DECO*27×ピノキオピー、ボカロ全盛時代に問う“個性の在り方” 世間と接続するために必要なバランス感覚

DECO*27×ピノキオピー 対談

両者が近年のボカロシーンに感じること

DECO*27 - アニマル feat. 初音ミク

ーーわかりますね。そして今回、アルバム『MANNEQUIN』“【Amazon.co.jp限定】商品のみ特典”として、ピノキオピーさんが「アニマル」をリミックスしています。

ピノキオピー:自分は過去に動物をテーマにした曲がいっぱいあって。その中に「動物のすべて」という曲があるんですけど、自分がイメージする動物の野性味をイメージしてダンサブルなビートで作りました。間奏の“どうぶつ どうぶつ”って囁きは絶対入れようと決めていました(笑)。

DECO*27:リミックスを聴いたときに、ピノさんらしさが出ていて。原曲の可愛い四つ打ちから、リフの強さを拾ってくれて。

ピノキオピー:「アニマル」を解体したら、これはリフものなんだって気がついて。繰り返した果てのカタルシスを作りたいなと思ったんです。原曲最後の“にゃーお うーにゃお”のフレーズが好きで。原曲以上に過度に入れてやろうって(笑)。

DECO*27:(笑)。

ピノキオピー:いきなり最初から“にゃーお うーにゃお”ではじめて(笑)。増やしましたね。

DECO*27:あれ、よかったですよね(笑)。今回、ピノさんには何も指定しなかったんですよ。ご自由にというか。ピノさんに「アニマル」のリミックスをお願いしたら絶対に“どうぶつ どうぶつ”入れてくるなって思いましたから。ちゃんと言ってくれていてさすがだなって(笑)。

ーー最高ですね(笑)。最近はボカロカルチャーが大きな盛り上がりを見せていますが、お二人はどのようにシーンを見ていますか? 

DECO*27:今もまたボカロ界隈が盛り上がっていますけど、盛り上がり方、仕組みは変わっていないんですよ。楽曲としていいものがアップされて、それに対して歌ってみたや踊ってみた、そしてイラストや動画などの二次創作をしたいっていうモチベーションが広がっていくかどうかなんです。でも、ふくりゅうさんもおっしゃられていましたがテクノロジーの進化として、2008年から比べると、当時はきちんとしたソフトや機材がないと創作活動できなかったのが、ぐんとハードルは下がりましたよね。結果、オリジナル楽曲を作る人も増えたし、二次創作として、別の表現をする方も増えました。昔と比べると全体的な人数感は増えましたよね。だからこそ、この盛り上がりもあるんだろうなって。

ーー二次創作されることによって、オリジナルの人気にも火がつきやすくなりますし、知ってもらえる可能性が広がりますよね。誰もがメディアになれる時代といいますか。ボカロ界隈はこの連鎖が上手く成り立っています。

DECO*27:そう、その仕組みは変わらないんですよ。

ピノキオピー:そうですね。それこそスマホで創作する人も増えていて。それを強みにしている人もいますし。ボカロに限らず、インターネットミュージック全体が広がりましたよね。そこにボカロは混同されているというか、なので、ボカロならではの面白さ、可能性をもっと広めたい、伝えたいと思っているんですよ。

ーーお二人とも、ボカロ愛が本当に強いですよね。

DECO*27:僕はいい意味でボカロに人生を狂わされましたから(笑)。最高にいい意味で幸せなんですけどね。

ピノキオピー:同じく(笑)。

DECO*27:感謝しかないです。かつ、活動を長くしているとDECO*27という存在を生み出してくれたボカロに対して恩返しをしたいなって思うようになりました。それこそ、ボカロが好きでDECO*27を見つけてくれた人にも恩返しをしたい気持ちが強くって。今のモードとしては、自分が良ければいいものをそのまま出すというよりか、自分がよくっても、それを楽しんでくれる人がいなかったら僕が考えている真意には到達できない思いがあるんですよ。

