サザン、キャンディーズ……Kan Sanoがペンタトニックスケールから解説 『Kan Sano Talks About Pop Music』第5回(前編)

Kan Sanoがサザン、キャンディーズの名曲を解説

革新的だった1曲「いとしのエリー」

 70年代でもう1曲取り上げたいのが、サザンオールスターズ「いとしのエリー」です。1979年の曲なので、ほぼ1980年代と考えてもいいと思うんですけど、これがかなり革新的で、この曲からいろいろ変わっていったんじゃないかなと考えています。まず、リズムがかなり細かくなっていて、キャンディーズ「年下の男の子」と比べて聴いてみてほしいんですけど、十六分音符が増えているんですよね。これは、のちにAORと呼ばれるようになった音楽とか、モータウンから始まったお洒落なリズムとか、アメリカの音楽からの影響だと思うんですよ。60年代にはなかったものです。

 16ビートって、ファンクが生まれたことで70年代から流行り出したんですけど、ペンタトニックスケールのメロディを16ビートのリズムに乗せるというのは、それまではあまりなかったと思うんですね。それを始めたのがサザンオールスターズ「いとしのエリー」なんじゃないかなと思っています。

サザンオールスターズ「いとしのエリー」

サザンオールスターズ以降のメロディ革新

 キャンディーズの時代も、バンドは結構ファンキーな音作りをしているんですけど、メロディに関しては、あくまで日本のそれまでの作り方を続けている感じなんです。でもサザンオールスターズになってくると、サウンドだけじゃなくて、メロディにも明らかに洋楽の影響が窺えるというか。そこが大きな違いだと思います。

 16ビートのメロディになると音数が増えるので、歌詞の言葉数が増やせるんですよね。それまで8小節で2行ほどしか歌えなかったけど、ビートが細かくなることで、4行分くらい歌えるようになる。短い間にも歌詞の情報量を増やせるんです。サザンオールスターズって、歌詞のドライブ感も楽曲全体のグルーヴにつながっていると思うので、そういう面でも画期的だったと思いますし、「いとしのエリー」はそれをペンタトニックスケールに乗せてやっているのが面白い。リズムは複雑なんですけど、ペンタトニックスケールだと馴染みやすいフレーズが作りやすいので、キャッチーさを保てるんですよね。当時まだ16ビートに慣れていなかった日本のリスナーでも、ノリやすいメロディになっていると思います。

『Kan Sano Talks About Pop Music』バックナンバー

第1回(前編):The Beatlesを解説
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第2回(前編):スティービー・ワンダーから学んだピアノ奏法
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第3回(前編):ディアンジェロがもたらした新しいリズム革命
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第4回(前編):山下達郎が奏でるハーモニーの秘密を実演解説
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