島爺×堀江晶太 対談 “職人気質”な両者が共鳴した、作品主義を貫く活動10年の研鑽

島爺×堀江晶太 「花咲か」対談

 2021年に活動10周年を迎える島爺が、7月28日に5thアルバム『御ノ字』をリリースした。同作には、ナナホシ管弦楽団、煮ル果実、ピノキオピーなど、10周年に相応しいクリエイターによる提供楽曲のほか、自身作詞作曲(編曲:ナナホシ管弦楽団)によるアニメ『終末のワルキューレ』エンディング曲「不可避」が収録されている。

【2021.07.28 Release】「御ノ字」クロスフェード【島爺/SymaG】

 リアルサウンドでは、島爺とアルバム収録曲「花咲か」を提供した堀江晶太(kemu)との対談を企画。それぞれ2011年より活動をスタートし、そこから島爺は「地球最後の告白を」や「人生リセットボタン」などのkemu楽曲をカバー、一方の堀江もいちリスナーとしてニコニコ動画などで島爺の歌声を聴いてきたという。今回初対談となる両者だが、「花咲か」の制作を通して共鳴し合ったクリエイターとしてのスタンス、日本の音楽シーンを席巻するVOCALOID/歌い手に対する率直な思いなど、意外な共通点や新発見が生まれる濃密な時間となった。(編集部)

両者に共通する“職人気質”なクリエイター観

島爺×堀江晶太(kemu)

ーーまず、お二人がお互いを知ったきっかけから聞かせてください。

島爺:僕が歌ってみた動画を投稿し始めたあと、すぐに堀江さんも楽曲を初投稿されて、「すごい人が来たなぁ」と。一発目がアレ(2011年11月07日投稿の「人生リセットボタン」)でしたからね。ものすごく質の高いパワーポップというか、メタルまでいかへんけど重い音が鳴っていて、かつ歌メロがしっかりしていて。僕はそれまでバンド活動をしていて、実はそういうことがやりたかったんですよ。「こんな人がおんねんなぁ……」としみじみ思いました。

堀江晶太(以下、堀江):確かに投稿を始めたのが同じ時期で、僕は「歌ってみた」という文化がもともと非常に好きなので、島爺さんの動画も最初の頃から見ていました。そこで感じたのは、いろんな人がいろんな楽曲を歌っているなかで、「ひとりだけ別の方向を目指して活動している人がいるな」と(笑)。最初は「本当にお爺さんなのかな、それにしては声のハリが凄すぎるな」なんて思っていたのですが、とにかく我が道を行っていて、他の歌い手にはないヒリついた感じがあって。自分と同じくバンドマンなんだろうなという気もしていました。

ーー島爺さんが堀江さんの楽曲を歌い、音源として正式に収録したのは「地球最後の告白を」(アルバム『三途ノ川』収録)が最初でした。

島爺:そうですね。特典等では「カミサマネジマキ」や「人生リセットボタン」も歌わせていただいたのですが、アルバムとして正式に収録したのは「地球最後の告白を」が初で。これはお聞きしたかったことで、一聴してテンポも速いし、難しそうに思えるのに、実際に歌ってみると、歌いやすいんですよ。歌もやられているのかな、と思ったくらいで、とにかく歌う人のことを考えて作られている感じがして。キーは高くてしんどいんですけどね(笑)。

堀江:うれしいですね。自分が曲を作る段階では、自分の頭の中にある一番カッコいいと思うリズムや音階を重視していて、人が歌うことはあまり考えていないのですが、「自分が口ずさんでいて楽しいもの、心地よいもの」というのは前提としてあって。そのなかで、自分が考える心地よいものと、島爺さんが思う気持ちいいものにリンクする部分があったから、そういうふうに感じていただけたのかなと。それと、僕は特にボーカロイドで楽曲を作るとき、リズムから考えることが多くて、島爺さんもアコギを演奏するので、そういうパーカッシブな感覚、身体性のある表現というところが響き合っているという気もしますね。

ーー堀江さんは、多くの歌い手が自身の楽曲を歌ってきたなかで、島爺さんの歌唱をどう捉えていますか。

堀江:とても細かい話になってしまうのですが、発音のアタック=音の立ち上がりから、リリース=音が減衰していく歯切れの部分まで、普通はできないレベルでコントロールされていて、自分の声という楽器と真摯に向き合ってきた人なんだろうな、と思うんです。どういう風に声を出せば、どういう風にリズムとして聴こえてくるのか。それが楽曲に応じて適切に使い分けられているのがすごいと思うのですが、これは意識していることですか?

島爺:……めっちゃしてます(笑)。感覚でやっているのではなく、どうやったら気持ちよく聴こえるんやろう、と考えて、少しずつ試しながらやっているというか。大きなきっかけは、ミニアルバム『挙句ノ果』でもコラボさせていただいたラッパー、VACONさんの「HATED JOHN」という曲をカバーしたことで。ずっと「なんでこんな発音ができるんやろう」と思いながら聴き続けて、真似して歌い続けたのですが、単純に歌詞を言葉として歌うだけでなく、母音と子音に至る全ての音に意味があることを気づかせてくれたというか。その感覚を他の楽曲にも使えないか、と考えていると、メロディの聴こえ方が立体的に変わってきたんですよね。

堀江:やっぱりそうなんですね。僕はそういう職人的な技術が好きなので、お話を伺えてよかったです。

島爺:僕も堀江さんにはとても職人的なイメージを持っていますね。例えば、間奏の何気ない部分で「こんなアイデアを入れてくんねや!」と驚かされたり、それが楽曲全体のなかで最終的に調和していて、必要なものとして計算されていたり、これはどうやっても勝てないなと。だから、最初はそんなにお若いとは思わなかったんですよ。プロのコンポーザーで、いろんなタイプのブレーンを抱えているチームだと思っていました(笑)。

堀江:実際にいろんなチームでも動いていましたが、実際は「作曲家になりたい新人」でしたね(笑)。

ーーお互いにプロフェッショナルだというか、「そこまでやるか」という職人的なクリエイターだという認識があったんですね。

島爺:そうですね。僕はそもそも、細部にまでこだわる職人的な人への憧れがあるんです。

堀江:僕もそうです。もともと有名になりたいとか、スターになりたいという願望はあまりなくて、山奥で金槌を奮っている仙人になりたいというか(笑)。

ーーそうして本当に頼りにしている人が山奥まで訪ねてくると(笑)。島爺さんも、言うならば「楽曲こそがスターになればいい」というスタンスで活動されていると思いますし、やはり共通していますね。

島爺:そうですね。僕はただ楽曲に声を乗せているだけなので、曲がよりよく聴こえてくれればと。

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