ロザリーナがしたためた“今しか書けないこと” この時代におけるSSWのメリットとは

ロザリーナが“今しか書けないこと”

 1stアルバム『INNER UNIVERSE』から約1年、ロザリーナが2ndアルバム『飛べないニケ』をリリースする。今作は、内省的でいて、それでもきらめく希望を追い求めてやまない、誰かの心に静かに寄り添うストーリーテラーとしての表現が、より高い1枚になっている。ロザリーナが語る物語は、自身のリアルな心情、絡んだ心やヒリヒリとした痛みまでを、生々しく切り出したからこそ、切実に響く。そしてその憂いや叫びは、エレクトロから生楽器までふんだんに使ったドリーミーなサウンドと混じり合って、甘美な余韻をもたらしてくれる。音が鳴るひとときを贅沢に味わえるアルバムだ。

 CM曲や『映画  えんとつ町のプペル』のED主題歌を手がけ、またTikTokでは「何になりたくて、」が多くの人にカバーされるなど、その存在が広がっている現在。どんな思いで『飛べないニケ』という作品へと向かったのか、またコロナ禍での制作についても話を聞いた。(吉羽さおり)

呪文のように聞こえた“悪魔の声”

ーー1stアルバム『INNER UNIVERSE』がリリースされたのが、ちょうど昨年の1月末のことで。その後はコロナの影響で世の中が大きく変わっていったり、またアーティストとしてはライブができなかったり、表立った活動も少なくなってしまったりという時期が続きました。ロザリーナさんは、そういった突然訪れた変化のなかで、どんなことを考えていたのでしょうか。

ロザリーナ:そうですね。なかなかライブもできなくなってしまって、制作がずっと続いていたんですけど。8月には初めての無観客の配信ライブをやって、そこでは配信だからこその見せ方、演出もできたので、楽しい経験だったなと思いましたね。あとは、結構自分の生活と向き合う機会になったなって思います。

ーーどうしたって家にいる時間が長くなりましたしね。

ロザリーナ:(自分は)こんな人間力が低かったんだってことに気づきました(笑)。本当に、ひとりで何かしようにも何もできないんですよね。ちゃんと自分で作らないと、食べるものもないし。そういうタイミングで、初めて健康診断にもいったんです。それもあって、自分と向き合うことが多くなりましたし、ちょっと健康志向にもなりました。

ーー今までは自分の生活や健康は二の次だった感じですか。

ロザリーナ:めんどくさがりのランキングで言ったら1位をとれるんじゃないかってくらい、めんどくさがり屋なので(笑)。仕事があれば、そのままスタッフとご飯を食べたり、帰りにコンビニで何か買って済ませてしまって、疲れて寝るような生活がずっと続いていたんです。ちゃんと稼働することがないと、やらなきゃいけないことがあっても家でぼーっとしていたりとか(笑)。これは、自分でスイッチを作らないといけないんだなっていうのはすごく思いました。

ーーそのなかでも曲作りはずっと続いていたんですか。

ロザリーナ:これはいろんなアーティストの方も言っているかもしれないですけど、家にいる時間が長くなって、その時間を制作にあてようということになったんです。でも、なかなか制作モードに入るスイッチが見つからないし、やっぱり何かしらアクションというか、人と出会ってどうこうするというのがなくなってしまったので、何を書けばいいかわからなくなってました。そういうことで苦戦はしましたね。

ーーやはり人との出会いや、コミュニケーションがあるからこそ生まれるものが多いんですね。

ロザリーナ:そうですね。基本的には人との出来事で、何か思うことがあって曲になっていくことが多いです。

ロザリーナ

ーー今回のアルバム『飛べないニケ』を聴いていくと、人とのすれちがいや、互いに傷つけあってしまったり、また夢があるけどうまく動き出せないもどかしさ、理想と現実の違いなど、そういういびつさが描かれた作品だなと感じます。ここには昨年1年を過ごした体感であるとか、世の中を見ていて感じたことも影響しているんでしょうか。

ロザリーナ:アルバムのジャケットがこの作品を表していると思うんです。上は羽の生えた子どもで、下は勝利の女神であるニケの石像なんです。まだ現実の世界や、大人の世界を知らない子どもの時代は、夢に満ち溢れていたし、やりたいことや描いていた未来がたくさんあって、空も飛べるような感覚でいたんです。でもこうして大人の世界で、やりたいことを仕事にできたときに、空が飛べないことを知ったりする、というか。夢を追いかけていた人が、一旦その夢を見失ってしまったり、わからなくなってしまったような状況の人が聴いてくれたら、共感してもらえる曲がたくさんあるんじゃないかなと思います。

ーータイトル曲の「飛べないニケ」はいつ頃できた曲だったんですか。

ロザリーナ:これは『飛べないニケ』というアルバムをリリースすると決まってから、このタイトルで今しか書けないことを書きたいな思ったんです。だから、アルバムのなかでは一番新しい曲ですね。

ーーまさにアルバムを象徴する曲なんですね。その“今しか書けないこと”とは?

