石崎ひゅーい、アコースティックで見せた原曲とは異なる表情 久々の全国ツアーを経てアニバーサリイヤーへ

石崎ひゅーい、アコースティックツアーレポ

 石崎ひゅーいの全国アコースティックツアー『石崎ひゅーい Tour 2021「for the BLACKSTAR」-Acoustic Set-』。このツアータイトルは最新曲「ブラックスター」から来ているもので、「ブラックスター」がデヴィッド・ボウイへの想いを歌った曲であることに因み、開演前にはデヴィッド・ボウイの『★(ブラックスター)』がBGMとして流れていた。そしてライブ本編は「ブラックスター」からスタート。アッパーでビートの効いた原曲に対し、テンポを落とし、バラード調に変え、ローズピアノの音色とともにしっとりと届けていく。アコースティックツアーならではのアレンジを早速1曲目から印象付けた。

 全18公演のツアーは石崎にとって久々の全国ツアーだった。開演前、彼を迎え入れる観客の拍手は大きく、その音量から誰もがこの日を待ち焦がれていたことが読み取れる。2曲目「パレード」では自然と手拍子が発生し、それに応えるように、続く「第三惑星交響曲」では石崎がアウトロでフェイクを加える。電圧に頼ることのできないアコースティック編成では、普段のバンド編成よりも歌が裸になる瞬間が多い。さらに、この日の会場、横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホールは音の響き方としてはコンサートホールよりも劇場に近く、残響時間が比較的短い。ゆえに、スケールを上昇するときの息の吹き込み方、マイクを少し離れたところから歌われるフェイクなど、一つひとつのアプローチがかなり生々しく聞こえるため、歌がより剥き出しに感じられた。また、歌われている言葉がより聞き取りやすいため、石崎の書く曲には星に因んだ曲が多いことに改めて気づかされたりもした。何万光年も離れたところにあるのに、いつでも私たちを見守ってくれているような親密な光。世界で最も遠い隣人といえる“星”というモチーフに石崎が託した憧れやロマン、やわらかな本音が歌や言葉を通じて流れ込んでくる。

 ライブは、山本健太(Key)との2人編成で届けられた。山本が石崎のツアーに参加するのは今回が初めてだが、以前にも石崎からオファーしたことがあったらしく、このツアーで念願が叶った形とのこと。親交を深めるため、各地のMCで「朝はパン派? ごはん派?」「夜は湯船派? シャワー派?」といった会話をしたものの、意見が分かれがちで、ことごとくすれ違っていた、とユーモアを交えながら明かしていた。そんな山本とともに鳴らすことで、ミニマムな編成でもカラフルなアレンジが実現可能に。「ピノとアメリ」、「ひまわり畑の夜」といったバラードは歌心を素直に伝える演奏で届けた一方、「ダメ人間」、「1983バックパッカーズ」はウエスタンのムードとともに談笑するように鳴らし、「おっぱい」では〈座っちゃえよ席が空いてんだから〉のフレーズに合わせて石崎が山本の座っている椅子に腰掛けるなど、リラックスした雰囲気がステージングにも表れていた。アレンジ面で特に印象的だったのが「ピーナッツバター」。それまでの空気を変えるように鳴らされた陰りのあるコード、グッと落とされたテンポ、イントロのハーモニカから哀愁が漂っていて、疾走感溢れる原曲とは異なる表情を見せた。

 MC明けの「さよならエレジー」では、この曲の代名詞といえるギターカッティングに、同じリズムで動くピアノが重なることで立体感が生まれていく。その勢いのまま突入した「夜間飛行」では疾走感に比例するようにボーカルの熱量も増し、感情を溢れさせるように、終盤では石崎がシャウトをあげる場面もあった。そして「心の中で一緒に歌ってください」と前置きされたのは「花瓶の花」。今度はその歌声に願いをこめていく。

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