花譜、念願の有観客ライブで届けた“魔法”とは? 「魔法の無い世界」で見つけた『不可解』の答え

花譜、念願の有観客ライブで届けた“魔法”

 ステージの上のアーティストを注視するのはどのライブでも同じことだと思うけれど、花譜のライブではその傾向がことさらに強いように思う。それは彼女の姿が一般的な人間とは違う、バーチャルなものだからなのだろうか。

花譜

 花譜2nd ONE-MAN LIVE『不可解弐REBUILDING』が、6月11日と12日、豊洲PITにて開催された。ライブは6月11日の「不可解弐 Q1:RE- 形を失った世界で僕らは -」、12日昼公演の「不可解弐 Q2:RE- 世界線は分岐する -」、そして12日夜の「不可解弐 Q3- 魔法の無い世界 -」の3公演行われ、本稿ではQ3についてレポートする。

 オープニングのポエトリーリーディング「魔法の無い世界①」の後、紗幕の奥に花譜の姿が現れた直後、観客は一斉に立ち上がり、強い手拍子とともに1曲目の「Re:HEROINES」でQ3はスタートした。続く「魔女」の〈魂はあるか?〉という慟哭に合わせて勢いよく被っていたフードを跳ね上げ、「戸惑いテレパシー」まで一気に駆け抜ける。

 このライブ開催にあたり、花譜はクラウドファンディングを実施。その結果、8,200万円を超える支援があり、Q3はYouTubeで無料配信を実現したことを説明し、改めて参加してくれた人への礼を述べた。花譜のライブは、映像を使った演出が充実している。ステージの紗幕上に歌詞が様々なフォントで踊るように表示され、その真ん中で花譜が歌っている様子を見ると、まるで花譜が歌自体の中にいるように見える。「メルの黄昏」、「痛みを」まで歌い切った後、花譜は「水を飲みます」と言って背中を向け、水を飲む仕草をした。人間なら当たり前の水を飲む、という行為が、バーチャルな姿形の花譜がすることでどこか不思議なものに映る。

 「『糸』は初めてYouTubeに投稿したオリジナル楽曲です。当時はこんなことになるなんて全く思っていませんでした。今の全てが奇跡だと思っています。『痛みを』は自分が奮い立つような、“負けねえぞ”という気持ちになる曲です」と、言葉を選びながら一つ一つの曲について自分の思いを語っていく。

 最初のオリジナル曲の「糸」に対して、「痛みを」は2020年にリリースされたアルバム『魔法』の収録曲。〈あの街並みを僕らは取り戻せるのだろうか〉(「痛みを」)などの歌詞を見ると、コロナ禍に呑まれた世界への思いが感じられる。

 そこから、「アンサー」、代表曲の一つ「心臓と絡繰」、「quiz」と壮大な世界観を紡いだバラードが続く。しばしば震える花譜の声は「強い声」とは少し違う。だが、震える声を張り上げて歌い上げる時、そこには強さと弱さの両方が内包された不思議な色を帯びる。

 「『アンサー』の〈ここならもう一人じゃない〉という歌詞が大好きなんですが、私の歌も誰かにとって居場所のようになっていたら嬉しいです。『心臓と絡繰』は、この曲の全てが大好きで、私の心の安定剤みたいなもの」と語った後、さらに「夜が降り止む前に」「忘れてしまえ」「花女」「例えば」と続いていく。ポエトリーリーディング形式の「花女」が素晴らしく、〈「ああそうだよ私は好きなんだ彼のことが」/(ねえ 忘れたの?)(本当は全部わかってるんだよね?)(人は人を見下すものよ)彼は違う(違うって何?)〉というかけあいの部分が、語り手の内面の、相手を信じたい気持ちと疑う気持ちに引き裂かれた二つの感情を迫真に表現していた。

 「なんとダンサーの皆さんとお届けしたいと思います!」という花譜の言葉とともに出てきたのは、全身黒の衣装に黒のバケットハットのダンサー二人。生身のダンサーに挟まれて立つ花譜はやっぱりどこか不思議なものに映る。そこからはアッパーなEDM調の「私論理」で会場は一気にクラブのような雰囲気に突入する。ネオンサインのような歌詞の表示に彩られた「未確認少女進行形」、「モンタージュ」「危ノーマル」とハイテンションのまま第一部を駆け抜けた。

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