島爺が伝えた、好きなものを貫き通すことの大切さ 涙ながらに遂げた『三途ノ川』ツアー最終公演

島爺が伝えた、好きなものを貫き通す大切さ

 島爺が4月14日、マイナビBLITZ赤坂(赤坂BLITZ)で『全国ツアー2019~三途ノ川~』を締めくくった。

 思い返せば2017年6月、島爺が1stライブ『冥土ノ宴』を開催したのも、ここ赤坂BLITZだった。この2年で、ライブアーティストとして驚くべきスケールアップを果たした島爺の「凱旋公演」となり、そして、ライブハウスとしての役目を終えることが発表されている赤坂BLITZでの「最終公演」にもなるこの日のステージは、観客の心に強く焼きつくものとなった。


 満員の観客が固唾をのむ会場に、サイレンの音が響き渡る。大きな手拍子のなか登場したのは、『冥土ノ宴』から島爺のライブを支え続けてきたベースのMIYA&ドラムスのSHINJI、今ツアーでバンド表現の幅をさらに広げたマニピュレーターの“池爺”こと池田公洋、そして、チーム島爺の最古参・ヨティから直々に助っ人の依頼を受けたスーパーギタリスト・高慶CO-K卓史だ。大歓声を受けてステージ中央に上がった島爺。1曲目に披露されたのは、3rdアルバム『三途ノ川』のリードトラックでもある「ぼかろころしあむ」(DIVELA)だ。

 会場全体に響けとばかりに、両手を大きく広げて歌唱する島爺。一聴して、声の艶に驚かされる。『冥土ノ宴』で初めて、ステージから響いた歌唱も十分に感情を揺さぶるものだったが、場数を踏み、鍛え上げられた歌声は、鋭さと厚みが段違いに増していた。そして何より、バンドとしての一体感。ボーカロイド楽曲の「再現」ではなく、バンドとしての「表現」が行き届いたサウンドとのインタラクションが、歌声をさらに強いものに感じさせる。

 孫(=島爺ファンの愛称)たちがアルバムで親しんだ流れで、2曲目は「スロウダウナー」(ろくろ)。そして、「島爺です。よろしくお願いします」という、いつもどおりのシンプルな挨拶を経て、イントロだけで会場が沸点に達する「ブリキノダンス」(日向電工)から、「バカをやるなら」(しぇろ)、「天才ロック」(カラスヤサボウ)と、ハードなロックナンバーを畳み掛ける。

 怒涛の序盤戦が一段落すると、会場からは「おじいちゃーん」と声がかかる。これだけ尖った楽曲を全力で披露しながら、オーディエンスとゆるいコミュニケーションが取れるアーティストは、他になかなか思いつかない。島爺は「BLITZに帰ってこられたのは、完全に皆さんのおかげ」と感謝を述べ、「もし、ここにいる人たちのひとりでも欠けたら、今日のライブはなかったかもしれない。僕は皆さんに感謝しながら歌いますし、皆さんは自分の周りにいる人に感謝しながら、この空間を楽しんでください」と一言。素直に、お互いに「ありがとー!」と言い合う、「孫」たちの微笑ましい姿があった。

 続いて、アカペラからスタートする「かくれんぼ」(buzzG)、「白亜の罪状」(やまじ)と、やはり『三途ノ川』同様の曲順で2曲が披露される。島爺が「どちらも単体でも好きだし、並びがとても好き。バンドでやるときの気持ちよさが詰まっていて、シャッフル再生で聴いていても、『かくれんぼ』のあとに『白亜』が来ないと、ん?ってなる」と語り、観客の共感を誘っていた。さらに、騒いで踊れるキラーチューン「世余威ノ宵」(蜂屋ななし )、「インターネットがなかったら」(薄塩指数)と、息もつかせぬセットリストが続く。

 クールダウンさせるように、島爺がゆったりと話し始める。全国ツアーの最中、各地で制作の裏話を語ってきたが、最終公演のテーマは、「三途ノ川」というタイトルの由来だ。島爺は歌い手として活動を始める前、バンドマンとして、2011年3月11日の東日本大震災を経験している。音楽を含めたエンターテインメントに自粛の嵐が吹き荒れ、島爺は「そういうときこそ音楽が必要だと信じていたのが、そうじゃなかったんやと思い知らされ、心が折れてしまった」という。しかし、音楽を愛する気持ちは変わらうず、「歌い手」として動画投稿を開始。そのなかでファンからのあたたかい声援を受け、「生死がかかっている状況ではまた違っても、白か黒かやない、グレーゾーンのなかで、音楽は確実に必要とされている」と実感するに至り、生者と死者が行き交う「三途ノ川」というモチーフに行き着いたという。

 島爺は「そんなこと気づく人おらへんから、どこかで言うたろうと(笑)」と、この切実な話を笑いに変え、長年のファンにはうれしい「パラメタ」(40mP)、「サイハテ通り」(雨の介)と、哀愁を感じる静かな楽曲を立て続けに歌唱。「パラメタ」は長年、島爺にライブに歌って欲しいと言われることが多かった楽曲だという。「サイハテ通り」は屋外の会場で、夕焼け時に演奏したら最高だと思い、ハードな楽曲が中心のアルバムに収録されたそうだ。クリエイターが一曲入魂で手作りしている楽曲を歌う島爺は、その一曲一曲に深い思い入れを持ち、だからこそパフォーマンスに妥協を許さない。多くのボカロPが、島爺の歌唱を喜ぶ所以だ。

 後半戦も充実の展開だ。ゆったりとしたムードから一転、鋭く尖ったサウンドが耳を奪う「アウトサイダー」(Eve)、洒脱なムード漂う「悪魔の踊り方」(こんにちは谷田さん)、そして、バンドメンバーそれぞれに見せ場のある「スカイデアンナイト」(コガネムシ)を経て、輝くミラーボールとともに、「エイリアンエイリアン」(ナユタン星人)から、同じくナユタン星人の書き下ろしによる「サンズリバーリバイブ」につなぐ。繰り返しになるが、すべての楽曲がクリエイターにとっての勝負曲であり、それだけに、島爺のライブはすべての曲が見せ場になってしまう。バンドメンバーも含め、張り詰めている時間が長く、だからこそ、観客が「おじいちゃーん!」「大丈夫~?」とステージに声を掛ける、曲間のゆるい時間が必要なのだろう。1stライブから一貫している、この信頼関係には頭が下がる。

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