という2枚のアルバムを経て、ライブを意識した「Override」と「ESSENCE」という2曲をリリースした2021年のモードを引き継ぎ、フィジカルに作用する軽快な曲調もCMをより華やかなものにしている。2021年の活動から「first step」に至るまでを、福永浩平(Vo)に語ってもらった。(金子厚武)

2枚のアルバムを経てバンドを“チューニング”した2021年

――2020年の末に行った『Face to Face』のリリースタイミング以来の取材なので、まずは2021年の活動について振り返っていただけますか?

福永浩平(以下、福永):ライブができない閉塞感があった中で、逆にライブで一緒に歌いたい、踊りたい、そういう曲を書きたいと思った1年でした。もともと2020年の1月に出した『BORDERLESS』がライブを意識して作ったアルバムで、でもツアーの途中でコロナ禍になり、結果的に中止になってしまって。その代わりに家で僕らの音楽を楽しんで欲しいと思って、『Face to Face』を出したんですけど、やっぱりライブで会いたい気持ちがより高まって、それで「Override」と「ESSENCE」を作り、その流れが今回の「first step」にも繋がってる感じですね。

――2020年の年末にサポートメンバー2人を加えた新しい編成でのライブを行って、その手応えもライブを意識した曲作りをするきっかけになったのでしょうか?

福永:まずは単純に「楽しいな」っていうのが大きかったです。最初は雲丹さん(雲丹亀卓人)とAAAMYYYに参加してもらって、ライブだからこそできるアレンジとか、決め切っていないからこそできる本番中の遊びとか、やっぱりこれがライブだなっていう感覚がより増しましたね。ライブが少なかったからこそ、生の良さをより実感できましたし。まりさん(ちゃんMARI/ゲスの極み乙女。)のときも、自分のイメージより楽曲をさらに伸ばしてくれた感じがしました。

――ちゃんMARIさんは同郷(鹿児島県)なんですよね?

福永:そうです。地元にいるときはお互いなんとなく知ってるくらいだったんですけど、まりさんの方が少し先輩で、先に上京していて、僕らが上京したタイミングでライブハウスを紹介してもらったりして。雲丹さんと最初に知り合ったのもまりさんを通じてだったので、そういう繋がりもあって、声をかけさせてもらいました。

――「Override」と「ESSENCE」はライブを意識したとのことですが、『BORDERLESS』のときとはモードが違いますよね。外向きな『BORDERLESS』と内向きな『Face to Face』を経て、今はすごくフラットなモードになっていて、温度感的には1stアルバムの『New generation』にも通じる部分があり、でもやっぱり『BORDERLESS』以降のフィジカルも感じられるというか。

福永:音的にはそういう感じだと思います。『BORDERLESS』のときは蔦谷(好位置)さんと一緒にやらせてもらうという挑戦があって、そこから僕らもDAWで曲を構築することをやり始めて、自分たちだけで作ったのが『Face to Face』でした。ただ、『Reason of Black Color』のときもそうだったんですけど、『Face to Face』の曲もライブでやると、「ちょっとやりすぎちゃったかな?」という感じがしたので、そこからもう一度チューニングをして、最近の曲を作っている感じですね。

――もともと音源志向が強いバンドだから、つい凝りすぎてしまうけど、それで言うと「Override」や「ESSENCE」は音源としての完成度とフィジカルに作用するバランスがすごくいいですよね。「Override」の80年代感にしても、前からバンドが持っていた部分をよりアップデートした感じがするし。

福永:ノスタルジックな音を使って曲を作りたいというのはずっとベースにあります。「Override」は特にニュージャックスウィングを意識していて、跳ね感も若干感じさせつつ、音色もいろいろ工夫して作りました。特にスクラッチの音とか、ドラムマシンの音色で年代感を出すというのは挑戦でしたね。

雨のパレード – Override(Official Music Video)

――オーケストラルヒットも非常に印象的です。

福永:そうですね。東京に出てきた10年前とかだったら笑っちゃうような、「何これ?」みたいな感じですけど、やっぱり流行りも変わってきて、90年代志向に近づいていくなかで、オーケストラルヒットも取り入れてオッケーなタイミングになってきたと思うから、絶対入れたいなって。音色は当時のKORGのプラグインを使って作りました。

――「ESSENCE」を作るにあたっては、何かポイントがありましたか?

福永:「Override」も若干やりすぎ感があったので(笑)、「Override」はよりポップス的というか、変にコアなことはせず、削ぎ落として作った感じですね。

――だから、『BORDERLESS』に入っていた「Ahead Ahead」や「Summer Time Magic」のような派手さこそないものの、「Override」も「ESSENCE」もライブで聴くとめっちゃ気持ちいいんですよね。

福永:そうなんですよね。僕もそう思います。

雨のパレード - ESSENCE(Official Music Video)

「ライブの大事さを再確認できたツアー」

――去年のEX THEATER ROPPONGIのライブ(『ame_no_parade TOUR 2021“ESSENCE”』ファイナル公演)で、「雨のパレードの人生で、一番特別な曲」と言って最後に「Tokyo」をやったじゃないですか? 「ESSENCE」には「Tokyo」に通じる温度感や音数の少なさも感じて、曲タイトル通りこういう曲が雨のパレードの「ESSENCE=本質」なのかなと感じました。

福永:たしかに、「ESSENCE」は最近の曲ではかなり音数が少ない、シンプルに作った曲ですね。「ESSENCE」というタイトル自体は歌詞に引っ張られて付けたんですけど、オケを聴いて歌詞を書いているので、潜在的にそういう意識もあったのかもしれないです。

――「ESSENCE」を書いたときは「自分たちの本質をもう一度見つめ直したい」と考えていたのでしょうか?

福永:まあ、常に考えてはいるんですよね。曲を作るたびに「これで合ってるのかな?」と考えていて、でも毎回そのときにできる自分たちのベストな答えを出し続けて、ここまで来た感覚なんです。

――『BORDERLESS』から『Face to Face』まで短いスパンでアルバムを2枚作ったのに対して、2021年はもう少しじっくりバンドのことを見つめ直せたのではないかと思うのですが、そのなかで見えてきた自分たちの本質について、言葉にしてもらうことはできますか?

福永:難しいですね……でもやっぱり、僕たちの活動は聴いてくれる人がいて成り立つから、僕らを好きでいてくれる人たちに一番喜んでほしいっていうのはありますね。ただ、自分たちが思う理想の自分たちと、ファンの人たちが思う理想の僕たちは必ずしも一致するわけじゃなくて、少し違う部分があったりもすると思うから、そこのバランスは常に考えています。

――まさに、「Override」や「ESSENCE」はそのバランスがすごくいい2曲だと感じました。「ESSENCE」リリース後の昨年秋には、先ほど話したEX THEATER ROPPONGIを含む、久々の東名阪でのツアーがあったわけですが、その手応えはいかがでしたか?

福永:「ESSENCE」のツアーは3カ所ともすごく印象的でした。初日の大阪が終わったあとは、サポートのまりさんと雲丹さん含めてメンバーみんなが感動したというか、「今日なんかすごかったね」みたいな感じになって。やっぱり、ライブはいいなって思いました。「生きていることの証明」というか、「生」を感じたんですよね。名古屋も東京もそれぞれ違うカラーですごく印象的で、ライブの大事さを再確認できたツアーでした。

――ちなみに、リスナーとしては2021年はどんな音楽に感化されましたか?

福永:Hiatus Kaiyoteのアルバム(『Mood Valiant』)はよかったですね。最近の僕らはDAWを使ったハイファイ志向な音源作りなんですけど、あのアルバムを聴くと、やっぱりフィジカルの良さがあるというか。ボトムが大きい、ぼわっとしたキックとかを、僕はローファイと感じるんですけど、その良さをすごく感じて。完璧なんだけど完璧じゃない良さというか、そういう部分を突きつけられて、最近のバンドの方向性がちょっと揺らいだりもしました。ホリー・ハンバーストーンのEP(『The Walls Are Way Too Thin』)も本当によくて、アナログシンセライクな感じというか、やはりボン・イヴェール的なアプローチはすごく好きだなって、自分の好みを再確認したりもしましたね。

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