トラックメイクから演奏・歌唱もこなす若き才能、SPENSR “夏の終わりのラブソング集”『MOIST FUTURE』を語る

マルチな才能 SPENSRの楽曲作りに迫る

 SPENSRは、トラックメイクに加え、楽器演奏、作詞作曲、さらには映像制作までをこなすカズキ_ウツミによるソロプロジェクト。2019年1月にデビューシングル「GAME OVER」を発表し、今年5月には1stアルバム『MOTHERBOARD』をリリース。ネオソウルとエレクトロとシティポップスを掛け合わせた都会的なサウンドを展開し、注目度を日増しに高めている。そんなSPENSRがアルバムからわずか4カ月で早くも新作EP『MOIST FUTURE』を完成させた。マルチな才能を持つ彼の音楽原体験はどこにあるのか。ブラックミュージックとの出会いや、楽曲制作に向き合う姿勢、独特の歌声が生まれた背景、個性的な歌詞へのこだわりなど、今後のブレイクが期待されるニューカマーの音楽観にさまざまな角度から迫った。(猪又孝)

「海外のネオソウルを自分なりに消化した1stアルバム」

ーーSPENSRさんの音楽にまつわる原体験から教えてください。

SPENSR:4歳からピアノを習っていたので小さい頃から音楽には触れていて。10歳頃からはギターとドラムを始めました。

ーーギターとドラムはどのようなきっかけで興味を持ったんですか?

SPENSR:アニメの『NARUTO -ナルト-』をよく見ていて、FLOWのオープニング曲を聴いてバンドをやりたいと思ったんです。そこから安いギターを買ってもらって独学で覚えて、ほぼ同じタイミングでドラムもやりたいと思って。父親は学生時代にバンドをやっていたので楽器をやることに理解があって、父親と近くのスタジオに入って一緒に曲をカバーすることを始めました。

ーーその頃、どのようなアーティストを聴いていましたか?

SPENSR:普通にテレビで流れるようなJ-POPを聴くくらいで、自分から探して聴いてなくて。中学時代から日本のバンドをディグり始めて、Base Ball BearとかTHE BACK HORNとか、そのあたりのロックを聴くようになりました。

ーー聴いてギターでコピーしたり?

SPENSR:そうです。ただ、バンドをやってなかったし、学校に音楽の話が合う友達もいなかったので、中学校の頃はずっと一人で家で演奏してました。

ーー高校時代はどうでしたか?

SPENSR:高1の終わりか高2のときに初めてバンドを組んだんです。当時、ずっと通ってた楽器屋の店員さんと音楽の話をしていて。バンドメンバーを探してることを相談したら、良いヤツがいるって言われてベーシストを紹介されて。それが今もサポートメンバーでベースを弾いてもらってる安田照嘉なんですけど、彼と2人でバンドを組んだんです。

ーー2人でバンドですか?

SPENSR:そう。ドラムは自分で叩いたものをマイク2本とかで録音して、それを流して演奏を合わせるっていう。その頃はもうオリジナル曲を作ってたので、自分で叩けるなら叩いた方が早いなって。

ーーそのときのバンドはどんな音楽性を志向してたんですか?

SPENSR:高校に入って洋楽を聴くようになったんですけど、Arctic MonkeysとかBloc Partyとかを聴いてたので、そのあたりのUKインディーロックみたいな音楽をやってました。

ーーその頃にはオリジナル曲もあったそうですが、曲作りはいつ頃から始めたんですか?

SPENSR:小6くらいから作り始めました。ギターを一人でやっていたときに突然、リフを思いつくようになって。これを形にした方がいいなと思って、簡易的なレコーダーで重ね録りしてたんです。

ーーMTRを買ってもらったんですか?

SPENSR:後々買ってもらいましたけど、小6のときはギターのエフェクターに録音機能がついてるものがあって、それにギターをどんどん重ねていったんです。ただ編集はできないんで、ほぼ一発録り(笑)。ドラムもそこにマイクで繋いで重ねてました。

ーー現在のソウル/R&B系の作風に繋がる音楽は、いつ頃から聴くようになったんですか?

SPENSR:SPENSRの前にKIWILIPSというバンドをやってたんですけど、そのバンドがシティポップ系だったんです。その時期に山下達郎さんにハマって、そこからブラックミュージックを聴くようになって、こういう音楽性に変わったんです。

ーーKIWILIPSは2017年結成なので、今から3、4年前の話ですね。

SPENSR:そうです。今24歳なので、20歳くらいから。

ーーそれまでのロックバンド人生から、どのようにして山下達郎さんへと繋がっていったんでしょうか。

SPENSR:その頃アナログレコードを集めるようになって、70年代〜80年代の音楽をディグるようになっていて。同時にChvrchesとかのシンセポップも聴いてたから、その流れでMiami Horrorとかを聴いて、シティポップの要素が入ったバンドを聴くようになっていったんです。そういう中でYouTubeの関連動画とかで山下達郎さんに辿り着いたんだと思います。あとヴェイパーウェイヴも好きだったんです。ヴェイパーウェイヴは日本の音楽をサンプリングしてたりするので、そこから逆に古いシティポップを知ることもありました。

ーー日本だと2015年あたりから、Suchmos、Awesome City Club、Shiggy Jr.、Yogee New Wavesといったバンドの登場で、シティポップが台頭してきた時期がありましたが、そうしたムーブメントからの影響は?

