神前 暁と振り返る、作曲活動20年における“4つのターム” 「感動のハードルはどんどん上がってる」

神前暁に聞く“4つのターム”

 2020年3月18日に、作曲家・神前 暁のデビュー20周年を記念した作品集『神前 暁 20th Anniversary Selected Works “DAWN”』がリリースされた。

 『涼宮ハルヒの憂鬱』、『らき☆すた』、『〈物語〉シリーズ』、『かんなぎ』など数々のアニメ作品の主題歌や劇伴を手掛けてきた彼は、作曲家に注目が集まるようになった00年代なかば以降のアニメ音楽シーンの潮流を代表する作家の一人だ。「もってけ!セーラーふく」のようにその後のアニメソングのあり方を変えたインパクトを持つ曲、美しいメロディと和音の味わいを持ったバラード曲など、ベストアルバム的な内容の同作には、その幅広く豊かな音楽センスが刻み込まれている。

 「雌伏期」「飛躍期」「充実期」「復活期」の4つのタームから、20年の作曲家活動の歩みを紐解くインタビュー。本文にもあるが、実は、筆者とはデビュー以前、大学時代からの付き合いでもある。なので、あまり世には知られていないその頃のことも含めて、話を聞いた。(柴那典)

「実は思い入れがあるのは地味な曲」

ーーまず、20年間の仕事を振り返ってどういう感慨がありますか?

神前:その時々でやれることを必死でやってきただけなんですけれど、その積み重ねが20年になるとこのくらいの曲数になるのかなっていう感慨はありますね。これまで、だいたい900曲くらいリリースしてきているので。

ーーその中から収録曲を選んでいった基準はどんな感じだったんでしょうか?

神前:基本的には、知名度がある曲、今でも聴かれたり歌われたりしてる曲はやはり外せないというところが一つあって、あともう一つはそんなにメジャーではなくても僕がどうしても入れたい思い入れのある曲。主にその二つの軸ですね。実は思い入れがあるのは地味な曲だったりするんですよ。アニメのオープニングになったり大きなタイアップがついたりというよりは、カップリング曲で、バラードだったりミディアム系の曲だったりする。僕自身、音楽的にそこまで派手好きなタイプではなくて、構築美みたいなものに興味が移ってきているので。過去の自分の曲の中でも、そういう点で「よくできたな」と思うものは選ばせてもらいました。

ーー歌だけじゃなく、シンセや楽器のフレーズも含めたメロディに記名性がある、濃さや主張があるのが神前さんの作家性の強さとも思います。

神前:そこは隠しきれないものが滲み出ちゃってるんでしょうね。意識してやってるわけでは全然なくて。職業作家として、半ば匿名的な仕事を良しとしてやってきた中で、そういう部分が何十曲の中に滲んでるのかなって気がします。あとは、僕が歌をうたう人間じゃないからというのもあるかもしれない。フレーズを構築していくタイプなので、モチーフが長くなる。そこを意識して密度を上げていっているので、個性が出てくるんでしょうね。

ーーホーンの存在感が強いというのも作風として大きいですよね。これはルーツにも関連するポイントだと思うんですが。

神前:そうですね。自分が一番よく知ってる楽器なので、ギターを弾く人がギターを入れるのと同じくらいの感覚で自然にホーンのフレーズが出てくる。もともと中学・高校でブラスバンドでトランペットをやっていて、大学でもバンドでちょっと吹いてたりしたので。

ーープレイヤーとしてのルーツは幼少期のピアノ、中高生時代の吹奏楽部があったわけですよね。思春期のリスナーとしての音楽遍歴はどんな感じだったんですか?

神前:これは非常に浅いんですよ。いわゆるテレビの歌番組で流れている邦楽や学校で流行っていたTM NETWORK、米米CLUB、UNICORNあたりは聴いてましたけど、そこからルーツを掘ったり洋楽を聴くような発想はなくて。普通の中学生や高校生が聴く範疇でしたね。T-SQUAREとかカシオペアのようなフュージョン系の音楽にも親しんでました。で、大学時代のことは柴くんも知ってると思うけど、もっとジャンルレスというか、ルーツもわからないけど、とにかく何でもやってみようっていう感じもあったかな。見るものすべて新鮮で何でも吸収したというか。

ーーそうですね。京都大学に入って、作曲サークルの吉田音楽製作所に入った。僕(インタビュアーの柴 那典)はそこで一つ下の後輩だったのでかなり濃い付き合いをしていたんですが、ただ、なんで神前さんがサークルに入ろうと思ったのかは知らなくて。

神前:そうかそうか。あれはね、新入生歓迎のライブで当時の先輩たちがやっていた幼虫社(エレクトロ・ネオ・クラシカルユニット)とかのバンドのライブを見て「ものづくりってすごいな」って思ったんですよ。テレビで見るようなアーティストのライブは見ていたけれど、自分と1年2年しか変わらないような人がオリジナルの曲を作って、ステージで演奏する。しかもそれが演出性の強いもので、そこからものづくりする面白さに魅了されたという。

ーー僕自身は『初音ミクはなぜ世界を変えたのか』という本を書くためにいろいろ調べて改めて気付いたんですが、大学生時代の自分たちがやっていたのはいわば同人音楽の走りだったわけですよね。

神前:そうなんだよね。「総合作曲サークル」と銘打ったサークルだったけど、要は今で言うボカロPとか同人音楽とかのグループだった。もちろんバンドで宅録してる人もいたけれど。それでみんなが作った曲をサークル内でカセットテープにまとめて、会報を出してお互いに感想を言いあったり。

ーーそこで頑張って会報を編集してたのが自分でした。

神前:そうか、そう考えると今と変わらないね(笑)。

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