氷川きよしが語る、長いキャリアを経て言えるようになった本音 新作『You are you』で届ける説得力のあるポップス

氷川きよしが届ける説得力のあるポップス

 氷川きよしがポップスアルバム第2弾『You are you』をリリースした。昨年発表した第1弾『Papillon(パピヨン) – ボヘミアン・ラプソディ-』から約1年、前作以上に洗練された今作には、漫画家・文筆家のヤマザキマリや大黒摩季、木根尚登らが参加。各クリエイターたちの力を借りながら、氷川が今この瞬間にこそ言いたい/歌いたいと感じた12曲が収録されている。

 演歌とポップス、一見「演歌もポップスでは?」と思うかもしれないが、その両方を行き来してきた氷川にとって、この2つは似て非なるものだったはず。そんな氷川の最新作『You are you』には、どんな葛藤や思いが込められているのか。現在配信中のポッドキャスト番組『氷川きよし kiiのおかえりごはん』の話にも触れながら、本人に話を聞いた。(編集部)

どんなことでも20年続けないとダメ

ーー実は、昨年2月の中野サンプラザでの氷川さんのコンサートを見て、すごい衝撃を受けたんです。(※1)

氷川きよし(以下、氷川):本当ですか? 

ーーもちろん氷川さんのことはこれまでもテレビ番組や『NHK紅白歌合戦』の現場で見ていたんですが、ここまでストイックにエンタメを追求しているんだと驚きまして。そこから、昨年のポップスアルバム『Papillon(パピヨン) – ボヘミアン・ラプソディ-』も非常に楽しく聴かせていただきました。

氷川:光栄です。一番うれしいお言葉をいただいて、励みになります。

ーー氷川さんはそれ以前にも、20年以上にわたるキャリアの中で何度もポップスに挑戦していましたよね。

氷川:そうなんです。24歳ぐらいのときに河村隆一さんに曲を作ってもらったり(※KIYOSHI名義で2001年11月に発表した「きよしこの夜」)、時々そういうポップス系の曲はあったんですが、『Papillon』では思い切ったことをしてしまったほうがいいかなと思ったんです。「演歌歌手だから、ポップスはここまでにしておかないと」という暗黙の了解のような中でやっている感覚もあったので、振り切るんだったら思いきり振り切って、“私は私”ぐらいのことをやりたいという思いで『Papillon』はやらせてもらいました。今回、そのパピヨンが幼虫からサナギになり、サナギが蝶々になるという、つまりはありのままで輝くというテーマの中で『You are you』ではバタフライになるーーそういう前作の世界観から続くテーマを追求したアルバムにさせていただきました。

ーー先ほどの「“私は私”ぐらいのことをやりたいという思い」は、今回のアルバムタイトルや氷川さんご自身が作詩した楽曲「You are you」でストレートに表現されていますよね。

氷川:「あなたはあなただし、私は私」というと、ちょっと外国的な考え方かもしれませんよね。日本の人は周りのことを気にしすぎてしまいますし、向こう三軒両隣ではないけど。

 もちろん日本人には日本人の良さがあるけど、外国の方って自分は自分というスタイルをしっかり持っている。哲学がある中で生きている人が多いと思うんです。私は自分の中の哲学を皆さんに伝えたかったですし、44年生きてきて自分が経験してきたこと、自分が悩んで苦しんできたこと、そういったこれまでの道のりを音楽で表現したのが今回の『You are you』というアルバムで、そのスタートラインが前作の『Papillon』でした。熱量的には前作は少し強めで、自分で作詩した「Never give up」も「私は私。自分はこういう思いをして、遠いあの日からこうやって生きてきたんだけど、でも諦めないで生きていく」と、ちょっと押しが強かった気がします。でも、今作の「You are you」ではあなたのために、〈あなたはかけがえのない あなた〉と歌いたかったんです。前作を踏まえての今作ですね。

氷川きよし / You are you【公式】

ーーその経験があったからこその気づきですものね。

氷川:そう。だからなんでも経験して、失敗もして、悩んで、その上で芸術というものを作っていければいいなと思っています。やっぱりうまくいけばいくほど、どこかで壁にぶち当たったりする。悩みが深ければ深いほど、壁にぶち当たればぶち当たるほど、自分の中で納得のいく楽曲ができると感じたのが今回のアルバムです。今『Papillon』を聴くと色々と重すぎたり強すぎたりする部分もあるんですけど、今回の『You are you』は何度でも繰り返し聴けるんですよね。

