理芽×笹川真生、音楽の中で共鳴しあう互いの人間性 出会い~二人三脚で歩んだ変化と成長の日々

理芽×笹川真生、二人三脚で歩んだ日々

おぼろげだった自分の形が見えてきた

胎児に月はキスをしない - 理芽 / The Moon Not Kiss the Foetation - RIM (Official Music Video) #18

――最初はそんなはじまりで、徐々にお互いやりとりするような制作に変わっていった、と。

笹川:そうです。やっていくうちに「この仕事は、どうやら今までとは違うようだな」と。そこで「僕ももっと介入させてもらおう」と思って、最近はこれまでより二人三脚でやらせてもらっているんじゃないかと思います。今回のアルバムの14曲中、最初の7~8曲ぐらいまでは、先ほどお話した形で制作をしていて、残りの楽曲では、レコーディングに立ち会う形で録音していきました。

――アルバムに向けての新曲がちょうど8曲ほどと考えると、その変化は結構最近起きたことなんですね。

理芽:真生さんとは、いつの間にか一緒に曲を作って、レコーディングをともにしてくださるようになっていた、という感覚で。

笹川:自分としても、「そういえば、たくさん曲を作ったね」という感覚でした。

――笹川さんから見ていて、理芽さんの変化などを感じる部分はありますか?

笹川:やっぱり、歌にはすごく感じるかもしれないです。いい意味でクセが丸くなってきたというか。もちろん、最初の頃から色々な表情を見せてくれる歌声の持ち主ではあったと思うんですけど、でも、一緒にやっていく中で、より色々な声が出せるようになってきて、そのひとつひとつの強度も上がっていって。昔よりもより歌が、言葉がスッと入ってくるようになったように感じます。本人的にはどうでしょう?

理芽:確かに、そんな感じがします。自分で歌っていても、より単語をバシッと歌えるようになってきていると思っています。前までは、滑らかさを重視し過ぎたり、自然に意識しすぎたりしていた部分があったんですけど、それだと歌に区切りがなさすぎて、一つひとつの言葉の重みが表現できない部分があって。でも、そこから真生さんが作ってくださった色々な曲に触れていくたびに、表現の幅が広がっていった感覚が自分でもあります。

――笹川さんの楽曲に触れることで、理芽さんの表現も広がっていったんですね。

理芽:そうですね。真生さんはすごく優しい方なので、レコーディングでもダメ出しをするというよりは、つねに褒めてくださって、そのうえで「もうちょっとこうすればよくなるんじゃないか」とアドバイスをくれることが多いんです。そんなふうに、自分を受け入れてくれているからこそ、自分も安心して「もうちょっとこうしてみよう!」と変えていける部分があると思います。それに、ディレクションの際も私がイメージしやすい形で伝えてくださるので、すごく表現しやすいです。たとえば、アルバムのリード曲にもなっている「NEUROMANCE」では、「もっとヤクザになって」というディレクションをいただいて――。

笹川:そんな言い方はしてないでしょ(笑)。「ヤンキーみたいなイメージで歌ってほしい」と伝えたのを覚えていますね。

理芽:ヤンキーだったか(笑)。

笹川:この曲は綺麗に歌ってほしくないな、と思っていたので、「その雰囲気をどうしたら伝えられるのかな」と考えて思いついたのがその言葉でした。

――理芽さんが、笹川さんとの楽曲制作作業以外にも、これまでの活動で印象的だったことがあれば教えてほしいです。

理芽:あたしの場合、バーチャルシンガーとして活動をはじめる前から音楽の活動をしていたわけではないので、「音楽をレコーディングをすること」自体が不思議な体験でした。レコーディングするときは、毎回「すごいところに来てしまった」という感覚に襲われます。あと、他に印象的だったのは、レコーディングスタジオに大きなスピーカーがあって、爆音で曲が流れていたことですね。これ自体が、あたしにとってはとても影響が大きかったな、と思います。

――1stワンマンライブ『ニューロマンス』についてはどうでしょう?

理芽:『ニューロマンス』は無観客ライブだったので、実際にお客さんが入ったときのことは分からないんですけど、あたしは「アーティストだから舞台に立てることが当たり前」というような考えは持っていないので、まずはこうして音楽活動ができていること自体に感謝しています。オリジナル曲を披露するライブとしては初めての舞台だったので、「ここで後悔はしたくない」という思いと、「普段とは違う自分を見せたい」という気持ちでいたと思います。すごく楽しかったですし、当日はサポートのバンドのみなさんが、自分も聴いたことがないアレンジで曲を演奏してくださったこともすごく印象的でした。

――笹川さんも当日、Twitterで「理芽バンドやばすぎませんか?」とつぶやいていましたよね。

笹川:はい(笑)。バンドメンバーのみなさんがどんなアレンジをするのか知らないまま観させていただいたんですけど、すごくかっこよかったです。理芽ちゃんの歌声も、音源より伸び伸びとしていて、すごく楽しそうな印象を受けました。

――今回のアルバム『NEW ROMANCER』は、過去のリリース曲に、そのライブでも披露された新曲8曲を加えた作品になっていますね。アルバムの制作がはじまった頃、理芽さんが「こんな作品にできたらいいな」と考えていたことはありますか?

