ZOC 藍染カレン×巫まろ×大森靖子、“メタ視点”で描くアイドルと音楽と女の子 大沢伸一、神前暁、ミトら作家陣らのコメントも

大森靖子×藍染カレン×巫まろインタビュー

『PvP』は「今まで届いてなかった人にも届く作品に」

ーー7曲目「眼球にGO!」は、ハルメンズの「電車でGO」のオマージュなんですか?

大森:いや、カラコンの入れ方がわからないってツイートしたら、藍染が「眼球にGOです」ってリプライが来て、「眼球にGOってなんだよ」と思って曲にしようと思いました(笑)。藍染はパフォーマンスがグループの核になるメンバーに育てちゃってたので、飛び道具とか「かわいい担当」とかをあげられなかったなっていう気持ちがすごくあって、そういう曲を作ってあげようって思いました。でも、私にもすごいご褒美なんです、神前(暁)さんにアレンジを頼ませていただいて。

ーーどういう経緯で神前さんにお願いしたんですか?

大森:こう見えて神前さんの影響をめちゃくちゃ受けてて、「絶対絶望絶好調」は「もってけ!セーラーふく」みたいなイメージで作ったんです、大好きなので。人が好きなものを自分が好きって言っちゃいけない、他人の好きなものを取らない、っていうルールで生きているから言わなかったけど、けっこうアニメは見てたんですよ。「God knows…」とかめっちゃ好きだし。

ーー大森さんに『らき☆すた』や『涼宮ハルヒの憂鬱』のイメージがなかったので意外です。9曲目のsugarbeansさん編曲の「FLY IN THE DEEPRIVER」は、『NEVER TRUST ZOC』ツアーでも歌っていましたね。ライブのキーポイントになる曲だし、感情の込め方について、大森さんからメンバーに話したりしたんですか?

大森:話すと言うより、り子ちゃん(雅雀り子)と私がまずやって、それを見て「はい、やれ」という手法です(笑)。パフォーマンスを見たら、「こういうことか」ってわかるじゃないですか。最初の「クソ」と今の「クソ」で全然違います。

巫:私はこの曲が苦手で、「クソ」が上手な靖子ちゃんとり子を見せてもらって、それをZOCの巫まろのものにするのには時間かかったし、今も完全にまだ掴みきれてはないんですけど、生きている限り「クソ」って思うことが増えてくるので、自然と「クソ」に込める感情が強くなっています。最近は「早くクソ言いてえ」って(笑)。

藍染:私は活動していて、ちょっと信じられないところまで落ちちゃった時期にこの曲を靖子さんが出してくれて、そのまま思ったままやってるって感じで。キーも地声の低いままで。めっちゃ落ちて、めっちゃ落ちて、でも帰ってくる、みたいな感じだと思ってます。楽しいです。

大森:まろが入ってきてくれてことによって、私も裏支えみたいなことをしなくていいようになって。だから自分もコーラスや飛び道具を扱えるようになったし、藍染も低めの声がすごくかっこいいので、そこをおいしいところとして三声として演出できるようになって、それがこれからのZOC印になっていくなって思ってます。レンジも広くなって、かっこいい音になってます。

ーー10曲目の「①④才」はミトさん編曲で、テクノやインダストリアルみたいなサウンドですね。個人的には大好きなんですが、抑えた歌い方だし、歌うのが難しい曲では?

藍染・巫:難しくはない。

大森:歌割りだけはめちゃ考えた(笑)。

ーー大森さんのイメージする「①④才」ってどんなものなんですか?

大森:14歳の感情って、独特なのがあるじゃないですか。自分の中のイメージでは、夏目漱石の「三四郎」と滝廉太郎っていうイメージ(笑)。自分が14歳のときはそういうものから逃げて、いろんなカルチャーで自分を守ってきたけど、今けっこう社会的な活動をしてしまっているので、「14歳の感情に閉じこもり続けたら人ってこうなるんだ」っていうのを見ることもあったし。自分がそういうものに触れて感じたことを曲に落としこめたら、それは全部良かったことになるから、早く曲にしたいなというのがありましたね。

ーーここまでDisc1の新曲について聞いてきたんですが、再録曲は基本的にDisc 2にまとまっているのに、「family name」「GIRL'S GIRL」「A INNOCENCE」をDisc1に収録したのはなぜでしょうか? 「GIRL'S GIRL」は、ZOC以前の大森さんのソロ曲ですし。

