島爺×沢城みゆき『終末のワルキューレ』特別対談 歌い手と声優、“声”を追求するプロフェッショナルな姿勢

島爺×沢城みゆき『終末のワルキューレ』対談

「不可避」はアコギで「声先」で制作

不可避 【島爺/SymaG】

ーーアニメで流れている1番はどこか人類の諦めムードもあるんですが、フルで聴くと、2番以降は音がカオスになって、あがいていくような強さも感じられました。

島爺:僕が今回エンディングテーマを書くにあたって思ったのは……神様から喧嘩を売られているという状態は、絶望しかないということです。負けたら終わりだし、勝っても神様がいない世界を生きなければならない。そういう状態は、僕の中で天災が起きた時の人類対自然の構図と重なって、2011年に東日本大震災が起きた時にテレビからニュースが流れてきた絶望感とか、ああいった感覚みたいなものを曲として描写しようと思いました。

沢城:「不可避」は感情移入しやすいと言いますか、曲の主人公の気持ちになれて、すごく鼓舞されるんです。聴き始めと聴き終わりで、自分の気持ちを一段上げてもらえるようなところがあって。「不可避」をヒルデの気持ちで聴いても、グッと拳を握りしめると言うより握りつぶすのに近い熱き思いで、孤高に立っている気持ちになれます。エンディングテーマではあるけど、アフレコの前に聴くと、ヒルデを演じる上で背筋をピンとしてくれる曲だと思いました。ちなみに、お題がある時と無い時で、制作過程は全然違ってくるものですか? 作品ありきの制作を束縛と捉えるのか、自由と捉えるのか。

島爺:僕はどちらかと言うと、条件が狭まっているほうがやりやすいです。何かゴールが決められていて、そこにどういう形でハマって行くかを考えるのが、すごく楽しいんです。

沢城:私がヒルデを演じる時は、絶対何があろうとも成し遂げてみせるという意思を練り上げて、絶対にそこがブレないようにしているんですけど。「不可避」は、どのように作っていかれたのですか?

島爺:「不可避」は、僕がアコースティックギターをつま弾きながら作ったんです。ジャーンとギターを鳴らして、声を出しながら声質やメロディを見つけていきました。全部が同時進行だから、意図や思惑ということよりも、最初に思い描いたイメージに向かって作っていった感じです。それはレクイエムとか、アダムが自分の子供を守ろうとした感覚、ブリュンヒルデが人類を救おうと思っている感覚とか、そういうものをイメージしながら歌っています。

アダム

沢城:いつもそうなんですか?

島爺:いえ、「不可避」が珍しいんです。それだけイメージが鮮烈だったというか。普段作らない曲調だったというのもありますし、ちょっと特別な感覚ではありましたね。

ーー島爺さんから、沢城さんに聞きたいことはありますか?

島爺:先ほどグランドピアノに例えていらしてすごく分かりやすかったんですけど、使う音程とかそれこそ役によっても、声質が変わる印象があって。それはもともとですか? それともいろいろ演じていくうちに、声質の幅が広がっていったんでしょうか。

沢城:私は14歳の時、公開オーディションに合格して急に声優をやらせていただけることになって。たぶん、当時最年少声優のような立ち位置でデビューしたんです。でも、子役からやっていたわけではなかったから発声も何もできてなくて、最初はキャラクター合わせで声を想像することから始めました。台本を読んでいると、向こうから自然に声が聞こえてくる、と言うとアーティスティック過ぎますけど、聞こえてくる声を自分の運動神経で音に変換していく感じだったんです。

 そこから次はこれをやってみようかという感じで、小さな女の子役に限らずいろんな役をやらせていただけたのもあって、少しずつ幅が広がっていきました。いろいろ演じて行く中で、最初はピッコロみたいな高い音でお芝居をしていたんですけど、途中で私の声はそもそもチューバみたいな低音だったことに気づきました。発声練習の時に先生から「宝塚の男役の人と同じくらいのキーだと思う」と言われて、それが分かってからはけっこう深いところまで出るようになっていきましたね。

島爺:なるほど。沢城さんの声の魅力の1つに、低音の響きがあると思っていて。声優さんの声はたくさん聞きますけど、沢城さんのようなロー感が出ている方って、ほかにはあまりいらっしゃらなくて。そこが、沢城さんの声の大好きなポイントです(笑)。

沢城:ありがとうございます(笑)。ロー感というところでお話をすると、10年くらい前から『ルパン三世』の峰不二子役を継承して、バトンを持って一生懸命走らせていただいているんですけど。前任の増山江威子さんは、確かに深いところも出るんですけど、基本的には真珠の玉のような声なんです。だから私の場合は下の音が響きすぎるとキャラクターにそぐわないので、不二子を演じる時はあえて下の音を切るような感覚で発声しています。下を切りながらも、何とか倍音を損なわない。それは結構課題で、難しいなと思いながら日々やっています。

ーー同じ声を使う職業のお二人ということで、どこかシンパシーを感じていらっしゃる様子で。

沢城:シンパシーなんておこがましいですよ。私、来世は絶対に歌が上手い人に生まれたいと思っているくらいなので(笑)。島爺さんはその中でも圧倒的な歌唱力で、尊敬と羨望しかありません。

島爺:僕も声優さんに対するリスペクトは半端じゃないです。以前、子供向けアニメの主題歌を任せていただいた時に、皆さんがアフレコされている現場を見学した時があって、「自分には絶対できない」と思いました。入れ代わり立ち代わりでマイクの前に立って、1〜2回テストをやっていきなり本番。ものすごい世界だなと(笑)。

沢城:お芝居をすることの能力よりも、他の能力を問われているんじゃないかと思う時があります(笑)。

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