菊地成孔×小田朋美が語る、SPANK HAPPY再始動への道筋 「ODは最高のパートナー」

SPANK HAPPY、再始動への道筋

 菊地成孔の主宰レーベル<TABOO>のイベント『TABOO LABEL Presents GREAT HOLIDAY』(5月13日/新木場STUDIOCOAST)で約12年ぶりに再始動したSPANK HAPPY(Boss the NK a.k.a. 菊地成孔、OD a.k.a. 小田朋美)。新曲「夏の天才」(三越伊勢丹グループ「グローバル・グリーンキャンペーン」のキャンペーンソング)の配信に続き、フジロックフェスティバル出演、ワンマンライブの開催、さらにアルバムの制作も進行中と“第3期にして最後の”SPANK HAPPYへの期待が高まっている。

 三越伊勢丹のキャンペーンソングとはいえ、シングル1曲と、15分間のエキジビジョン・ライブを行っただけで、インスタグラムのフォロワーが開設1カ月で2000人超えした<最終SPANK HAPPY>。彼らは約12年の休眠から醒めることに対し、何を考えているのか?

 リアルサウンドではメンバーのBoss the NK、ODにインタビュー。BossとODの出会い、SPANK HAPPY再始動に至った経緯、今後の活動ビジョンなどについて語ってもらった。(森朋之)

Boss「内的欲望を嗅ぎ取るのがプロデューサーの仕事」

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――『TABOO LABEL Presents GREAT HOLIDAY』での復活ライブ、素晴らしいパフォーマンスでした。準備はいつ頃から始まったんですか?

Boss the NK a.k.a. 菊地成孔(以下、Boss):それほど長い準備期間はなかったですね。(「夏の天才」が)三越伊勢丹さんのキャンペーンソングになることは決まっていたので、この曲だけはちょっと前から完成していましたが。

OD a.k.a. 小田朋美(以下、OD):『GREAT HOLIDAY』パフォーマンスの準備はイベントの1カ月前ぐらいからですね。「夏の天才」以外の曲を決めて、ダンスの練習をはじめて。

Boss:僕はまあ、もともとダンスは好きなんだけど、ODは、少なくともステージで踊ることに関してはまったくのビギナーで、『GREAT HOLIDAY』のときはエキシビションで3曲だけでしたが、ビギナーが振り付けを覚えるのは大変じゃないですか。ビギナーが歌を歌うのと一緒で。

OD:全部で6~7回くらい練習しましたね。ダンスはとにかく使う脳がぜんぜん違っていて、すごく新鮮でした。

Boss:1回目の練習のときは「この先どうしよう。やっぱピアノを弾かせないと体が動かないのかも」と頭を抱えたんですけど(笑)、ODは全方位的にすごい才能の持ち主で、アッという間に上手になって(笑)。

OD:いえいえ(笑)。SPANK HAPPYをやることになったときもすごく嬉しかったんですけど、スタンドマイクで歌った経験はほとんどなかったし、そこに振り付けがあるのもまったく初めてで。歴史の長いバンドで、いろんな時代に思い入れのあるファンの方々もいらっしゃるだろうし、と、やる前は不安が多かったんですが、やり始めたら全てがすごく楽しかったですね(笑)。

――SPANK HAPPYの活動は約12年ぶり。「いつかは再始動しよう」と思っていたんですか?

Boss:いや、まったく考えてなかったです。全部話すと長くなるから自分でまとめてアップしようと思ってますが(参考:第三インターネット or ビュロー菊地チャンネル(前編)ビュロー菊地チャンネル(後編))、93年の結成から、いろいろあって、2006年に1回終わってるんですよ。京都大学の西部講堂でスパークスの前座を野宮真貴さんのボーカルでやって、いろんな意味で「完全にもういいや」と思いまして。その翌年にDATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN(現DC/PRG)も活動休止して、00年代に自分で立ち上げた両極端のふたつのグループ――素人の女の子とやるSPANK HAPPY、手練れの男たちとやるDC/PRG――がどちらもなくなった。その後、ポストモダン・ジャズに向かってペペ・トルメント・アスカラール、ダブセクステットの活動に集中することになるんですが、さらにその2年後の2009年に小田朋美さんと会ってるんです。

