鈴木鈴木、Vaundy、変態紳士クラブ……ダンスミュージックだけじゃない、TikTokで人気のチルソング

 “TikTokでのバズをきっかけに楽曲が広く認知されるようになる”というヒットの形は今や定着している。TikTokは短尺の動画を手軽に投稿できるプラットフォームだ。そのなかで音楽は動画のBGM、あるいは“歌ってみた”、“演奏してみた”系動画の題材として使われるケースがほとんど。なかでもダンス動画は気軽に真似できる振り付けとともに爆発的に拡散される傾向にある。最近では、新曲プロモーションの一環としてユーザーからの動画を募る企画を行うアーティストが増えてきており、アーティスト/スタッフサイドもTikTokの動向を注視していることが窺える。また、曲調によってはVlog系動画での拡がりが見られることにも注目したい。

 踊れる曲というと軽快なテンポの明るい曲をイメージしたくなるが、必ずしもそうとは限らない。例えば、今年8月5日のリリース以降じわじわと注目を集め、9月にはビルボードのJAPAN Heatseekers Songsで2週連続首位を獲得した(※1)鈴木鈴木「海のリビング」は、ミディアムテンポでリラックスした雰囲気の曲だ。「海のリビング」は、“4人乗りの車を走らせて海へ向かう”という青春の1ページを切り取った一曲。ラップや台詞を交えた構成によって、曲に登場する男女の飾らない温度感、情景が想像しやすくなっていることに加え、友達同士の賑やかさの中には〈でもずっとは無いね この気持ち無くさぬように〉と切なさも漂っている。実の兄弟である鈴木十夢・鈴木聖七による繊細なハーモニー、エアリーな声質はその切なさを増幅させるもので、この曲が描く光景を“もう過ぎた(叶わなかった)青春”として受け取った大人たちや、コロナ禍によって夏の思い出作りを我慢せざるを得なかった(日常が特別に変わってしまった)若者たちの心をギュッとさせた。

海のリビング – 鈴木鈴木【Official Music Video】

 TikTokで主に使用されているのはサビではなく2番Aメロの前半だ。この箇所は、〈きんきんに冷えたコーラ〉→栓を開けるしぐさ、〈車のナンバー〉→ハンドルを回すしぐさ、〈はいチーズ〉→シャッターポーズ/ピースサインと、ジェスチャーで表現できるモチーフが盛りだくさん。冒頭の台詞を口パクすることで動画作成者ごとの個性が出やすいのもポイントが高いだろう。

 「海のリビング」はキャッチーな振り付けとともに拡散されていったが、ダンス動画だけではなく、Vlog系の動画にも使用されていた。同楽曲に通ずるアンニュイな雰囲気のある曲で、Vlog系の動画で使用されることで広まっていった曲といえば、Vaundy「napori」、変態紳士クラブ「YOKAZE」も記憶に新しい。「napori」は、恋人との時間の気怠い甘さや不安を体現したスローナンバー。サビの歌い出しは〈縁そっとflight〉と、意味が分かりやすいワードではなく響き重視の印象があるが、2人の間に流れる時間、曖昧な空気が表現されているようで、言葉の意味を越えたところで“何となく分かる”という感覚を呼び起こしているところが不思議だ。

napori

 「YOKAZE」は、夜の高速を車で走りながら内省する人の心模様を描いた1曲。落ち込んだり悩んだりしつつも最終的には〈ただ争ったっていいだろこれは俺の人生さ〉と自分を奮い立たせる等身大の主人公像がリスナーの共感を呼んだ。トラックには打ち込み、ストリングス、アコースティックギターなどが用いられていて、凛としたサウンドが夜特有の空気感を連想させる。

変態紳士クラブ – YOKAZE (Official Music Video)



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