花譜、カンザキイオリら擁する<KAMITSUBAKI STUDIO>が創生する音楽×物語 統括Pに聞く、2030年見据えたエンタメの考え方

KAMITSUBAKI STUDIO統合Pインタビュー

 花譜、理芽らバーチャルシンガーをはじめ、カンザキイオリやDUSTCELLといった新鋭アーティストを擁するクリエイティブレーベル<KAMITSUBAKI STUDIO>。2019年10月に立ち上げられた同レーベルは、多種多様なアーティストやクリエイターとの“共創”を掲げ、音楽×物語を軸にした独自のエンターテイメントが若い世代を中心に注目を集めている。

 2019年にデビューした花譜のブレイク、理芽「食虫植物」がスマッシュヒットなどが記憶に新しいが、2021年は春猿火、ヰ世界情緒、幸祜の3名を加えた5人の魔女による物語を中心としたIPプロジェクト『神椿市建設中。』も本格的に始動。アーティスト個々の世界観を繋げていく、<KAMITSUBAKI STUDIO>ならではの新しいコンテンツを展開している。

 バーチャルアーティストが存在感を増していく昨今、<KAMITSUBAKI STUDIO>が考えるエンターテイメントの在り方とは。未曾有の2020年を経て新たなフェーズを迎える同レーベルの未来を、統括プロデューサーのPIEDPIPERに聞いた。(編集部)

自分たちでやらない限り、最適解は産まれないと気付いた

ーーPIEDPIPERさんは現在、KAMITSUBAKI STUDIOの統括プロデューサーを務めていますが、それ以前のキャリアを教えてください。

PIEDPIPER:もともとは映像やデザイン制作といったクライアントワークを中心に、クリエイティブディレクター的な立場で仕事をしてきました。ただ、2011年頃に自分たちで何かを発信するようなプロジェクトをやりたいと思っていく中で、アーティストのプロデュースや育成というところにすごく興味が湧いてきたんです。そんな経緯もあり、KAMITSUBAKI STUDIOをスタートする以前からアーティストのプロデュースワークを、もともとの仕事と並行して実験的に行っていました。

ーー当時はどんなアーティストをプロデュースしていたのでしょうか?

PIEDPIPER:具体的なアーティスト名はお教えできませんが、クリエイティブと親和性の高いアーティスト達と組んで、その中で様々な表現を試していました。最初からバーチャルアーティストがやりたいという意識ではなかったのですが、覆面アーティストであったり、アーティスト×アニメーションのような、リアルとバーチャルの中間表現みたいな部分に強く惹かれていたように思います。今ではYOASOBIやずっと真夜中でいいのに。など、そのジャンルがひとつのトレンドになりつつありますが、僕が携わり始めた頃はVOCALOIDやニコニコ動画のカルチャーはありながらも、そういった切り口のアーティストがシーンの真ん中にある感覚は全くありませんでした。かなりニッチなジャンルだったんです。その当時は、既存のアーティスト育成・プロデュースとは異なる、音楽とクリエイティブが融合したアーティストの在り方がないかと模索していました。

ーーそこからKAMITSUBAKI STUDIOを立ち上げに至る経緯を教えてください。過去のインタビューでは、花譜さんとの出会いとカンザキイオリさんの存在が背景にはあげられていましたが。

PIEDPIPER:事務所として花譜やカンザキイオリをマネージメントする上で、どこからデビューするべきかを最初はすごく悩んでいたんです。初期の頃はメジャーレーベルからのデビューも一案としてはありましたが、花譜の活動を運営していく中でインターネット上での速度感やクリエイティブの在り方を考えた時に、全部自分たちでやらない限り、最適解は産まれないと気付きました。当初は運営元を出す予定はなかったんですけど、2019年の1月頃に花譜や運営元に対する疑惑が拡散されてしまって。何か営利違反を働いたわけではないのですが、番組露出の仕方や作品のクオリティの高さ、YouTubeでの再生回数の増加などを発端に、様々な誤解が重なったことで釈明の必要が生じてしまい、そこで外部に対して全く説明がないというのはやはりダメなんだと学んだんです。そういう一連の流れの中で我々運営陣の総称が必要となり、KAMITSUBAKI STUDIOの前身として<KAMITSUBAKI RECORD>が結成されたという背景があります。

ーーなるほど。疑惑を晴らすためにやむを得ずという印象もありますが、何か起きた際に対応する窓口は必要ですよね。

PIEDPIPER:僕個人としては、企業の名前が前に出てアーティストに良い影響が有ることはほぼないと思っていて、だから当面は伏せていこうという意図もあったんです。そこから徐々にクリエイターが集まっていく中で、レコードという概念よりもクリエイティブスタジオという考え方の方が近いと感じたので、<KAMITSUBAKI RECORD>を内包するKAMITSUBAKI STUDIOに発展しました。

ーーKAMITSUBAKI STUDIOに関しては、アーティストのマネージメントや運営のほか、映像・音楽・ゲームといったコンテンツ制作など、多岐にわたる活動を行っています。PIEDPIPERさんは統括プロデューサーとして、どんな部分を担っているのでしょうか?

PIEDPIPER:まず、KAMITSUBAKI STUDIOで行っている事業内容としては、アーティストのマネジメント/プロデュースのほか、KAMITSUBAKIの世界観でIPを作っていくことを重要視しています。例えば、個々のアーティストではなくKAMITSUBAKIというフレームそのものに興味を持っていただくために「神椿市建設中。」というゲーム発プロジェクトを開発していたり、音楽コンテンツ以外にもD2Cでユーザーに直接訴求できるグッズなどの商品開発にも音楽プロダクトと同じくらい力を入れています。あと、バーチャル/フィジカルでのライブ制作、新人発掘など、多岐に渡ります。

 その中で僕が見ているのは、アーティストで言うと花譜と理芽、カンザキイオリ、te'resa、新人育成などを主軸として動いて、春猿火、ヰ世界情緒、幸祜などは監修をしています。直接コミットするアーティストに関してはクリエイティブ全般の指揮をとっていますが、それ以外のDUSTCELL、Guianoや大沼パセリといったアーティストは、基本的には僕以外のプロデューサーにあたる複数名のスタッフにお任せしています。ただ、IP開発やバーチャルライブに関してはクリエイティブ要素が強いので、マネジメントの感覚では判断できない部分は僕が指揮を取るようにしています。

ーー先ほどメジャーレーベルからのデビューも考えたとありましたが、インディペンデントな運営を選んだのは柔軟な対応がしやすいからですか?

PIEDPIPER:そうですね。KAMITSUBAKI STUDIOにおいては部門ごとの人数は少ないんですけど、社外のクリエイティブチームに制作で関わっていただいたり、様々なところから協力いただきながらモノ作りを行っています。なので、スピード感のある判断が可能な組織としては、今ぐらいがちょうどいい規模感だと思っていて。逆にこれ以上大きな組織になってしまうと承認工程や意思疎通が複雑化して、やりきれない部分も出てくるでしょうし、スピード感という意味でも勝ち目が薄くなってしまうと思うんです。特にバーチャル領域は、プロダクトデザインから映像、音楽制作まで全方位的にモノ作りを内包してやらないと成立しない感覚があります。現状の体制でも各パートで考え方がずれたりすることもある。そうなった時に、KAMITSUBAKIとして絶対にブレてはいけない部分、各スタッフが柔軟に対応してほしい部分をデザインしていくことが、僕のやらなければいけないことだと思っています。

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