金子厚武の「アーティストの可能性を広げるサポートミュージシャン」
“理論派”の小西遼と“感覚派”のAAAMYYYが語る、インターネット以降における音楽家のあり方
バークリー音楽院への留学から帰国後、自らがリーダーとなるCRCK/LCKSを結成しつつ、サックスやボコーダーを演奏するマルチプレイヤーとして、幅広いアーティストをサポートしている小西遼。ソロアーティストに軸足を置きつつ、昨年Tempalayにメンバーとして加入し、近年サポートやフィーチャリングに引っ張りだこのAAAMYYY。現在はTENDREのサポートとしても活動する2人は、ともに個の活躍が際立つ今の音楽シーンを体現する存在であると同時に、理論派と感覚派というまったくタイプの違う音楽家でもあるのが面白い。それぞれのスタンス、TENDREでの活動、時代感まで、幅広く話を聞いた。(金子厚武)
AAAMYYY「感覚的にかっこいいと思った人としかやってない自負はあります」
――アーティスト活動とサポート活動を並行して行うことによって、自らのクリエイティブにどんな還元があると考えていますか?
小西:俺は基本的にソロ、バンド、サポートをあんまり分けて考えてなくて、最初は「好きな音楽を好きなだけやる」みたいな、「話が来て、面白そうだったらやる」っていう、ただそれだけだったんですけど、結果的には自分に還元されてるものはめちゃめちゃありますね。例えば、TENDREと一緒に音楽をやるようになって、太朗ちゃん(TENDRE/河原太朗)が聴いてる音楽をすごく聴くようになり、それは間違いなく自分の糧になってます。今よく聴いてる音楽の基本的な方向性って、太朗ちゃんと会ってから知った音楽の方向に僕が流れた結果なので。
――以前とはどう違うのでしょうか?
小西:それまでは、僕はそもそもジャズの人間なので、ジャズと、高校のときに聴いてたJ-ROCKみたいなものと、あとは映画音楽、その3つをないまぜにしてる感じだったけど、LAとかロンドンの音楽を太朗ちゃんに教えてもらって、自分でディグるようになって。
――その変化はCRCK/LCKSにも影響を与えていると言えますか?
小西:もちろん影響はあると思うんですけど、CRCK/LCKSはあくまで5人の音楽だから、俺の変化がそこまで強く反映されてるってことはないかもしれない。ただ、ボーカリストに対するバンドの中の人間としてのアティテュードに関しては、TENDREで学んだことは大きくて。太朗ちゃんがどういう風に歌いたいのかを把握して、「じゃあ、こうアプローチすれば歌いやすい」とか、「こうすれば歌が立つ」みたいに考えるようになったのは、CRCK/LCKSにも反映されてると思います。
――AAAMYYYさんはどうでしょう? アーティスト活動とサポート活動を並行させることによるクリエイティブへの還元について。
AAAMYYY:私は(音楽家としては)小西とは真逆で、ずっと感覚で音楽をやってきて、だから携帯のアプリとか、身近にあったもので音楽を作るところからソロ活動が始まっていて、その分知らないことが多過ぎるから、いろんなことを知るためにサポートをやっている節はあって。でも、何でもやるわけではなく、Tempalayにしろ、TENDREにしろ、Ryohu(KANDYTOWN)にしろ、ホントに感覚的にかっこいいと思った人としかやってない自負はあります。すごくかっこいいけど、でも言葉にはできないその人の何かを解読したくて、それが音楽なのか、人間性なのか、生活なのか、周りにいる人なのか、そういった部分を知ることで、自分の音楽にも還元していると思います。
――音楽の知識を吸収するだけではなく、「その人のことを知りたい」という欲求も強いと。
AAAMYYY:それをすることで、「じゃあ、自分の強みは何なのか?」っていうのを見つけていった感じもあって、それが歌だったり、佇まいだったり、協調することだったりするのかなって。もともと自分が持っていたけど、ぼんやりとした輪郭だったものが、サポートで誰かと関わることによって、自分でちゃんと理解できようになってきたと思います。
ーー小西さんの場合は、サックスという楽器の特性もあって、ワンポイントでの参加も含め、様々なアーティストに関わっていると思うんですね。
小西:面白いのが、サックスは「吹く」楽器だからっていうのもあって、体感として、受け取るものというより「出すもの」なんですよ。どちらかというと、「提供する」みたいな意識になる。この間、Tempalayのリキッドルーム公演(『TOUR「21世紀より愛をこめて」× LIQUIDROOM 15th ANNIVERSARY』)に呼んでもらったときも、「自分の中のどの手札を出して、どうやったら一番Tempalayに貢献できるか」っていう考え方で。
――なるほど。
小西:でも、TENDREとかCharaさんはちょっと違って、単純に、一緒にいる時間が長いからっていうのもあると思うけど、太朗ちゃんは俺自身を見てくれてる感じがすごくするから、そうなると、こっちもいろいろ考えるし、ただの放出じゃなくなる。Charaさんにしても、昔は出す意識が強かったけど、今はバンマスをやらせていただいているので、もっと包括した目線があるというか。だから、今自分の中にポンポン情報が入って来るのを明確に感じてるのは、TENDREとCharaさんかな。
――近年のAAAMYYYさんはフィーチャリングでの参加も含めて、いろんなアーティストに関わってていると思いますが、そのなかで特に今の自分の活動に影響を与えたコラボレーションを挙げることはできますか?
AAAMYYY:一言で「フィーチャリング」と言っても、アーティストごとにやることは全然違うんですよね。例えば、踊Foot Worksとやった曲(「髪と紺」)は、キイチ(Tonedenhey)がすでにメインのメロディを用意していて、私は歌うだけだったから、与えられたものがあるなかで、それをよりよくするために自分にできることを考えて、コーラスワークに力を入れて。でも、TSUBAMEさんと一緒にやった曲(「YOU」)は、TSUBAMEさんにトラックをもらって、メロディと歌詞は自分で書いたので、プロセスが全然違って。どんな形にせよ、私は作曲者やバンドの良さを引き立てる存在であり、ぶちかます存在でもある、そういう自覚を持ってやってるので、ほんとに全部面白いです。誰でもいいような案件っていうのはほぼないと思いますし。
――相手の表現をただバックアップするだけではなくて、自分自身の表現を出すことによってバックアップするというか。
AAAMYYY:Tempalayに関しては、最初は「キーボードが弾ける女の子なら誰でもいいんじゃないのかな?」っていうスタンスだったんです。でも、やっていくうちに、「これは誰にでもできることじゃない。自分がここにいることの意味がある」って思えるようになって。
――だからこそ、メンバーにもなった?
AAAMYYY:そうですね。今Netflixで『アリサ、ヒューマノイド』っていうドラマがやってて、それに出てくるAIがめちゃめちゃ頭よくて。すべての物事を学習して、吸収して、自分を構築していくんです。あるときそのロボットが誘拐されて、犯罪者に囲まれて、「これをやれ」って言われたときに、「それを受け入れたら、そうじゃなかった自分とは別の方向に狂暴化してしまうこともありますよ」って、ロボット自身が言ってて、「オオッ!」って思って(笑)。
――作用し合う関係性という意味で、バンドの関係性とリンクした?
AAAMYYY:その選択をすることによって、その人がそのバンドの一部になるわけだから、一緒にやっていくっていう時点で、それはすごい選択だなって。