オーイシマサヨシは人を楽しませるプロフェッショナルだ パシフィコ横浜と配信視聴者を魅了した『エンターテイナー』公演

オーイシマサヨシ『エンターテイナー』レポ

 オーイシマサヨシが9月19日、パシフィコ横浜国立大ホールにてワンマンライブ『エンターテイナー』を開催した。オーイシはこの日、Sound Scheduleとしてデビューした2001年からちょうど20周年だったため、会場にはお祝いムードが漂っていた。また、今年1月に開催したオンラインライブ『世界が君を必要とする時が来たんだ』と同様に、配信チケットを1000円という破格の値段で販売していたのもあって、この日の公演では会場内のLEDにコメントを送ることができるハッシュタグに「#オーイシ1000円」が設定されていた。開演前にはレーベルメイトになったばかりの花澤香菜が影ナレとしてサプライズ登場するなど大きな賑わいを見せ、「#オーイシ1000円」のハッシュタグが早くも日本のTwitterでトレンド入り。公演中もツイート数は伸び続けていた。

オーイシマサヨシ(写真=大参久人)

 1曲目は「エンターテイナー」からスタート。舞台上の幕から顔を覗かせ、椅子に座りながら勢いよく歌いはじめたオーイシ。衣装がまさに“THE エンターテイナー”な格好で、観客に語りかけるような表情で歌う様子が印象的。曲中でスタッフが持ってきた絵に描かれた箒に跨り、飛んでいく仕草を見せてみる。その手作り感が楽しい。〈塞ぎ込んだ日常をどうか鮮やかに壊して〉と歌う彼の目には、どことなく切実な思いを感じた。

 続いては「インパーフェクト」を披露。楽曲の疾走感が増し、ステージが湧き上がる。途中でギターソロが力強く飛翔すると、二段あるステージの上段でオーイシが歌い、歌声も熱を帯びていく。勢いそのままに「世界が君を必要とする時が来たんだ」を熱唱。スクリーン映像とのコンビネーションもばっちりで、地球の映像をバックに配信視聴者のコメントがリアルタイムで流れていく。この会場が世界と繋がっている感覚を覚えた。

 歌い終えるとMCコーナーへ。「改めましてこんばんは、アニソン界のおしゃべりクソメガネことオーイシマサヨシです」といつもの調子で話し始める。その後、ハッシュタグが日本のトレンドの2位であることに触れ、順位を競い合ってるのがももいろクローバーZとNiziUであることに驚いていた。もはや現在のアニソン界は、そうしたアイドル、ダンス&ボーカルシーンとも引けを取らない規模に成長している。そんなアニソン界のいまや顔と言っても過言ではないオーイシマサヨシ。この日の彼には、アニソン界を背負って世界へ発信しているような気概さえ感じた。

 その後に歌ったのは「Hands」。『ウルトラマンR/B』(テレビ東京系)のオープニングテーマであるこの曲では、番組に登場するウルトラマンロッソとウルトラマンブルの2人がステージに出現し、オーイシ含む3人で会場を盛り上げた。続いてWEBアニメ『パワフルプロ野球 パワフル高校編』の主題歌「パワフルバディ」を披露。歌いながらバットを持ってスイングし、楽曲の世界観をしっかり維持する。アニメのみならず、幅広い分野の作品とタイアップを重ねる彼だからこそなしえる演出だ。楽曲ひとつひとつの世界観がはっきりとしていて、様々なストーリーを背景に感じ取ることができる。それらを一本の公演として串刺しにするのは、大石昌良というひとりの音楽家だ。

オーイシマサヨシ(写真=大参久人)

 次のMCでは、そうした多岐に渡る活動ゆえの“悩み”を自虐的に笑いに変えた一幕があった。「僕のこと何と思ってるか?」と、その場でTwitterでアンケートを実施し始めたのだ。そのため、約5分間ライブ中に演者と観客がスマホをいじる珍しい光景が広がった。そして結果は、「アニソンシンガー」「司会業の人」「推しの友達」の3つを抑えて「Twitter芸人」が38%でトップを記録。集計中にはハッシュタグが世界トレンド2位にまで登り詰めたことを発表し、まさにこの一連の“ネットの操り方”がTwitter芸人そのものだったように思う。

 ライブも中盤に差し掛かると、2020年度の「キンカン」のCMソング「キンカンのうた2020」を歌唱。途中の長い台詞も完璧にこなす。ここからは4人のオーイシダンサーズも登場し、ステージが視覚的にも盛り上がっていく。怪しげな色の照明の中で歌った「沼」、ポップで明るい「オトモダチフィルム」と歌っていき、再びMCへ。

オーイシマサヨシ(写真=大参久人)

 「自粛生活が続くなかで、こうやってライブができることに感謝しています」と神妙な面持ちで語る。すると、どこからともなく打ち上げ花火の音が鳴り始めた。新型コロナウイルスの感染拡大によって多くの人々が失った“夏”。その喪失感を埋めるようにして「モラトリアムダンスフロア」が会場に流れ出す。衣装は真っ赤な法被に変わり、大きな太鼓を叩く彼の姿がそこにあった。

 続く「神或アルゴリズム(feat.りりあ。)」ではスクリーン越しの歌唱で、シルエットのみが映し出される演出を展開。「楽園都市」ではギターを担ぎ、異国情緒溢れるサウンドの楽曲を見事にパフォーマンスする。ライブはまだ半分しか終わってないが、すでにここまでだけでも彼は人を楽しませるプロなのだと実感する。

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