インタビュー連載『あの歌詞が忘れられない』
yonige 牛丸ありさが明かす、魅了された3曲の歌詞 宇多田ヒカル、キセル、さよならポエジー……“距離感のバランス”に言及
アーティストの心に残っている歌詞を聞いていくインタビュー連載『あの歌詞が忘れられない』。本連載では事前に選曲してもらった楽曲の歌詞の魅力を紐解きながら、アーティストの新たな魅力を探っていく。第5回には、yonige・牛丸ありさが登場。牛丸が選曲したのは、宇多田ヒカル「BLUE」、キセル「ベガ」、さよならポエジー「觜崎橋東詰に月」の3曲だった。牛丸はこの3曲のどういったところに魅了されたのか。3曲を紐解いていくなかで、牛丸が目指す歌詞表現も明らかになった。(編集部)
「ベガ」の歌詞を読んで、私の行き着きたいところはここかもって
ーー宇多田ヒカルさんの「BLUE」(『ULTRA BLUE』収録)に出会ったのはいつ頃でしたか?きっかけはなんでしたか?
牛丸:最初に「BLUE」を聴いたのは『ULTRA BLUE』の発売当時なので、小学6年生だったと思います。
ーーリアルタイムで聴いていたんですね。今聴いてみて印象は変わりましたか?
牛丸:宇多田ヒカルさんの音楽は好きだったんですが、歌詞の意味はわからずに聴いていたんです。でも今聴いてみると、宇多田ヒカルさんの歌詞は距離感のバランスがすごくて。壮大なことを歌ってると思ったら、日常の些細なことを歌い出して急にグッと近づくこともある。その距離感がおもしろいです。
ーーどのフレーズにそのような印象を受けましたか?
牛丸:例えば、〈恋愛なんてしたくない〉の後の〈砂漠の夜明けがまぶたに映る〉とか。個人的な感情を取り入れてると思ったら、広い世界の話が出てきたり。視野がミクロになったり、マクロになったりを繰り返していて好きです。
ーー「BLUE」は、宇多田さんの楽曲でも特に内省的な歌詞です。牛丸さんはこの曲を聴いて宇多田さんの考えと通じる点はありましたか?
牛丸:宇多田さんの曲って、私にとってはファンタジーなんです。近未来的であって現実的ではないような。でも、たまにふと現代に通じる描写もあって。だから共感するというよりも映画を観ているような感覚に近いかもしれないですね。
ーーその感覚は興味深いですね。ご自身の歌詞に、宇多田さんの歌詞の要素を取り入れたりはされていますか?
牛丸:距離感は意識するようにはなりましたね。yonigeの初期の頃の曲って、聞き手側と距離がすごく近かったと思うんですけど、距離感を意識しだしてからは少し広く間隔を開けるようにしました。とはいえ聴き手から離れすぎないように日常的なワードも入れたりして。離れて、近づいて、離れて……を意識するようになりました。
ーー距離感でいうと、キセルの「ベガ」は非常に俯瞰的で聞き手の想像力に任せている面も強いですよね。
牛丸:「ベガ」は、2年前に知り合いにキセルを教えてもらったことをきっかけに聴きました。この曲の歌詞を読んで、私の行き着きたいところはここかもって思いましたね。あったかくて愛のある優しい歌であるはずなのに、すごく悲しい曲に聞こえて。大きな事件が起こってるわけでもないのになんだか悲しい、でも何が悲しいのかわからない。この曲に出会って、グレーな部分を捉えた歌詞を書きたいと思うようになったんです。
ーー牛丸さんはこの歌詞を読んで、どのようなイメージを浮かべましたか?
牛丸:何回も聴いて考えたんですけど、やっぱりイメージってあんまりなくて。その時々の自分にフィットしてくれる曲ですね。悲しいときでも優しい気持ちのときでも、どっちでもフィットしてくれる。全てのフレーズが合わさることで、独特の良さが生まれている歌詞だと思います。
ーーなるほど。さよならポエジー「觜崎橋東詰に月」についても聞かせてください。もともとさよならポエジーとは繋がりが深いですよね。対バンもされていますし、「二束三文」のMVでは牛丸さんが監修していたり。
牛丸:ボーカルのアユ(オサキアユ)と会ったのは、5、6年前ですかね。同世代のバンドの曲ってあんまり聞かないんですけど、さよならポエジーだけは頭が上がらないというか、アユのことは作詞家としてめちゃめちゃ尊敬していますね。
ーーどのあたりに魅力を感じたのでしょうか?
牛丸:初めて曲を聴いたのが「二束三文」でした。バンドマンって普通が嫌だからやってる職業だと思ってたんですけど、アユはこの曲の中で〈普通を愛している〉って言ってるのが衝撃でしたね。この曲を作った当時って、アユは20歳ぐらいだったと思うんですけど、その若さで書ける歌詞じゃないなと思いました。「觜崎橋東詰に月」は、私が2回目に衝撃を受けた曲です。一番の山であるはずのサビを、橋の上に月が浮かんでいる情景描写だけで成立させていることに驚きましたね。アユもやっぱり距離の取り方がすごく上手いんです。難しい言葉を使ったり、情景描写を取り入れつつも、日常に寄り添った言葉も随所に入れてる。