Utena Kobayashi、小田朋美、AAAMYYY......先鋭的なソロ作から劇伴・CM曲まで、カルチャー牽引する幅広いソングライティング

 ソロ作品、バンド、他アーティストのサポートから映画やドラマの劇伴、CM音楽など、カルチャーを牽引するクリエイターの存在は時代のムードを体感させてくれる。プロジェクトに応じて様々なソングライティングやコンポーズ、アレンジやプロデュース能力を発揮する女性アーティストの存在が、ここ数年で際立って目立つようになってきた。

 まず、D.A.N.やKID FRESINO(バンドセット)のサポート、蓮沼執太フィルのメンバーでもあり、スティールパンやシンセ奏者として存在感を強めているUtena Kobayashiのコンポーズやソングライティングを一望してみよう。

Utena Kobayashi『Fenghuang』

 2018年6月、音楽コミュニティレーベル<BINDIVIDUAL>の立ち上げと同時に、ermhoi、Julia Shortreedとともに結成したBlack Boboiでコンスタントに作品をリリース。翌年にはDiana ChiakiとともにMIDI Provocateurを始動し、こちらでもシングルを複数リリースしている。また、サカナクションに関わるクリエイター、アーティストとともに作る「NF」のオンラインイベントや、ポーランド発祥のアンダーグラウンドフェス『Unsound Festival』にも登場するなど、エレクトロを軸にしつつ、彼女の音楽がもはやコアとマス、アンダーグラウンドとオーバーグラウンドといった基準で測れないものであることが分かるだろう。

 そのUtena Kobayashiが2021年の年明けにリリースする久々のソロ名義のアルバムに至るまで、3カ月連続で3作のEPをリリース中だ。10月16日に配信リリースされたコンセプト作品第一弾である『Fenghuang』には、“飽和と再生”をテーマにした3曲を収録。1曲目の「fai」はアルバムに至る物語のエピソードゼロだそうで、下記のストーリーを持つ。

時は2020 
進化を重ねた世界は、飽和による分子の崩壊がはじまっていた
情報、悲しみ、恐怖の入り混じる混沌のなか、ある人間は心を一輪の花に移植する
そしてその花を四次元空間に送り込み、肉体だけを2020に残した人間は世界中の分子と一体となり消えていく
(「fai」STORY)

 静謐なボーカルとダークなシンセのトーンは、サウンドこそ違うもののブリストル一派的な陰鬱さを持ち、ノイジーなリフや竹を叩くようなパーカッシブなサウンドがパッシブで、どこか時空の移動をイメージさせる。2曲目の「roioi」ではスティールパンと声が呼応し、反復するミニマルなビートとが眠りに誘うよう。3曲目の「HIHIHI」はアトモスフェリックなシンセと、空中の高いところで響いているようなボーカルが神秘的。ただ、彼女の個性であるインダストリアルな音の欠片と、東アジアの祭祀で鳴っているガムランに似たような響きが調和しているのが特徴的だ。11月20日には第二弾となるEP『Darkest Era』をリリース。本作では「女神を失った世界で起こる“悲しみ”」をテーマに3つの物語が展開されるという。

Utena Kobayashi / fai(Official Music Video)
Utena Kobayashi - HIHIHI (Lyric Video)

 思えば、彼女の2016年のアルバム『VATONSE』は声とエレクトロニクスの融合であると同時に、当時よく聴いていたというドイツのインダストリアルメタルバンド・Rammsteinの影響が印象的だった。そしてスティールパンという楽器の発祥やバックボーンをもはぎ取り、明るさや陽気さではなく、悲しみや儚さを表現していたことも。言わば暴力性や儚さを“音楽ジャンル”としてではなく、サウンドの成分から感じ取り、自分のものにできるのが彼女の音楽を独特なニュアンスに導いているのだろう。映画『十二人の死にたい子どもたち』のサウンドトラックではシーンに沿った曲を書き、インストでも儚さと暴力性、ダークな感覚を表現。かと思えば「いいちこ」のCMや、「KIBO宇宙音楽局」内の『流星ライブ』では情景を広げるスティールパンの演奏を聴かせている。矛盾しそうなジャンルを同居させ、そもそもの楽器の出自とは異なるメロディや響きでリスナーに驚きを与えるクリエイションには、今後さらに注目したい。

映画『十二人の死にたい子どもたち』予告【HD】2019年1月25日(金)公開

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「音楽シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる