PandaBoY×fu_mou×佐高陵平×佐藤陽介が語る、2010年代以降のDJカルチャーとアニソンの関係性
ヒャダイン、Tom-H@ckが作った流れ
ーーお互いの曲を聴き合っていると思いますけど、「これはヤラれたな」と思った曲はありますか?
PandaBoY:y0c1e君がアニメ『D4DJ First Mix』の劇伴をやってたよね。なのでアニメを見ながら物語よりも音楽に意識がいっちゃってました。fu_mouさんは、『D4DJ First Mix』の第10話でPhoton MaidenとHappy Around!が対決した時の曲がどちらもfu_mouさんの曲で、最後にクレジットを見て「両方か!」って思った(笑)。でもすごくいい曲だった。4skのHappy Around!のあの曲も好きだな。
4sk:「Make My Style」ですか?
PandaBoY:そうそう。メロディがすごく素敵。
4sk:ありがとうございます。ただHappy Around!がPhoton Maidenの楽曲コンペに送って落ちた曲という設定だったから、どうしようって(笑)。あとヤラれたなというと、2月に出た『THE IDOLM@STER LIVE THE@TER PERFORMANCE REMIX 04』に収録されている、y0c1eさんのリミックスがヤバかったです。
fu_mou:それな!(笑)。僕もあれは本当にヤバいと思った。特に水瀬伊織(CV:釘宮理恵)の「プライヴェイト・ロードショウ(playback, Weekday)」は、僕がやりたかった曲だったのもあって、それを「こういうふうにするんだ」という驚きもあったし。めちゃめちゃジャンルの再現度が高いうえに、一発でy0c1e君だというのが分かって、それを両立させているのがすごい。
佐高:恐縮です(笑)。僕はfu_mouさんがすごい昔に手がけた、アニメ『蒼き鋼のアルペジオ』の曲がめっちゃ好きですね。
fu_mou:Tridentさんの「Innocent Blue」ですかね。
佐高:そうそう。それがすごく好きだというのを伝えたかった(笑)。あと、Photon Maidenでは僕が歌詞を多く書かせていただいているんですけど、最近のPhoton Maidenの曲の中では「fu_mouさんライン」っていうエモい系の楽曲たちがあって、それはマジで全部好きです。特に好きなのが「A lot of life」ですね。
佐藤:「A lot of life」は、まさしくfu_mouさん節ですね。
fu_mou:ありがとうございます。
佐高:PandaBoYさんは、いっぱいありすぎて。
PandaBoY:いやいや、またまた〜。
佐高:『CUE!』っていうゲームがあるんですけど、4つのユニットがそれぞれが歌うチーム曲とは別に、同じ曲を歌う共通楽曲もあって、PandaBoYさんが作詞作曲編曲した「CUTE♡CUTE♡CUTE♡」がめちゃくちゃ良かった。
PandaBoY:でもそれを褒めてくれるんだったら、同じ作品で、y0c1e君が作詞作曲編曲した「Override!」がマジでヤバいって作家の人はみんな言ってるよ!
ーーお互い刺激し合っているんですね。アニメなどのコンテンツの音楽という部分で、この10年で変化を感じる部分は?
PandaBoY:アニソンのDJシーンという視点で言うと、昔は共通認識としてのアンセム曲が分かりやすくあったんですけど、この10年で曲もアニメもめちゃくちゃ増えて細分化されて、でかいアンセムもありつつアニソンDJ個々のアンセムも生まれて、そのDJの持つ色をより濃く出せるようになったのかなと感じています。
佐高:テレビではなくYouTubeを入り口にしてアニメの曲を知るとか、聴く人が受け取る媒体も細分化されましたよね。サジェストされるおすすめの幅が広がったというか。Spotifyなどのサブスクリプションでおすすめされるものもそうだし、受け取り方、リーチの仕方が変わったことで、多様性が生まれたんじゃないかと。それを踏まえた上で作り手側も制作する時に意識しているところもあって。
佐藤:曲がどんどん短くなっているみたいなことですよね。
ーーみなさんも意識しますか?
fu_mou:全体的にクイックな感じになっていますよね。YouTubeやSpotifyだと曲の序盤でインパクトがないと飛ばされちゃうので、盛り上がりがくる場所も早いほうがいいし。ダラダラと長く聴かせるのは厳しいかなという感じはあります。
PandaBoY:5分越えの曲なんか今ではレアだよね。
佐高:4分半を越えると「大丈夫かな?」ってなる(笑)。たぶんこれは前山田健一(ヒャダイン)さんやTom-H@ckさんとか、そのあたりの人たちが始めた流れの延長線上にもあるような気がします。すごく多い展開を89秒に詰め込むという。それが2010年代の話だから、それ以降クイックになっていったんじゃないかなって思います。
ーーTom-H@ckさんやヒャダインさんの影響は大きいのですね。
佐高:そうです。そうした時代のアイコン的な作家が始めた流れが、結局2021年になってもまだ続いているのかなって。アニソンにおいてアレンジの遊び方がクイックになっているのは、そういう人たちがアニソンの89秒にいかに展開を詰め込むかを追求した結果だと思います。
ーーそういう部分で、他にエポックメイキングだったと思う曲は?
佐高:田中秀和さんの「太陽曰く燃えよカオス」(『這いよれ!ニャル子さん』OP曲)かな。作家界隈で「おっ!」ってなったのは『灼熱の卓球娘』のOP曲「灼熱スイッチ」で、すごいことをしてるなって話題になりましたね。
fu_mou:田中さんは『Wake Up, Girls!』もやっていたり、田中秀和ラインは確実にありますね。
佐藤:田中さんから影響を受けている若手は、めちゃめちゃいます。
ーー2010年以前には神前暁さんがいて、その後に田中秀和さんがきて。やっぱりMONACAさんはすごい。
PandaBoY:流れ的には、Tom-H@ckさんとヒャダインさんが展開で遊ぶようになり、その後にMONACA勢がコード進行で遊ぶようになった印象はあります。
佐高:流れで言うと、その次がフューチャーベース(※注2)でYunomiさんかな?
PandaBoY:ああ、EDMの流れもありつつ、ついにフューチャーベースまで取り込まれたと。
佐高:フューチャーベースは、攻めた感じを出したい人がすごくやっている感じがします。決して悪い意味ではなく、最新感がすごく出せるからで。
fu_mou:でも、文脈としてフューチャーベースって先に台頭していたエレクトロポップよりも複雑だし、Kawaii的な文脈のものもあればトラップ(※注3)やジャージー(※注4)からきているものもあって。ポップにいきやすい部分もあればポップにいきにくい部分もあるので、取り扱いが結構難しいんですよね(笑)。
(※注2):フューチャーベースはEDM以降にブレイクしたダンス・ミュージックのジャンル。エモーショナルでキラキラしたコード進行やアレンジ、畳み掛けるようなドロップのパートが特徴。現在はトラップなども取り込みながらより多様性のあるサウンドになっている。
(※注3)トラップはヒップホップのサブジャンル。ブーミィなベースやチキチキと連続して鳴るハイハット音が特徴的なサウンド。
(※注4)ジャージーはジャージークラブという音楽ジャンル。ヒップホップベースのブーツィなサウンドをベースにキコキコとしたベッドスプリングのサンプリングや、ポチャッという水音のサンプリングを使っているのが特徴。