ロザリーナ:今、ロザリーナとしていろんなことをやらせてもらってきて、少しずつ人に知ってもらっていると思っているんですけど。そんなたくさんの方が知ってくれるにつれて、私のことを好きな人もいれば嫌いな人もいるはずで。そんななか、時代的にもSNSがあったり、アーティストとリスナーの距離感がすごく近いものになっている。以前だったら、アーティストと会えないからこそライブに行っていたと思うんですけど、今はそれこそ配信でのライブがあったり、そこでは誰でもコメントができたりする。それも年齢制限もなく、どこの誰が書いてるのかわからない、そういうコメントが直接的に届くようになっていて。なので今の時代、私が今思ったことをそのまま歌にしています。

ーー自分でもSNSに心をやられてしまう感じがあった。

ロザリーナ:ありましたね。歌詞ではそれを強めな言葉を使って書いたりもしているんですけど。

ーー「飛べないニケ」は、そういったSNSや外から聞こえてくる声について〈悪魔の声〉と言っていますね。

ロザリーナ:はい。それは誰かひとりの声というよりも、何個もあるものがひとつの悪魔のようになって周りにいる、そんな感覚に陥ったことがあって。そのときはすごく落ち込んでいたんですけど。でもこの気持ちは、シンガーソングライターをやっているメリットというか、曲にして歌えるメリットだと思うから。今書かないと、と思った曲だったんです。

ーー悔しさや怒りはすべて曲にしてしまおうと、それをバネにしたんですね。「飛べないニケ」はもちろん、今回はいろんな感情を見せる、ロザリーナさん自身の気持ちをよりあらわにする感じが出ている気がします。

ロザリーナ:身を削りながら書いた曲たちという感じがしますね。

ーーそれは様々な曲の歌詞、言葉の多さからもわかります。言いたいことが溢れ出てくるような、削れない思いがたくさんあったんだろうなと。その言葉の多さから、ラップ的ではないですが、溢れ出る言葉のままに歌っているような曲も多いですよね。

ロザリーナ:確かにそうですね(笑)。

ーー歌詞から曲がスタートしていくようなこともあるんですか。

ロザリーナ:例えば「飛べないニケ」だったら、“飛べないニケ”というコンセプトがあって、それに対して書いた曲でした。悪魔の声とか、今自分がどう思っているかをまずたくさん箇条書きしていく。そこから、メロディに対していちばん優先的なものを摘んでいくという書き方をしたんですけど。なので、歌詞を先に、というよりは、箇条書きにしたものやテーマをまとめて曲にするなかでどんどん整理していくやり方が多かったかもしれないですね。

ーー多く出たキーワードってありましたか?

ロザリーナ:“悪魔の声”っていうのはずっとありました。

ーーそれがもう呪文のようにあったんですね。

ロザリーナ:マネージャーとかにもずっと言ってましたね、悪魔の声が聞こえるって(笑)。自分ではずっと悪魔の声だと思っていたし、呪文のようだと思っていたんでけど、じゃあその悪魔の声って実際は何なんだろうって、あとからいろいろ考えていったのはありました。そこから、曲を書きはじめた感じでしたね。

ーー「飛べないニケ」のなかでは、それは孤独の声なんだっていう表現になっていますね。

ロザリーナ:みんなきっとそういう時期だったと思うし。もしかしたらSNSを日常じゃないものとして使っている人もいるかもしれないし。現実の世界ではそういう人じゃないのに、SNS上では違う自分がいたりするかもしれない。だから、こっちからはその言葉以外何も見えないけど、人それぞれできっといろいろあるんだろうなっていうのは思いましたね。

ーーそういう声が生まれる背景を考えたんですね。

ロザリーナ:そういう“時代”でもあるんだろうなと思いますしね。

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