ドミコが更新していくロックのダイナミズム 強烈な熱狂を巻き起こした『血を嫌い肉を好むTOUR』ファイナル

ドミコが更新するロックのダイナミズム

「かっけぇな、このバンド!」

 本編終了直後、斜め後ろから聞こえてきた声だった。

 もっとも私が座っていたのは2階の関係者エリアなので、発言の主もゲストで入ってきた関係者。見た感じはバンド仲間だろうか、ドミコの二人をそれなりに深く知っている様子であり、初めて観ての感想ではなさそうだ。でも、だからこそ、その言葉には心底納得した。以前の彼らの、ローファイだけど妙にポップな軟体動物みたいな佇まいを知っていればいるほど、この日の彼らには「かっけぇな!」と声を上げたくなってしまうのだ。

 ニューアルバム『血を嫌い肉を好む』を携えて始まった全国12カ所のワンマンツアー。ファイナルとなる新木場スタジオコースト。バンド史上最大のキャパで、オープニングSEと共に虹色のライトが点滅。さらにストロボ、ステージに無数に立つLEDライトなど、大バコによく似合う照明が続々と現れる。ただし、長谷川啓太(Dr/Cho)とさかしたひかる(Vo/Gt)の二人はいつも通り飄々とステージへ。べつになんでもないです、みたいな風情で演奏が始まっていく。素っ気のなさは以前と変わらない。

 が、違うのは音圧だ。一曲目は「猿犬蛙馬」。新作の特徴でもあるハードロック色が特に強い曲で、こんなにゴリゴリと豪快に幕を開けるドミコは初めて。ドラムの他にギターとベースの低音もはっきり聴こえるが、さかしたがオクターバーとルーパーを駆使して一人二役をこなしており、生々しいリズムと立体的な低音とうなるエレキギターが、紛れもないロックバンドのアンサンブルを作っている。さらに間奏部分では音源にはないフリーセッションが始まり、長谷川はBPMを大胆に変更。釣られるようにさかしたは動物的な雄叫びを上げる。いきなりの熱狂と狂騒。すさまじいエネルギーとエモーションが溢れ出している。

さかしたひかる

 エモーションと書いたが、じゃあ何を歌っているのかといえば、「猿犬蛙馬」にあるのは〈ぷりどーん〉とか〈しゃるうぃーだんす!〉といった響き重視の歌詞である。深い意味があるとは思えない。ただ、その言葉たちは、激しいサウンド、なまめかしいメロディ、情熱的な歌い方が加わることで熱を帯びる。もっといえば、さかしたが繰り返す〈ぷりどーん〉は何か過激なアジテートのようにも聴こえてくる。人を焚き付けずにはいられない、扇情的な力を持った歌と声。そういうものを堂々と投げかけるシンガーの役割を、今のさかしたは自覚的に担っているのだろう。意味や真意はともかく、何かとても熱いモノを全力でぶつけまくっているのは事実なのだ。

長谷川啓太

 変わったのはさかしたの熱量だけではない。続く「とけました」で光るのは長谷川のドラミング。ハードロックとサイケの中間のような、ねっとりしたギターがメインの曲だが、しかしドミコは複数メンバーの中でギタリストが花形という編成ではないのだ。ギターソロがあればドラムソロで返すのが当然と言わんばかりに、さかしたが弾きまくった後は長谷川がものすごい手数のプレイを披露。なるほど、どんな曲調であっても、長谷川のビートが曲を引き締め、中弛みを許さないのだと納得する。二人きりで過不足がない。二人のバランスが対等で、互いのプレイに呼応しながら熱狂が続いていく。こんなに生々しく二人のやりとりを感じたのは、たぶん初めてのことである。

 3曲目「ペーパーロールスター」は2019年の曲。ガレージ系の軽快な響きが今となれば逆に新鮮だ。おそらく3年前まではこれがドミコのスタンダードだったし、軽やかなユーモア、サクッと終わる後腐れのなさも込みでロックンロールショーが成立していた。重力を持たない、掴みたくても掴めない、フワフワした佇まいが魅力だったのは事実なのだ。

 だが、コロナ禍を挟んだこの2年で彼らは急速にビルドアップした。ギターにハードロックやブルースの厚みが加わり、歌には爆発的なエモーションが入ってきた。豪快にギターを弾き倒し、低音の迫力も存分に追求し、さらにタイトなリズムを重ね合わせ、二人でここまでダイナミックなことができると主張するようになった。歌詞に深い意味は感じないと書いたが、このステージから伝わるのは、間違いなく「演奏のすごさ」と「歌の熱さ」なのである。

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