声優と歌謡曲、なぜ相性が良い？　雨宮天らカバー作品から聴き解く、時代性さえも表現する歌声

曲の時代性さえも表現する声優の力

　声優がキャラクターソングとして歌謡曲を歌うことは以前からあったが、キャラクターではなく企画として歌謡曲を歌ったアルバムもいくつかリリースされている。松田聖子がデビュー40周年を迎えた2020年には、冒頭で触れた通り人気声優たちが松田聖子の楽曲をカバーした『VOICE～声優たちが歌う松田聖子ソング～』がリリースされた。男女それぞれで作品が発表され、『Female Edition（女性声優編）』には田村ゆかり、豊崎愛生、内田真礼、佐倉綾音、麻倉もも、伊藤美来が参加。『Male Edition（男性声優編）』には梶裕貴、野島健児、松岡禎丞、古川慎、石川界人が参加して注目を集めた。

　中森明菜、岡田有希子、荻野目洋子など、80～90年代を代表するヒット曲を数多く生み出した作詞家・売野雅勇がプロデュースを手がけた、「昭和歌謡×声優」をコンセプトとしたアルバム『ネヴァーランド -Voice Actor×売野雅勇-』には、山寺宏一、森川智之、野島健児、内田彩、木村昴、田所あずさ、仲村宗悟が参加し、昭和の香り漂う五反田のスナックで発売イベントが行われたことも話題になった。

　そして、サンライズミュージックが制作したWEBアニメ『歌浴曲（かようきょく）ウォーズ』では、梶原岳人、三上哲、関智一らがキャラクターとして沢田研二「勝手にしやがれ」、ジュディ・オング「魅せられて（エーゲ海のテーマ）」、久保田早紀「異邦人」などを熱唱。視聴者が一緒に楽しめるカラオケバージョンの動画もアップされている。

　声優による歌謡曲カバーは、単に当時の曲をカバーしただけにとどまらない。声優の声は、歌詞に込められたものだけでなく、その曲の持つ空気感や時代性さえも表現している。前述した雨宮のカバーアルバム』は、歌い出した瞬間その時代にタイムスリップした感覚に陥るほどで、歌謡曲の伝道師として声優ほど適格な存在はいないと思わせてくれる。決してリアルで体感することができないものだからこそ触れたくなる、昭和レトロに対する渇望と、当時の歌謡曲の空気感を繋ぐ架け橋として、声優がカバーする歌謡曲は実にリアルな魅力を放っている。