ーーSPANK HAPPYが解散してちょうど3年後ですね。

Boss:そうですね。そのときは頭のなかにSPANKHAPPYの“ス”の字もなかったんです。どうして小田朋美さんと会ったかというと、その頃に『爆笑問題のニッポンの教養』というNHKの番組で音楽を担当していたんですけど、その番組のスピンオフとして、爆笑問題さんが東京藝大の学生と対話するイベントがあったんですよ。僕は当時、東京藝大の非常勤講師で、かつ番組の音楽監督だということでパネラーとしてゲスト出演したんです。それで、収録が終わって帰ろうしたら、坊主頭の目つきの悪い少年が後ろからついてきて、「あんなイベントぜんぜん意味ないっすよ」「茶番ですよ」って、ブツブツ言ってるんですよ(笑)。「昔の不良のパロディみたいな物言いだな。かわいいな」と思って、シカトしないで、歩きながらしばらく話に付き合ったんです。「いやあなたね、テレビ番組なんてぜんぶ茶番ですよ。今日なんかマシな方じゃないですかね。太田さんはクリエイター気質もあるし真面目な方だから、テレビ用じゃなく、学生とちゃんと向かい合っていたと思いますけどね」と丁寧に答えたら、何も返事が返ってこなくて(笑)。

OD:すみません(笑)。

Boss:「あれ? この子、もしかしたら女の子かな?」と思い始めたときに校門を出て「じゃあ、またいつか」って別れたんだけど、それが小田朋美さんだったんですよね。2009年の8月だから、ちょうど9年前。当時彼女は芸大の作曲科の学生で、僕の講義にも軽くモグってたみたいで。よくある運命論ですけど“そのときは、後にそんなことになるとは、誰も知る由もなかった”という奴ですよね。

OD:そのときのことはよく覚えてます。「討論会やってます」という張り紙を見て覗きに行ったら、参加することになって。菊地さんもいらっしゃって「あ、菊地先生だ」という感じだったんですけど、太田さんが話したことにものすごく腹が立って「こんなのは不毛だ!」って言っちゃって。それが番組オンエアの冒頭で使われてしまったんです(笑)。

菊地:当時は、、、、まあ、今も少しは(笑)、イライラした、パンキッシュな女の子でしたからね。暗くて怒っていてコミュ障なんだけど、ただ、何故か面白いんですよ(笑)、笑えるところがあって、それはODのキャラクター造形まで繋がってます。

――その後、ODとBossはいつ再会するんですか?

菊地:それもちゃんと話すと長いんですけど、まず、<エアプレーンレーベル>の阿部淳くんっていう人がキーパーソンで。彼ももともと僕の生徒で、飲み友達でもあるんだけど、自分のレーベルのために、僕にプロデューサーの仕事をまとめて持ってきた人なんです。彼の紹介で、“ものんくる”の『飛ぶものたち、這うものたち、歌うものたち』(2013年)、“けもの”の『LEKEMONOINTOXIQUE(ル・ケモノ・アントクシシーク)』(2013年)をプロデュースしたんだけど、その後「ケタ違いの子がいるので、ぜひまたプロデュースをお願いしたい」と話を持ってきて。

――それが小田さんだった?

菊地:はい。最初は「芸大の作曲科ということはクラシックの人でしょ? 僕がプロデュースするのは失礼だよ」と断ったんですよ。音源はクラシックをベースにしたミクスチャーという感じで、少なくとも僕自身はちょっと大げさにドラマティックで好みではなかったし、作詞ができないらしく、宮沢賢治や谷川俊太郎の詩を歌っていて。僕、二人とも苦手だから(笑)。

OD:(笑)。

Boss:ただ、本人を前にして言うのは若干照れますけど、ものすごい才能は感じたんです。人間いちばん煩悶するのは「いいものの筈なのに、どうしても好きになれない」もしくは「イヤなものの筈なのに、どうしても惹かれてしまう」ということじゃないですか。最初は抵抗を感じていても、やがて病みつきになるという、まあ普通の流れで。歌もピアノも素晴らしいし、ルックスもいい。だから阿部くんがやたら粘ってたんですよ。

OD:私も粘りました。

Boss:一時期、僕のメールが阿部くんからの「re:小田が」「re:re:小田が」で埋め尽くされて(笑)。で、まあ、共同プロデュースすることになったんです。とにかくオリジナル曲が足りなくて。

OD:7曲くらいしかなかったんです。

Boss:それだとアルバムにならないし、それらの曲は僕は無関係ですよと。なので、追加分の3曲くらい僕のプロデュースでやるのだと。だから『シャーマン狩り』(2013年)というアルバムは小田さんのオリジナル曲と僕のプロデュース曲のバイ・コンテンツなんですよ。小田さんの曲は「〔風が吹き風が吹き〕」とか「雨よ降れ」とか(笑)。声と音楽は無茶苦茶シリアスなのに、僕、大笑いしてました(笑)。「いっそがしいなあ、この人(笑)」とか言って(笑)。

