ハライチ岩井勇気と渡辺直美の歌ネタ「塩の魔人と醤油の魔人」ヒットの理由は? サウンドと歌詞から考察

〈魔人の出番だ〉の濁音が生み出すインパクト

 「塩の魔人と醤油の魔人」の歌詞面はどうだろうか。注目すべきは〈ここは私の出番だ、醤油の魔人の出番だ〉という歌い出しだ。

 この一節のボトムの太さは、一気に引きつけるものがある。なぜなのか。要因となるのは「魔人の出番だ」という言葉のほとんどが濁音で構成されている点。濁音まみれのこのフレーズが日本語としてアタックの強さを生み、インパクトを与える。この箇所について星氏も「魔人の出番だ、がすごい」と感心した。

 「日本音楽のメロディと言葉の関係性でいくと、日本語の濁音はすごく強烈。たとえば戦隊番組『星獣戦隊ギンガマン』のOP曲のサビ〈ガンガンギギンギンガマン〉とか、ものすごいですよね。『醤油の魔人と塩の魔人』の出だしもほぼ濁音で構成されている上に、〈ここは魔人の出番だ〉〈醤油の魔人の出番だ〉と韻まで踏んでいるから印象度が増す」

 さらに星氏は、日本のポップスにおける日本語とリズムの関係性についても言及する。「日本のポップスのメロディに使われている英語詞って、しっくりくるものが少ない。『―』のように伸ばす発音とか、なんだかヌルッと弱く聴こえる。日本の音楽ってやっぱり、日本語に合うようにリズムが作られているんですよね。これも『ギンガマン』(星獣戦隊ギンガマン)なんですけど、〈ギンガ・セン・ターイ!〉という部分を、〈ギャラクティック・ウォーリヤー!〉と歌うと、無理やりリズムに合わせているし、語感としてもむず痒く聴こえる。『塩の魔人と醤油の魔人』は、ラストの〈ショウユハ・マホウノ・チョウミリョウー〉の言葉とリズムの合わせ方もうまい。岩井さんがどこまで意識的にやっているのか分からないけど、間違いなく感覚が良い」と分析してくれた。

 しかし結局、この「塩の魔人と醤油の魔人」をもっともおもしろくしているのは、岩井、渡辺が着想元などについて大きく口を割らないところである。ネタ元をはっきりさせるとそれが答えとなり、途端に受け手の探究心が削がれる。「どこを探してもヒントがあまり出てこない」という空白があるから、わたしたちはそれを埋めたくなってくる。

 醤油の魔人のネタ元にしたって、不明なところが多い。まるでティム・バートン監督の映画に出てきそうなキャラクターでもあるし、塩の魔人がクラウス・ノミなら醤油の魔人はノミのパートナーだったジョーイ・アリアスではないか……と想像がふくらむ。いろんな憶測を飛ばせるが、いずれも確証には至らない。

 核心を語り過ぎない、これこそがおもしろいお笑いだ。岩井・渡辺コンビの「塩の魔人と醤油の魔人」はそこを突いている。

■田辺ユウキ
大阪を拠点に、情報誌&サイト編集者を経て2010年にライターとして独立。映画・映像評論を中心にテレビ、アイドル、書籍、スポーツなど地上から地下まで広く考察。バンタン大阪校の映像論講師も担当。Twitter

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