理芽:あたしは自分で曲を作れるわけではないので、正直に言うと、あたし自身も「どんなアルバムになるのか分からないな。楽しみだな」という感覚でした。でも、全部の曲ができて、ひと通り聴き終わったときに、おぼろげだった自分の形というものが、見えてきたような気がしました。最初はあやふやだったものが姿を現したような感覚になったといいますか。

――アルバムができて初めて、理芽さん自身も自分らしさに気づいたりしたんですね。笹川さんが、アルバムに向けて楽曲を作る際に考えていたことはありましたか?

笹川:実は、何もありませんでした……(笑)。というのも、今回のアルバムは、1曲ずつ形にしていったものがいつの間にか増えたことで、「それをまとめよう」と生まれたアルバムなので、作品全体を見て「こういう曲があったらいいかもしれない」「こういう曲も入れられるのかもしれない」と考えたことは、一度もなかったんです。これまでできた曲をひとつにパッケージしたら、「なるほど、こんな作品になったんだな」という感覚でした。

自分の中にある嫌いな一面も歌として爆発させる

ピロウトーク - 理芽 / Pillow Talk - RIM (Official Music Video) #09

――では、今回の収録曲の中から、お互いに気に入っている曲や思い出深い曲をそれぞれ2曲ほど挙げてもらって、その制作過程を振り返ってもらおうと思います。理芽さんは、どの曲を選びますか?

理芽:あたしは……本当に全曲好きなのでなかなか選べないんですけど、やっぱり、「ユーエンミー」はすごく印象的です。最初のオリジナル曲として思い入れもありますし、曲自体も、今聴くとピュアな部分を感じるというか、自分でも初々しさを感じられてすごく好きです。

笹川:私の場合は、迷いなく「やさしくしないで」がお気に入りですね。

――アルバムに向けての新曲のひとつで、とてもいい曲ですね。

笹川:この曲は、理芽ちゃんの楽曲の中で唯一「彼女自身のことを歌った曲にしよう」と思って制作した楽曲で、実際理芽ちゃんに色々な質問を投げて、それを自分なりに歌詞に落とし込んでいきました。もちろん、受け取る人の自由なので、私から「この曲の歌詞はこういう意味が込められている」とは言わないですが、この曲は自分にしては珍しく、すごく言葉と向き合った楽曲だったと思います。あと、この曲のサビの部分は理芽ちゃん的にすごく出しにくい声だったと記憶していて、レコーディング中もキーを下げるか下げないか話し合ったんですが、結局下げずにレコーディングをすることになりました。そういう意味でも、理芽ちゃんの綺麗な声の発見ができた曲でもありました。「このキーもいけるじゃん!」と。

理芽:このサビの部分は自分でも「いけるのかな?」と少し不安はありました。最初は苦労して悩んだりもしていたんですけど、キーを下げると曲の雰囲気が変わってしまうので、「真生さんが作ってくださった曲の雰囲気を大事にしたい」と思っていたんです。それで、「とにかくやってみよう!」と思って挑戦したら、最終的に歌えた曲でした。

――色々と質問をする中で、理芽さんのことをより深く理解する機会にもなりましたか?

笹川:本人から色々と話を聞く前、自分が思っている理芽ちゃんのイメージは、すごく明るく、楽しい方だという印象だったんですけど、話を聞いていて、「自分とも似ている部分があるんだな」と思ったりしました。「嫌なことがあると公園でぼーっとしてる」という話をしたりしていて、やっぱり、みんな多かれ少なかれ、そういう影を感じる側面はあるよなと思いました。

理芽:自分でも、基本的には能天気でポジティブなタイプだとは思っているんですけど、でも、同時に明るくない気持ちや、物事を考えすぎてしまう部分などもあって、それを見たくないという気持ちで、自分を「明るい人間なんだ」と思い込んでいる部分もあるのかな、と思うんです。

ーー普段は表に出さない一面も歌の表現としてであれば出すことができる、という感覚はありますか?

理芽:ありますね。例えば「ピロウトーク」の歌い出しは〈最低な人生だった〉から始まるんですけど、すべてが明るい歌詞というよりも、少しネガティブな要素や狂気を感じさせる歌詞の方があたし自身も共感できるというか。自分もこういう感情があるなと思いますし、自分のある種嫌いな一面も歌として爆発させることができる。あたしは気だるげな歌い方をすることがあるのですが、それは意識しているというよりも、自然とそういう表現が内から引き出されているのかなと思います。

ーーご自身の歌声については、どういう捉え方をしていますか?

理芽:曲調的には、可愛いよりもクールなサウンドとの相性が良い歌声かなって思っています。口下手で言葉にするのは難しいのですが、温度でいうと生温い感じというか、滑らかな声質は自分の強みかなと思います。曲によって相性はありますけど、他の方には表現できないであろうと、そこを糧にして歌っています。

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