なるみや、共感を超えて広がり続けるバズの正体 救われない感情さえポップに昇華する遊び心

なるみや、ポップに昇華する救われない感情

 シンガーソングライター なるみやの1st EP『まどろみの記憶』が3月26日にリリースされた。なるみやにとって初のフィジカル作品となる本作は「永眠のすゝめ」「醜形恐怖症」「死が僕らに恋してる」のほか、新録2曲を含めた全5曲を収録。パッケージはミニ絵本仕様となっており、その内容はなるみやの音楽的魅力を存分に感じられるものとなっている。

 TikTokに投稿したデモ音源「闇が深めなファミリーマート」が1日で100万回再生に達し、一躍その才能が知れ渡ったなるみや。SNSでバズを生み出したアーティストの多くが、その後にヒットを続けられず苦戦するものだが、なるみやはそれ以降もバズを連発。「醜形恐怖症」のMVは1,700万回再生を突破、「可愛いあの子が気にゐらない」のMVは合計2,000万回再生を超えるなど、大きな反響を呼び続けている(2025年3月現在)。現在TikTokのフォロワー数は27万人、YouTube登録者数は17万人超えと、いま最も注目される新世代アーティストの一人だ。

可愛いあの子が気にゐらない - なるみや

 そんななるみやの音楽の魅力は、遊び心あふれる打ち込みサウンドと、それに乗っかる独特のテーマ性を持った歌詞だろう。

 たとえば、本作にも収録されているなるみやの代表曲「醜形恐怖症」は、自身の容姿にコンプレックスを抱く主人公の思いを歌った曲で、歌詞には〈つまり顔面失敗作の僕だから/一生報われないのです!〉や〈少女漫画の最後笑うのは/綺麗な顔したヒロインだから〉といった卑屈なフレーズが並ぶ。しかし、そのサウンドにはキュートさがあり、ピアノを主体としつつもさまざまな音を駆使した乙女心あふれる音世界が繰り広げられる。何度も入っているガラスを割る音は、鏡に映る自分の姿が気に入らず割っているかのようで、聴いているだけで主人公像をいろいろと想像したくなる作りだ。

醜形恐怖症 - なるみや

 こうしたサウンドと言葉の魅力は、本作でも遺憾なく発揮されている。1曲目「だって、優等生」は、目まぐるしく展開するテーマパークのようなサウンドが印象的。サイレンの音など、さまざまな音を取り入れた賑やかな音作りが楽しい。〈ああ、自由に生きる君が私よりも/幸せにならないでね!〉といった毒っ気のある言い回しも、ファンタジックなサウンドがうまく中和しているため重さを感じさせない。

だって、優等生 - なるみや

 目覚まし時計の音から始まる「永眠のすゝめ」は、まるで夢の中にいるかのような音作りが面白い。歌詞は不登校や引きこもりに焦点を当てた救われない内容。しかし聴こえとしては軽やかで、いつでも誰でも聴けるような取っつきやすさがある。同性愛を描いた代表曲「可愛いあの子が気にゐらない」などでもそうだが、なるみやの音楽は、ある意味で重たくなりそうなテーマを扱っていながらも、ユーモアのある緻密なサウンドによって、誰でも聴きやすい開かれたポップソングに昇華されていると感じる。そのポップな感覚があるからこそ、なるみやの作品は多くの人々に届いているのだろう。

永眠のすゝめ - なるみや

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