OD:自然現象の歌ですね(笑)。

Boss:雨乞いと風乞い(笑)。後でアルバムタイトルになるんだけど、箱庭の、小さくまとまったシャーマンだったの、小田さんは当時。なので僕のプロデュース曲は、エッジでポップにするんだ、という意気込みで、カバーですよね。小田さんは作曲家だけど、歌とピアノが素晴らしいので、当時DC/PRGのドラマーだった田中教順くんとのデュオでやったらどうだろうと。15~6曲くらい候補を渡したところ、小田さんが選んだのが「love the world」(Perfume)、「Angelic」(SPANK HAPPY)、「鏡の中の十月」(小池玉緒)だったんです。当時は『Black Radio』(ロバート・グラスパー)の直後だったけど、小田さんと田中くんはメトリック・モジュレーションを使って、時間を自由に伸縮するような演奏をしていて。それはDC/PRGでずっとやってきたことだし、いまでは当たり前の手法だけど、その頃はほとんど誰もやってなかったんですよ。「これはすごい。このスタイルだったらアルバム1枚、責任を持ってプロデュースする」と思いました。んでまあ、そうこうしているうちに、どこかのタイミングで「え、小田さんって、あのときの坊主頭の子?」ということに気付いて。

OD:そうですね(笑)。

Boss:「そうです、えへへ」っていう(笑)。その時は髪も伸びていたし、ちゃんとレディになっていたんだけど、息苦しさ、破壊衝動みたいなものは消えてなかったんです。「自分を縛っているものから解放されたい」という、まあ、青春の感じですよね。で、アルバムのタイトル候補をいくつか出したら、小田さんが『シャーマン狩り』が良い。ということになった。さっきも言いましたが、これは、一聴すると、父殺し、アンチ・エディプスみたいにイメージされがちですけど、自分で自分を狩ることを意味します。小さくまとまった箱庭のシャーマンである小田さんが、そんな小田さん自身を狩りに出るのだと。とか考えてるうちに、あ、と気がついて、「アルバムのジャケットは“まっぱ(全裸)”でどうですか?」とメールしたら、すぐに「あ。いいですね」と。

OD:はい(笑)。

Boss:“#Me,Too”の社会だし、ここは厳密に書いてほしいんだけど、強要したわけでないですよ(笑)。内的欲望を嗅ぎ取るのがプロデューサーの仕事というか、まあ、小田さんご自身が脱ぎたそうだったというか(笑)。

OD:脱ぎたそう(笑)。

Boss:一番シンプルな解放ですから、異存はないなと思いまして。「僕とカメラマン以外はスタジオに入りませんので」という条件で撮影して。僕の頭のなかにはアンディ・ウォーホルのイメージがあったので、写真に着色しましたが。そのときは既に「この人の才能はさらに開いていくし、そこには莫大なものがあるはずだ」と思っていて。ただ、シャーマンが狩れるかどうかわからなかったし、どのぐらいクラシックに依存してゆくかも予測できなかった。吉田沙良さん(ものんくる)も青羊さん(けものもの)もジャズ歌手上がりなんですよ。だから、この先、僕がどこまでプロデュースできるかはわからないけど、フックアップはしますよと言ったんです。そのときの小田さんの答えは「フックアップって何ですか?」だったんだけど(笑)。

OD:(笑)。

Boss:その後、僕がプロデュースしたJUJUさんの現場につれていって仮歌を歌わせて。松尾”KC”潔グランドプロデューサーが「この人、すごいね。菊地さんどこで見つけたの?」と熱々になったんで「やっぱ間違いない」と確信して、それからはストリングスのアレンジだったり、僕のメルマガのコンテンツにもレギュラーで出てもらって。それで、そんな中、DC/PRGから丈青が抜けたんですよ。SOIL&”PIMP”SESSIONSが忙しくなったのが理由で、円満脱退なんですが、そのときは結構悩んだんですが、ある時いきなり、「あ、小田さんに頼もう。小田さんに頼めばいいんじゃん。なんで気がつかなかったんだろう」と思って。そしたらヌードの時と同じ、二つ返事で「はい」と言ってくださって。

OD:そうですね。

Boss:丈青はジャズスキルがすごくて、がんがんソロを弾きまくるタイプのピアニストなんです。坪口(昌恭)との弾き合いもすごかったんだけど、プログレ/ポリリズミックなリフはちょっと苦手で。小田さんは譜面に書きさえすればどんなに難しいフレーズでもすぐ弾けるし、クラシックから現代音楽にまで通底するスキリングの、毛色の変わったソロも導入できたんですよね。

――その後、小田さんはceroのサポート、CRCK/LCKSのメンバーとしても活躍。菊地から見て、小田さんの音楽的才能のもっとも凄いところとは?

Boss:我々ジャズメンは古典的な調性を軽視する傾向がありがちです。「脱調性、ポリモーダル、無調こそがすごいんだ」というところがある。ところが小田さんのシンプルな弦楽アレンジを聴いた時、感動して泣きそうになったんです。調性というものの強さと、彼女自身の才能を再確認しました。とまれ、その時点でも「彼女をヴォーカルにSPANK HAPPYを復活」なんてまったく思ってもいなかったんですが(笑)。

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