ザ・ウィークエンドらも魅了する、R&B/ヒップホップとシティポップの親和性 海外で引用される理由は?

 今月7日にリリースされたザ・ウィークエンドの新作『Dawn FM』で、亜蘭知子の1983年作「Midnight Pretenders」をそっくりそのまま引用した楽曲「Out Of Time」が話題を呼んでいる。

 竹内まりやの「プラスティック・ラブ」、松原みき「真夜中のドア〜Stay With Me」をはじめとした日本のシティポップが世界中でムーブメントを巻き起こしているのは数年前から周知の事実であり、ザ・ウィークエンドの耳にそのメロディが届いていることはなんら不思議ではないが(彼は三池崇史監督のファンでもあり、日本映画から大きな影響を受けたと明言している)、この「Out Of Time」のインパクトが国内外でのブームをさらに後押しすることは確実だろう。

 2010年代に起こったヴェイパーウェイブ/フューチャーファンクの盛り上がりでも、主に80年代の日本のシティポップがサンプリングとして多用されたこと。また、偶然か否か、一時期海外のYouTubeレコメンドに「プラスティック・ラブ」が頻繁に登場したことなど、シティポップムーブメントのきっかけについては各所で語り尽くされているのでここでは少し割愛。本稿では、2022年の音楽シーンを代表する作品となるであろう『Dawn FM』の世界とも並行しつつ、現在のR&B/ヒップホップとシティポップの親和性について掘り下げていく。

The Weeknd - Out of Time (Official Audio)

どこか遠い地の香りがする、実態のないロマンティック

 まず押さえておきたいのは、1970年代後半〜80年代にかけて隆盛したシティポップが、同時代にアメリカで流行していたR&B/ソウルの多大なる影響下にあったこと。当時のブラックミュージック事情といえば、70年代前半のニューソウル期とディスコの変遷を経て、より人種間を超えたポップでメロディアスなダンスミュージックが誕生したころ。ロックとジャズがミックスされたAORやブルー・アイド・ソウル、テクノロジーの進化とともに洗練されたサウンドを生み出したブラックコンテンポラリー(通称ブラコン)といったジャンルが代表的だ。

 日本人クリエイターたちは、そんな遠いアメリカの地の音楽と風景を、経済成長を遂げた東京に投影してオリジナルサウンドを確立していった。東京そのものでありながら、どこか漂う遠い地の香り。永井博や鈴木英人らによるアートワークも相まって、例え一度も訪れたことがなくてもカリフォルニアの地のそよ風すら音楽に乗せて届けてくれた。オシャレで、アダルトで、キラキラとときめく……これらの曖昧な言葉は、どこか抽象的でもあるシティポップのロマンティックさを表すのにピッタリな形容詞だったのだ。

 今回発表されたザ・ウィークエンド『Dawn FM』のコンセプトは、架空のラジオ局。案内人役を務めるのは、彼とご近所づきあいもあるジム・キャリーだ。

 「君はあまりに長い間暗闇の中に居続けた。今こそ光の中へと歩き始めるときだ」。イントロで語られるジムの言葉は、コロナ禍の世界について言及しているようでもあり、前作『After Hours』におけるザ・ウィークエンド自身とも呼応している。

 ラジオが流れるのはトンネルの中の渋滞で、そのトンネルは煉獄を意味するという。このアルバムは、その先に待ち受けている光=天国に向かうまでの刹那のダンス空間。アルバムの発売に合わせてTwitchのAmazon Musicチャンネルなどから生配信されたライブ映像では、ダンスフロア上でアルバムの世界=“103.5 Dawn FM”の世界が再現されていた。ヘヴィな題材の中で鳴り響く軽快なダンストラックはサウンドこそ80sだが、懐古主義というよりは宇宙のFMのようであった。

 「Out Of Time」がもしアメリカで馴染み深いブラコンの引用であったら、ザ・ウィークエンドにとってはあまりに直接的な懐かしさになってしまう。「Midnight Pretenders」の持つシティポップ特有のロマンティックさの方が、『Dawn FM』の浮遊空間にしっくりとハマったのだろう。

The Weeknd - 103.5 DAWN FM

近年のR&B/ヒップホップに宿るシティポップとの親和性

 「Out Of Time」以外にも、LA出身の新人・ジュヌヴィエーヴによる2020年の「Baby Powder」 (杏里「Last Summer Whisper」)、大ネタ使いが多いハーレムのラッパー・Smoke DZAの「No Regrets feat. Dom Kennedy prod. by Harry Fraud」(大橋純子「I LOVE YOU SO」)、モダンGファンクの担い手であるXLミドルトンとデルマー・ザビエル7の「Player Piano」(秋元薫「Dress Down」)など、シティポップがR&B/ヒップホップ界隈で用いられた例は近年増加傾向にある。タイラー・ザ・クリエイターの2019年作「GONE, GONE / THANK YOU」も、90年代の作品ではあるが山下達郎「Fragile」をサンプリングしていた。

 また、直接的な例ではないが、R&Bシンガーのガラントは「プラスティック・ラブ」そっくりのイントロをあしらった「Julie.」を昨年発表。大学時代に日本語を学び、ジブリ映画から着想を得た「Miyazaki」という楽曲もあるほど親日家な彼のことなので、おそらく確信犯だろう。

 過去に日本在住経験があり、影響を受けたアーティストに矢野顕子を挙げるデヴィン・モリソンも、漫画『SLAM DUNK』の登場人物をタイトルに冠した楽曲「AYAKO」がある。彼が昨年に関わったシディベとハーブ・アルパートとの「Ready Enough(feat. Devin Morrison, Herb Alpert)」、マセーゴと共演した「Yamz」などにシティポップを結びつけるのも、そこまで的外れではないはずだ。

Gallant - Julie. (Audio)
Masego, Devin Morrison - Yamz

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