SPENSR:絶対あるでしょうね。実際Suchmosは聴いてましたし、その頃メインストリームだったから。確実に何かの影響を受けてる感じじゃないけど、無意識に感化されてると思います。確かにそういうのもきっかけかもしれないですね。

ーー山下達郎さんは、最初にどの曲を聴いたんですか?

SPENSR:「SPARKLE」です。それが入ってるアルバム(『FOR YOU』)を最初に聴いて、そこから達郎さんのアルバムを全部聴いて。そこからディスコ系やソウル系にハマったりとか。達郎さんだとゴスペルの要素もあるので、そういうのも聴くようになりました。

ーー達郎さんを入り口にして出会った中で影響を受けたアーティストは?

SPENSR:Vulfpeckですね。Vulfpeckのベーシストのジョー・ダートが好きになって、SPENSRはベースがカッコいい曲を作ろうと思ったくらいなんです。そこからVulfpeck周りのミュージシャンということでルイス・コールを聴いたり。あとアンダーソン・パークはメチャメチャ聴いてます。あとはEarth, Wind & Fireハマりました。

ーーアースから70年代ソウル、ファンクとかも掘っていったんですか?

SPENSR:聴いてはいるんですけど、今っぽい感じをやりたかったので、そういう要素が入った今のアーティストを参考するっていう感じでした。

SPENSR - GAME OVER 〔Official Video〕
SPENSR - Dried Flower〔Official Video〕

ーーそもそもSPENSRとしての活動はどのようにしてスタートしたんですか?

SPENSR:KIWILIPSが活動終了することになり、これからどうするってなった時にベースが「ソロでやったら面白いんじゃない?」ってアドバイスしてくれて、それでソロを始めたんです。

——だから“ソロプロジェクト”という言い方にしてるんですか?

SPENSR:そうです。SPENSRの音源は完全に打ち込み。でも、ライブになるとKIWILIPSのメンバーも含めたバンド演奏になるっていう前提があったので、ソロプロジェクトとしたんです。

SPENSR - 愛なんて(Ai Nante) [Official Video]

ーー今年5月に出した1stアルバムはどのようなものを目指して作ったんですか?

SPENSR:SPENSRを始めて1年くらい経って、自分一人で作る音源と生演奏でやるライブが全然違って面白いなと思っていたので、音源は完全にデジタルに寄せようと思って作りました。その頃はHONNEとかトム・ミッシュとかをよく聴いてたんで、海外の今のネオソウルを自分なりに消化したらどうなるかなって考えて作ったアルバムです。

ーーアルバムの中で特に思い入れの強い1曲は?

SPENSR:「Navy Slumbers」かな。シングルで出した曲なんですけど、でき上がったときに、これがSPENSRの方向性だなって掴んだ感じがあったんです。「Navy Slumbers」をきっかけにアルバムの他の曲の方向性が見えてきたし、アルバムの軸になってる曲です。

SPENSR - Navy Slumbers 【Live from MOTHERBOARD -ONLINE-】

ーーそのアルバムから4カ月でリリースされた今回のEP『MOIST FUTURE』は、どのようなテーマで作ったんですか?

SPENSR:夏にまとまった作品を出したいと思っていて、夏の終わり的なコンセプトを元に4曲書いたんです。トラックは前々からできていたものがありますけど、歌詞とか最終的な仕上げはそのコンセプトで作りました。

ーー『MOIST FUTURE』というタイトルの由来は?

SPENSR:4曲に共通したテーマが“夏の恋愛”で。夏の蒸し暑い感じっていうイメージがあったので、そこから湿ったという意味の「MOIST」という言葉を入れようと。あと歌詞の内容的に駆け引きとか焦れったい感じをテーマにしていたので、そんな恋愛の先を想像させるっていう意味で「FUTURE」をつけたんです。

ーー4曲とも恋の行方に不安を感じるようなストーリーの歌詞だったので、先行きが見えないというような意味で『MOIST FUTURE』なのかなと思いました。

SPENSR:そういう感じもあります。僕の歌詞はネガティブというか、めちゃくちゃ明るいわけではないので。「MOIST」には目が潤むっていう意味もあるので、バッドエンドじゃないけど、そういう意味も込めて付けてます。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる