SHE’S、歌と演奏に通わせた“心” 開催控えるツアーの序章飾った配信ワンマンレポート

『SHE’S Broadcast Live ~prelude~』レポ

 新型コロナウイルスの影響を受ける日常生活の中で、いかに人と人が五感を働かせてコミュニケーションすることが大切かはもはや誰もが周知のことだろう。そんな状況だからこそ、SHE’Sのニューアルバム『Tragicomedy』が自然と新規リスナーを獲得し、アルバムリリース後もタイアップが決定していることも必然だと思える。人の心という掴みどころのないテーマ、しかもかなり踏み込んだ表現に共振するリスナーが増えたことはいま、一人で自分の心と向き合う時間の長さを証明してもいる。

 2回の無料配信を経て、ついに新作からの楽曲を軸に据えた初の有料配信ワンマンライブとして行われた今回の『SHE’S Broadcast Live 〜prelude〜』。タイトルの「prelude」に込められた思いは再々度、仕切り直して秋から開催するツアーの前哨戦、その序章という意味が込められている。その意味を今回の70分強で実感したのだが、すでにこれはツアーの一部ということ。それくらいメンバーは『Tragicomedy』を血肉化していた。井上竜馬(Vo/Pf)の作った歌詞をメンバーが心と体で昇華しきっている。演奏に込められたSHE’Sのソウルに圧倒された。

井上竜馬
服部栞汰
広瀬臣吾
木村雅人
previous arrow
next arrow
 
井上竜馬
服部栞汰
広瀬臣吾
木村雅人
previous arrow
next arrow

 今回、明確だったのはセットリストの組み方。喜怒哀楽と明言できるほど単純明快ではないけれど、最初のブロックで主にネガティビティすら率直に吐き出す「Unforgive」や「Ugly」を配したこと。特に静から動へダイナミックにアレンジが変容していく「Unforgive」ではハードでアグレッシブな面のみならず、平歌での淡々としたオブリガートにも冴えを見せた服部栞汰(Gt)、シンセベースと生ベースをスイッチしながら操った広瀬臣吾(Ba)、繊細なハイハット使いに息を飲んだ木村雅人(Dr)、いずれもライブアレンジに釘付けになる。「Ugly」でも井上のみならず、全員の歌への入り込み方の熱量が高い。勢いだけで演奏できないであろう、エレクトロニックと生音をミックスした「Ugly」に血を通わせたことに、このバンドの稀有な特性を見た。

 クールに演奏だけ続けるのかと言えば、普段のライブ以上にオプションを加えてくる。服部が歓声や拍手のサンプル音を出す。ちょっとタイミングが外れて井上が突っ込む。Twitterコメントを読み上げるのは広瀬の役割で、井上も確認に行く。広瀬曰く序盤は「キムの笑顔がいい、が大勢」という大雑把な報告を「そこかい!」という表情でやり過ごす3人もいつも通りといった感。初めてこの配信でSHE’Sのライブを見るオーディエンスにもバンド像が伝わったことだろう。

 アグレッシブな側面を見せた後に来た「White」はファンの間では結婚披露宴に流したというエピソードも増えたナンバーだが、この日は〈まるで最初のような最後の恋をしよう〉という歌詞がより切実に感じられる。人の心と向き合うことの難しさを踏まえた上で、決意するニュアンスが新たに生まれたように思うからだ。そこからつないだ、現在最も彼らの曲の中でも聴かれているであろう「Letter」の内省と決意。様々な人が様々なタイミングでバンドや曲に出会い、意味合いが深まっていくことの素晴らしさ。SHE’Sの楽曲は決して消費されないだろうという確信。

 実写とイラストを融合したインタールード映像を挟んで、仲間を意識できる「One」、そして意外な選曲「ミッドナイトワゴン」。「One」では打ち込みのビートからサビでのアフリカンリズムに移り変わる躍動感と磨きがかかったコーラスに、モノクロの映像がバンドについての曲である「ミッドナイトワゴン」に想像上の色を乗せていく。こういう演出は配信ライブならではの選曲との相乗効果を生む。表立った熱さではないけれど、バンドであることの喜びが溢れたところで、目の前の一人に向けて〈ただ傍で生きていてほしい〉と真っ直ぐ歌う「Be Here」を持ってきたことも大きな意味を感じた。木村が振り下ろす重さを感じるビート、丁寧なコーラスなど、4人それぞれの役割を果たしながら、全力でこの曲を伝える演奏に最も圧倒された場面だった。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる