ヒグチアイ、『最悪最愛』の楽曲をドラマティックに再現 バンド編成ワンマン東京公演レポート

ヒグチアイ、バンド編成ワンマンレポ

 シンガーソングライターのヒグチアイが3月11日、バンドセットでのワンマンライブ『HIGUCHIAI band one-man live 2022 [ 最悪最愛 ]』の東京公演を六本木・EX THEATER ROPPONGIにて開催した。

 コロナ禍になってからは、自主企画で昨年6月に東京と大阪で行ったTHE CHARM PARKとのツーマンライブ『HIGUCHIAI presents 好きな人の好きな人 - 入 梅 -』や、『ヒグチアイ 5TH ANIV 独演会[真 感 覚 ]』などピアノ弾き語りのライブが続いていた彼女。今回はドラムに伊藤大地、ベースに御供信弘、ギターに実妹のひぐちけいを迎えてのパフォーマンス。今年3月2日にリリースされたばかりの4枚目のオリジナルアルバム『最悪最愛』を、この編成でどう再現するかに注目が集まった。

 まずはアルバムでも冒頭を飾った曲、「やめるなら今」からライブはスタート。昨年9月から「働く女性」をテーマに3カ月連続でリリースされた楽曲の一つで、初心を忘れ、明日のビジョンも薄れかけていく人に対し、それでも「『やめる』のをやめるな」と背中を押す、一筋縄ではいかないヒグチらしい応援ソングだ。まるで鋼を打ち鳴らすような、力強い左手のシンコペーションと、その上で軽やかに舞う右手のオープンコードが壮大なサウンドスケープを作り出す。続く「前線」は一転、音の隙間を活かした幾何学的なアンサンブルがスリリングな、ポストロック調の楽曲。キメに合わせて照明がシャープに切り替わり、シアトリカルな空間を生み出していく。

ヒグチアイ(写真=Taku Fujii)

 息が詰まるような緊張感は、3曲目の「サボテン」で一気に解放される。レスリースピーカーを通したようなギターサウンドと、ハネるリズム、半音で下降していくベースラインがビートリッシュなポップチューン。弾むような曲調に、思わず会場からはハンドクラップが鳴り響いた。

 「今日はすごく楽しみにしてきました。一人でやるのも嫌いではないけど、『楽しい』とはまた全然違うというか。バンドメンバーがいるのって本当に嬉しいことで、もし私が演奏をストップさせちゃっても演奏は進んでいくというのが、本当に心強くて」と、ユーモアを交えながらバンドセットライブの楽しさを語るヒグチ。「私は今32歳ですが、30歳くらいになって発見した『新しい気持ち』で作ったこのアルバムからたくさん演奏しますし、ずっと歌っていけそうな古い曲も歌いますので、ゆったり楽しく、考えながら自分だけの時間にしてください」と挨拶した。

 もうすでに恋愛感情が過ぎ去ってしまった相手に対する、それでも変わらぬ感情を綴ったフォーキーなナンバー「ハッピーバースデー」、途中のゴスペルのようなコーラスワークが感動的な「火々」、弓で弾くウッドベースとE-Bowを駆使したギターフレーズが幻想的な響きを醸す「距離」と、その後も『最悪最愛』からの楽曲を披露。不倫をテーマにしたと思しき楽曲「悪い女」では、ハンドマイクでステージの端から端まで練り歩きながら、地声とファルセットを巧みに使い分け、真っ赤な照明の下で情念的な歌詞を歌い上げてみせた。

ヒグチアイ(写真=Taku Fujii)

 気づけばサポートメンバーはステージを去り、一人ピアノの前に座るヒグチ。悲しい歌を聴くことで、人は心に追った傷に気付きながら少しずつ強くなっていく。そんなことをテーマにした名曲「悲しい歌がある理由」を弾き語りで披露する。男性中心社会で、あらゆる人間関係の中で、女性としての生き方を模索するような、ヒグチらしいシニカルかつ優しい視点で書いたこの曲の歌詞は、男性である筆者の心も深くえぐる。続くバラード曲「ほしのなまえ」は2019年にリリースされた、前作『一声讃歌』から。〈迷うなら 足跡のない道を進んでゆけ〉、〈変わること怖がらないで 変わらないもの信じ続けて〉と記すこの曲も、名も無き人々に送るエールだ。いつの間にかステージ上で待機していたバンドメンバーが、最後のサビから一斉に音を鳴らし会場内は静かなカタルシスを迎えた。

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