石井恵梨子のチャート一刀両断!
デビュー20周年の氷川きよしがチャート絶好調 “演歌の貴公子”の殻を破った壮大なポップスアルバムに
参考:2020年6月22日付週間アルバムランキング(2020年6月8日~2020年6月14日)
街にようやく人が戻ってきて、チャートの数字もだいぶ回復したようです。先週は注目のシンガーソングライターmiletの1stアルバム『eyes』が2.7万枚セールスで首位を獲得。今週はTWICEのミニアルバム『MORE & MORE』が3.6万枚で首位に輝きました。さらに週間シングルランキングのほうを見てみれば、King & Princeの『Mazy Night』が初週51.8万枚! こんなに景気のいい数字を久々に見たなと胸をなで下ろしました。ライブ再開にはまだまだ大きな不安の残る音楽業界、まずは音楽を聴く、作品を購入することが、アーティストの応援として一番有効なのかもしれません。
さて、今週俎上に載せたいのは1.6万枚で2位にランクインした氷川きよし。すでに盤石なファンベースを築くデビュー20周年のベテランですが、ニューアルバム『パピヨン -ボヘミアン・ラプソディ-』は今までのイメージを覆す衝撃作。長年“演歌の貴公子”として親しまれてきた氷川が、初めてその殻を破ったポップスアルバムです。
昨年末の『NHK紅白歌合戦』を見た方は、金のドラゴンに乗って長めの髪をたなびかせ、ロックスターのようにヘッドバンギングしていた彼の姿を覚えていることでしょう(ものすごいインパクト&圧巻の熱量だった!)。アルバムも同様で演歌の雛形はゼロ。激しいロックあり、ダンサブルなEDMあり、さらにはR&Bやバラードもありとバラエティは豊かで、「あの氷川きよしの」という先入観は何の役にも立たないのです。
いえ、逆に“あの氷川きよしだから”説得力があると言うことも可能です。発売中の『音楽と人』7月号掲載インタビューを読むと、氷川は「演歌は今後も歌っていきたい」と前置きしつつ、演歌とは他人の物語に寄り添うもの、ロックやポップスは自分の感情から生まれるもの、と定義しています。そのうえで「今だからポップスをやりたかった」「今の自分だから歌える」と激白。今だから、とは、Kii名義のInstagramでジェンダーレスな発信を続け、最終的に『紅白』でイメージを突破してみせた今だから、という意味でしょう。男らしさ・女らしさの呪縛を多くの人が語れるようになった時代だから、と換言することも可能です。ともかく、氷川きよしが堂々と作品に自分を刻んだことは大きな意味と価値がある。それをファンが理解、応援し、普段の『新・演歌名曲コレクション』となんら変わらないセールスに繋げていったことにも。