ーーなるほど。

DECO*27:クリエイターが世間と接続するって、作り手自身の考え方のバランスが難しいんです。そこには葛藤も生まれます。わかりやすいものにすると角が削れちゃうんですよね。角を削らないまま認めてもらえたら最高なんですけど。それはなかなか難しくって。クリエイター全員の悩みだと思います。

ピノキオピー:DECOさんは“角”と言っていて、僕は“臭み”って言っています。その人の曲を聴いたときにその人だってわかる感じというか。世間と接続すると食べやすくなるのですが、自分らしさがなくなってしまうんです。でも、食べやすくなると誰でもいいってことになるんですよ。強度がなくなってしまう怖さがあって。そこで、自分と世間とのバランスをいかにとるかは課題ですよね。難しいです。

ーーそれこそ、歌声としてボーカロイドを活用すると、どこで他者と差異を出すかがアイデンティティーとして大事ですもんね。

ピノキオピー:僕自身ボカロがないと音楽活動を続けられなかったし、僕自身が持っている“臭み”を内包してくれる存在なんですね。僕が歌ったら強すぎる“臭み”をチューニングして調和してくれるのがボーカロイドなんです。感謝しています。

DECO*27:ピノさんの歌詞と初音ミクという存在はマッチしていますよね。

ーーそれこそ、サンプラーがあったらから非ミュージシャン発信でヒップホップ文化は広がって。エレキギターがあったからロックやパンクは生まれて。ボカロがあったから、ボカロ曲や二次創作カルチャーが生まれた。大事なのは、ボーカロイドはソフトであり楽器であり人ではないということなんですよね。ゆえに、歌ってみたや様々な二次創作が生まれることとなったという必然的な物語がある。しかも、日本発で世界へ誇る新たなユースカルチャーが生まれたことが感慨深いです。

DECO*27:そうですね。正直、ここまで長く続くと思っていませんでしたから。結局、僕らがやっていて面白いので、それを面白がってくれる人たちがいる限り続くんでしょうね。ファン層も時代に応じて入れ替わっているとは思うんですよ。でも、音楽として面白い存在であれば、まだまだ続いていくんでしょうね。

ーー音楽はあらゆるカルチャーに溶け合うことができますからね。

ピノキオピー:ボカロ本来の芯の部分を見てもらいたいですね。でも、歌ってみたや踊ってみたなどの広がりによって、接続できるポイントがたくさんあるからこそ、新しいリスナーが入って来やすいんですよね。

「ボカロの曲は、まだまだ見つけてもらう側」(DECO*27)

DECO*27 - ヴァンパイア feat. 初音ミク

ーー発明ですよね。みんながみんなで文化を作り上げているという。しかも、別軸でなんですけどインターネットミュージックとして、海外で人気となっている“ハイパーポップ”という打ち込みでのロックとダンスミュージックが織り混ざったジャンルとも、実はボカロソングは近づいている面白さがあって。出所は全く関係なかったんですけどね。

ピノキオピー:それは面白いですね。流行っているからやっているんじゃなくって、でもやり続けていたらいろんな接点が近づいてくることもありますよね。逆にいうとボカロ文化での高速ロックの時代、俺どうしようかなって思っていましたから(苦笑)。

DECO*27:ああ、なるほどね。

ピノキオピー:高速ロック、無理無理って背を向けていましたから(苦笑)。そこは敵わないから打ち込みを頑張ろうってシフトしましたね。そして、今たまたまチューニングが合っているのかなって。あと、僕もともとサブカル好きではあるんですけど、音楽の入り口はスピッツなんですよ。

ーーそうなんですね。

ピノキオピー:メジャーな部分での接続にも興味があるんですが、自分ではひねくれてなかなかできないこともあって。DECOさんはずっとできちゃう側なんですよ。屈託無くできる人なんで、憧れがあって刺激を受けています。

ーーちなみに、長く表現者として作品を定期的に発信し続けるコツを、お二人はどう考えていますか?

