インタビュー連載『あの歌詞が忘れられない』
yonige 牛丸ありさが明かす、魅了された3曲の歌詞 宇多田ヒカル、キセル、さよならポエジー……“距離感のバランス”に言及
ただの日常を表現することの難しさに気づいた
ーーなるほど。やはりこれまでのお話を聴いてると、牛丸さんにとって“距離感”は非常に重要な要素なんですね。yonigeの歌詞も、初期の頃と比較すると徐々に俯瞰的な視点になっています。
牛丸:当時は若かったこともあって、自分のことを全部さらけ出すことがおもしろいと思っていたんです。大げさな表現かもしれないんですけど、「詞」というよりかは「Twitter」のような感覚で歌詞を書いていて。自分にあった出来事を発散するように書いていたんだと思います。でも、今は詞を書くおもしろさと向き合っていて、自分の発散ではなくて文章をちゃんと書きたいって考えています。
ーーそう思うようになったきっかけがあったのでしょうか?
牛丸:距離感が近すぎる歌詞は、自分との距離感も近くなるのでしんどいと思ったんです。感覚的には、独りで精一杯で窮屈で、4畳半の部屋で生活しているような感じで。今は、広い部屋に引っ越して友達とか招き入れる余裕があるような曲を作りたいです。
ーー最新作の『健全な社会』は、これまでの作品で最も俯瞰的に物事を描いていますよね。日常に潜む悲哀を冷静に捉えながら、それでいて最も悲しみが深い作品であるようにも感じられます。
牛丸:事件があったほうがドラマチックになるし、描きやすいんですけど……ただの日常を表現することの難しさに気づいて、まず「往生際」の作詞に取り組みました。この曲をきっかけに、アルバム全体もその方向性で進めようと思いましたね。
ーー本作に取り組むにあたって特に意識したことはありましたか?
牛丸:“忘れる”ということをどう歌詞にするか考えました。ある出来事を忘れたりとか、人の顔を忘れるとか、物を忘れるとか……その様子って本人は忘れてるから悲しくないけど、第三者から見ていると悲しく映る。何かを忘れるって、誰もが無意識的に日々やっていて気づかないものだけど、実は一番悲しいことなんじゃないかって思います。なので「忘れる」は、このアルバムで重要なキーワードになっています。
ーーなるほど。作品全体から感じる悲哀は人の常でもある忘却からきてるんですね。牛丸さんはインタビューで「”悲劇はないのに何となく悲しい”を描きたかった」とお話しされていましたが、日常を描くにあたって“喜び”ではなく“悲しみ”を表現したいと思ったのはなぜですか?
牛丸:うーん、やっぱり嬉しいことより悲しいことを表現したくなるんですかね。悲しいことって日常で共有しづらいというか。嬉しいことって共有しやすいけど、悲しいことって一人で消化することのほうが多いので。
ーー牛丸さんが主観的な歌詞を描いていた時期には、ある出来事から感じた孤独をエネルギーに変えているような印象を受けていました。昨今、歌詞に変化が生まれたことで、孤独に対する考え方は変わりましたか?
牛丸:初期の頃はヒステリーな感じだったかもしれないです。「私は一人なんだー!」って嘆いているような。でも、孤独ってなかなかありえないことだって気づいて。絶対誰かしら人とは繋がってるし、死んでもたぶん独りじゃない。「孤独」っていうワード自体ファンタジーなんじゃないかなと。歌詞として孤独を表現することを突き詰めることは素晴らしいと思うんですけど、私には厳しい。それに、悲しいことが起こるのも人と人とが繋がっているからこそだと思うんです。なので『健全な社会』に関しては、人のことを思ったりとか日常のことを思うことについて描こうと思いました。
ーー『健全な社会』では俯瞰的な視点から日常や人を描いていましたが、そんな本作を経て今後はどのような歌詞を描いていきたいですか?
牛丸:今は距離の近い歌詞を描くことに対して恥ずかしさもあるんですが、今後は俯瞰的な視点は保ちつつ、意図的に距離感の近い曲も書けるようにしたいですね。
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■リリース情報
『健全な社会』
発売中
¥2,364(税抜)
<Track List>
01.11月24日
02.ここじゃない場所
03.Intro
04.往生際
05.あかるいみらい
06.健全な朝
07.メリークリスマスイヴ
08.春一番
09.みたいなこと *映画「おいしい家族」主題歌
10.ピオニー
LIVE DVD 『日本武道館 「一本」』
発売中
¥4,500(税抜)
<収録曲>
01.リボルバー
02.our time city
03.最終回
04.顔で虫が死ぬ
05.2月の水槽
06.バッドエンド週末
07.アボカド
08.センチメンタルシスター
09.悲しみはいつもの中
10.ワンルーム
11.往生際
12.どうでもよくなる
13.沙希
14.サイケデリックイエスタデイ
15.ベランダ
16.しがないふたり
17.最愛の恋人たち
18.トラック
19.さよならアイデンティティー
20.春の嵐
(アンコール)
EN01 さよならプリズナー
EN02 さよならバイバイ
<特典映像>
武道館ドキュメンタリー映像
■ツアー情報
『健全な社会ツアー 爽秋編』
チケット:各公演¥3,500(税込)
10月3日(土)大分 clubSPOT
10月4日(日)宮崎 SR-BOX
10月6日(火)鹿児島 SR-HALL
10月8日(木)熊本 Django
10月10日(土)ホンダ楽器アストロスペース
10月11日(日)佐賀 GEILS
『「正しい言葉」ツアー』
チケット:各公演¥4,500(税込)
11月1日(日)オリックス劇場
11月13日(金)中野サンプラザ