1stアルバム『NEW ROMANCER』インタビュー
理芽×笹川真生、音楽の中で共鳴しあう互いの人間性 出会い~二人三脚で歩んだ変化と成長の日々
花譜や春猿火、ヰ世界情緒、幸祜などを擁するクリエイティブレーベル・KAMITSUBAKI STUDIOに所属し、2020年にリリースした「食虫植物」が現在までにYouTubeで3000万回以上再生されヒットとなっているバーチャルシンガー、理芽。彼女が初のオリジナルアルバム『NEW ROMANCER』を完成させた。
この作品は、彼女のこれまでの歴史を網羅するような、デビュー曲から現在までに制作した全14曲を収録。作詞作曲は彼女のデビュー曲「ユーエンミー」から一貫して楽曲を手掛けてきたシンガーソングライターの笹川真生が全曲を担当し、12曲目「魔的 feat. 花譜」では、「まほう feat.理芽」に続く、花譜との再コラボレーションも実現している。理芽と笹川真生の2人に、これまでの活動やアルバムの制作過程を振り返ってもらった。(杉山仁)
お互いが感じる、それぞれのアーティストとしての魅力
ーー今作は、理芽さんが活動をスタートした2019年から現在に至る集大成的な作品でもあります。カバーやオリジナル曲を歌ってきたのはもちろん、ライブなどを重ねる中で、デビュー当初と今で歌うことに対する意識に変化はありますか?
理芽:KAMITSUBAKI STUDIOに入る前は、生活における息抜きみたいな感覚で、誰のためでもなく、本当に自分のために歌ってきました。そこから歌手としてデビューさせていただいて、色々なことを知っていく内に、たくさん変化があったように思います。例えば、歌ひとつとっても曲をただ単純に歌うだけではなく、ひとつの作品を作り上げるためにこだわるところにはとことん時間をかけてこだわり抜く。音楽のクオリティを上げるために、こんなに手間暇をかけていることを、デビューして初めて知ったんです。だからこそ、自分のためだけに歌ってもいい作品にはならないことにも気付けましたし、ファンのみなさんの期待や、真生さんをはじめとする作品を作ってくれているクリエイターの方々の思いを背負っていることも自覚するようになりました。そういった歌や作品への向き合う姿勢が一番変わったと思います。
――振り返ると、お二人がはじめて一緒に曲を作ったのは、2019年頃の初のオリジナル曲「ユーエンミー」のときだったと思います。お互いの第一印象として覚えていることはありますか?
理芽:真生さんの音楽って、曲も歌詞もすごく独特の雰囲気があると思いますし、何と表現したらいいのか難しいんですけど、今まで聴いてきた音楽とは少し違うような、でもすごく刺さるような魅力を感じました。そのとき、「ねぇママ」や「官能と飽食」を聴かせていただいたんですけど、母性本能がくすぐられるような、今まで味わったことのないような感覚になったのを覚えています。
笹川真生(以下、笹川):自分の場合は、まずは「珍しい声だなぁ」と思いました。それから、私自身がバーチャルアーティスト界隈には明るくないこともあって、バーチャルかそうでないかということは抜きにして、ひとりのシンガーとして、その頃から今まで接してきている、という感覚です。
――「ユーエンミー」を作っていたときのことを教えてください。
笹川:普段クライアントさんとお仕事をするときにはすごく細かいオーダーがあって、そのイメージにそぐわない部分があると修正が来たりしていたんですけど、「ユーエンミー」を制作したときは、最初にデモをワンコーラス制作したときから戻しの連絡がなくて、逆に「何でないんだろう?」と不思議に思ったりもしていました(笑)。
――なるほど。ということは、当時の笹川さんが理芽さんに感じたことや、そのときのイメージが、そのまま「ユーエンミー」という楽曲になっているんですね。
笹川:そうですね。彼女の声自体に、大人っぽさや妖艶さのようなものと、10代っぽい少女らしさのようなものとが同居しているような魅力を感じたので、曲調も少し大人っぽい感じにしようかな、と考えていたと思います。僕自身、普段からどんな曲を作るにしても、どこか不思議さというか、ミステリアスな感覚は何となく内に秘めて考えて作るようにしています。
理芽:「ユーエンミー」を初めて聴いたときは、歌詞を見て、「『ユー』って誰なんだろう?」と考えたりしながら、曲の意味を想像して歌っていきました。それが真生さんの期待通りのものだったのかは分からないんですけど、デビュー曲として、カバー曲ではない初めての自分の歌として、とても思い入れのある曲になっています。ただ、実はこの曲を作ってもらった段階では、真生さんにはお会いしていなかったので、曲を作ってくださった方を知ってはいるけれども、まだやりとりは全然したことがない、という状態でした。なので、いただいた楽曲から、自分で解釈をして歌っていったのを覚えています。その時点では、まだやりとりは全然なかったですよね?
笹川:なかったですね。そもそも、私が理芽ちゃんのレコーディングに立ち会うようになったこと自体が、結構最近のことなんです。それまでは楽曲を制作して、仮歌を入れて送って、RECしてもらったものを後日聴いて「こういう感じになったんだ」と確認する形でした。
――その方法でクオリティの高い曲が生まれていたと考えるとすごいですね。
笹川:最近は指名でお仕事をいただくことが増えているので状況が変わっているんですけど、当時はそもそもコンペティションで楽曲を採用していただくことがほとんどだったので、お仕事で書いた曲に関しては、「自分の作った曲ではあるけれども、自分の持ち物ではない」という感覚があって。理芽ちゃんの楽曲も最初はその地続きではじまったものなので、レコーディングに関しては基本的にこちらからは何も要望は出さないスタンスだったんです。