DECO*27:僕は好きだからやっているだけなんですよ。まだまだミクに歌って欲しい曲があるんですね。それこそ「ヴァンパイア」を書いたときも「うちのミクこういう可愛い系もいけるのね」って思いましたから。それで「シンデレラ」や「アニマル」へチャレンジできましたし。最初にミクの声を聞いたときに「すごくいい声」だって受けた衝撃が膨らみながら今もひきずっているんですよ。

ピノキオピー:僕も楽しんでやってますね。最初に動画投稿したときにいただいたコメントで褒められた経験が嬉しくって。今でも自分のアイデアにレスポンスが来ることが楽しくてしょうがないんですよ。自分がやりたいことと、周りがいいねって言ってくれることの実験を繰り返しているんです。それを結びつけてくれる存在がボカロだったんです。

ーーお二人ともですが、YouTubeへ新曲動画をアップする際、サムネイルから、動画、デザインまで、トータルでイメージの統一へこだわりの深さを感じます。音楽だけでなく、イラストや動画などなどトータルでひとつの作品であり、それら楽曲をリスナーに届けるところまでが作品という意識があったりするのでしょうか?

DECO*27:めっちゃ意識していますね。基本的に自分が生活をしている範囲内でボカロの曲を聴く機会ってないんですよ。たとえば、どこかに遊びに行ったときにボカロの曲が流れていることはほとんどないんです。ボカロの曲は自分が意識して能動的に聴くことが多いんですね。まだまだ見つけてもらう側なんですよ。

ピノキオピー:なるほどね。

DECO*27:音楽の内容の前に、昔でいうジャケ買いというか、このアートワークの雰囲気、タイトルだったら聴いてみたいと思わせてクリックさせるところまでを考えないと。僕自身がリスナーのときもそうなんですよ。音楽を聴いて判断してもらう前に、タイトルやビジュアルで再生ボタンを押すか否かが決まっちゃうんです。聴く聴かないはその後なんで。なので、できるだけ中身と親和性が高く、リスナーに興味を持ってもらえるような導線、入り口を考えますね。曲を書いているときにMVやサムネイルのイメージも思い浮かべたりしますから。

ピノキオピー:僕が音楽に興味を持ったきっかけは、音ももちろんですけどアートワークが好きだったんですよ。スピッツの歌詞カードやアートワークって可愛いんです。そんなスタイルが好きすぎて。小学生の頃に架空のアルバムをノートに書くってことをやっていました。

ーーおもしろい。

ピノキオピー:こんなジャケットがあったらいいなとか、こんな曲順で、ここでバラードが欲しいよな、とか。妄想するのが大好きで。そんなフェチズムが今もあってビジュアルやパッケージへのこだわりに結びついています。スピッツのジャケって毎回カラーが変わるんですよ。印象が違う方がいいなって刷り込まれていて。そんな影響が強かったりしますね。DECOさんは曲を作っているときにサムネイルやMVも考えるって言ってましたけど、僕は曲を作っているときは全く考えていなくて、完成してからアートワークなどは考えますね。それぞれモードを変えて別人格で創作しているのかもしれないです。でも「この絵だったらいい曲に違いない!」って思わせたいのは一緒ですね。

ーーそんな意識を持たれているからこそ、長く表現をし続けられるのでしょうね。表現すること自体だけでなく、さらに届けることの大事さ、楽しさを実感しているという。お二人とも共通点がありそうです。

ピノキオピー:表現方法を変えたり、常に新しくありたいと思っていますね。

DECO*27:僕は“古いものになってしまう”ということに対して恐怖心があるんですよ。常に自分を更新して新鮮でありたいんです。でも、新鮮すぎると世間との接続が折り合い取れなくなってしまうので、バランスが大事ですね。やっぱり昔っぽいことをやるとしても、成長後の今を取り入れたいんです。それがまさにアルバムでの「パラサイト」と「ジレンマ」なんですよ。

ーー結びついてきますね。

ピノキオピー:「パラサイト」はDECOさんのカードにおいて、落ち着き目の曲で最高を更新したなと思っています。

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