大森:うん、ZOCではなかったんですけど、完全に自分が歌うっていうイメージで作ってなくて。自分が切り拓いてきた「女の子がはちゃめちゃやるぜ!」っていうシーンがあって、さらに「ここはまだ描いてないよね」っていうところに踏みこみたくて 「GIRL'S GIRL」ができて。若い女の子と接する機会も多いけど、自分が実年齢として体験する「女の子」っていうのもあるし、それをちゃんと曲にしたいなって。これはZOCの活動の核みたいな曲だから、ZOCのアルバムに入れたいなって。「family name」「A INNOCENCE」も活動の指針として大事に歌ってきて、自分たちの意志がたくさん入っている曲だからDisc 1です。Disc 2も大事な曲たちで、音でゲームの感じを出したりしています。

ーーびっくりしたのは、『NEVER TRUST ZOC』ツアーで歌われていたsugarbeansさん編曲の「REPEAT THE END」が、Disc 1ではなくDisc 2の最後に収録されていることです。

大森:Disc 1は「AGE OF ZOC」で終わりたかったっていうのもあるし、「REPEAT THE END」は人の死を描いている曲なので、一番深いところに踏みこんだ人に最後に聴いてほしいっていうのがあります。〈泣けない あなたの身代わりに〉という歌詞は、青柳(カヲル。大森靖子関連作品の絵を担当。2020年死去)の最後のほうのツイートの「うまく泣けないあなたの代わりに」から引っ張っているので。ちょっとした何かで「あっち側」を選んじゃったのかな、って。次の次の日に一緒に道重さんのイベントに行く約束をしてたんですよ。ZOCとか私の音楽とかり子ちゃんの舞踊とかが日本に認められてほしいって一番思ってたのが青柳だったはずだから、日本武道館の国旗の下でこの曲を歌いたいなと思って。

ーーZOCって、大森さんによる社会運動みたいな側面もあると思うんです。

大森:そうです。

ーーだからヘビーなんだけど、音楽的にはポップなんですよね。藍染さんと巫さんは、この2枚組でどんなものができたと思いますか?

藍染:これまでシングルを出させてもらって、それぞれの曲で「こういう人に伝えていこうね」と考えてクリアさせてもらってたんですけど、今回アルバムで新曲8曲あって、全22曲で、ちゃんと深く自分達を掘り下げていくことで、今まで届いてなかった人にも届くと思っています。

巫:私は曲数も多いので、夏休みの宿題を一気にもらったような感覚で。1枚だけの宿題のプリントもらっても、あんまりやる気が起きないんですけど、こんなに来たら、いろんな課題もありすぎて、「全部答えられるようにがんばろう」って。曲のメッセージ性以上に、歌割りも「このパートは靖子ちゃん、私にこうなってほしくてくださったのかな?」と考えざるをえないぐらいの難易度のアルバムなので、たくさんの課題をいただいた感じで。みなさんに届けるのはもちろん、ツアー中にきちんと花丸をいただきたいですね。

ーー大森さんからしたら、日本武道館を終えて燃え尽きた感覚なんてないんですよね?

大森:皆無ですね。武道館は自分たちの演出としては今できる100%をやったけど、お客さんも100%呼べる状況でもなかったし、告知も100%できる状況ですらなかったので、やっぱり不完全燃焼感があったし。でも、武道館をやったことによって、やってきたことが間違いじゃないって感じがすごくあったし、「これだけのことがあっても乗り越えられるんだ」っていう自信にすごくなって。ここからは、その状況を全部乗り越えたうえで、こんなに曲もあるから戦える気しかないし、みんな仕上がっているなって思います。

ーーそんな武道館を経ての『ZOC FOR PRAYER TOUR 2021 SUMMER』はどんなツアーにしたいでしょうか?

藍染:このアルバムを持ってのツアーになるし、東京で育ったんですけど、行ったことがない地域にも歌いに行けるっていうのがすっごく楽しみで嬉しいです。ひとつひとつちゃんと大事に届けていきたいです。

巫:私が音楽ともっと向き合いたいなって思ったのが、前の活動のときのライブハウスツアーで、ライブハウスの熱量の伝わり方が大好きなので、大きい会場でやる機会をいただきつつも、いろんなライブハウスを地道に回らせていただけることがすごく貴重だなと思うので、1公演も無駄にしないように、なるべく近くで歌や気持ちをお客さんに届けられたらいいなって思います。

大森:やっぱり音楽は空気の振動なので、その場で直接振動を伝えられることは、一番届くことだと思うし、結局自分はそれでひとりひとりを説得していくしかないので。それをしに行けることが、どれだけ貴重なことか身にしみて感じてます。あとは、「あ、この曲ってこんな側面も持っていたんだ」って教えてもらえることが、自分のライブをしていてすごく多いんです。特にライブハウスは表情がすごくよく見えるので、自分が作った曲が「この曲にはこういう側面とか力もあったんだ」って教えてもらえたり。それで曲が成長していくのもすごく楽しみにしていますね。やっぱりこの6人で回れるっていうのは初めてなので、どういうグループになっていくのかも楽しみですね。

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