ーーわかります。聴いていると包み込まれるような感覚が、前作以上に伝わるんですよね。

氷川:そうですね。前回は声明が強かったので。

ーーそんな氷川さんはポップスに振り切ったアルバムを制作しつつも、これまでの演歌のスタイルは維持し続けている。この1年の間に『Papillon』や『You are you』以外にも、演歌や歌謡曲に特化したアルバムを2枚(『生々流転』『南風吹けば』)制作しています。その多作ぶりが、まずすごいなと思って。

氷川:やっぱり演歌をやるときはとことん演歌をやりたくて。それも中途半端なものじゃなく、こぶしをバンバン回して土臭い演歌を歌いたいんです。だから、ポップスをやるんだったら思いっきり飛ばして、EDMでも何でも色々なテイストを取り入れたい。「自分はこういう生き方です!」という確信があって作っているので、1曲1曲への思い入れは強いんです。

ーーコンサートを観たときにも感じたことですが、例えば演歌や歌謡曲、ロック、ポップスとそれぞれのジャンルに力を100%注ぎ込んでいるから、ひとつのコンサートをまるでジェットコースターに乗っているかのような感覚で楽しめるんです。

氷川:それはよく言われます。コンサートはあくまでアトラクションであってほしいから、正直ジェットコースターじゃないとつまらないと思うんです。なので、ずっと冒険をしていたい。常に音楽には刺激が欲しいんです。

ーーこれだけの実績があっても、なお刺激を求めるんですね。

氷川:逆に実績があるからなんですよ。デビュー当時からやりたいと思っていたことが、20年経った今やっとできるようになったわけですから。デビュー当時からずっと「クラブサウンドが好き」と口にし続けていたら、「演歌を歌っているのに異色だね? そういう感じに見えないね?」と言われてましたけど、そこでグっとその思いを溜め込んで、ヒットを出して、ちゃんと責任を果たしてみんなの期待に応えて、ということが皆さんのおかげで実現できた。だから、どんなことでも20年続けないとダメだなと思います。20年続けられたら、自分の好きなことをやればいいんじゃないかなと。

ーーよく何事も10年続くと、やっと一人前になれたかなという話もありますよね。

氷川:10年じゃ全然です。20年で相当いろんなことを経験させてもらえたので。悩んでばかりの20年でしたけど、40歳を過ぎて、キャリアも20年積んで、ようやく本音を言えるようになり、自分の中での確信を掴むことができた。その20年を区切りに集大成じゃないですけど、新しい道も始まりますよと。そういう自分がこれまで経験してきたことのエキスをいいとこ取りした、自分の命を削って集めて、一番いい出汁が取れたのが、最近の作品なんだと思います。特に『You are you』は味に深みがあるアルバムになっているはずです。

ーーちょうど今、出汁の話が出たのでお聞きしますが、最近Spotifyでポッドキャスト『氷川きよし kiiのおかえりごはん』を始めましたよね。僕も聴いていますが、すごく面白いですね。

氷川:ありがとうございます。あれは自由に、そのときに思いついたことをただ話しているだけなので、スタッフの方々の編集がすごく上手なんだと思います(笑)。

ーー実際、氷川さんはお料理をよくされるんですよね。

氷川:好きですね。小さい頃からずっとやっているので。全然苦にならないし、そこにある食材で全部作るというのが好きです。

ーーポッドキャストを聴いていると、氷川さんがお料理をされている絵が浮かんでくるんですよ。最近色々な方がポッドキャストを始めていますが、音楽とも違うし動画とも違う、かといってラジオとも違う面白みがありますよね。

氷川:そうですね。想像して楽しめるので、ひとり暮らしの方には寂しさを忘れてもらって、癒される空間になるといいなと思っています。それこそ、下町のお母ちゃん的なところも、ちょっと優しいお兄さん的なところもありつつ、色々な感覚で聴いてもらって、「簡単に作れるんだったら、今日はこれを作って食べよう」と皆さんの料理に対する気持ちが変わっていったらうれしいです。

ーー音楽とポッドキャスト、届ける先はそれぞれ異なるかもしれないですけど、これまで続けてきた音楽活動と基本的な軸は一緒ですよね。

氷川:一緒です。人を励ますために、言葉を使ってメロディを歌っているので。そこは好きでいてくれる人を大事にしたいと思っています。

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