ハライチ岩井勇気と渡辺直美の歌ネタ「塩の魔人と醤油の魔人」ヒットの理由は? サウンドと歌詞から考察

歌ネタは音の情報量が少ない方が良い

 バズの決定打となったのは、何と言っても歌ネタ(リズムネタ)だ。キモはどこにあったのか。

 岩井が作詞作曲を手がけ、RAM RIDERが編曲を担当したテーマソング「塩の魔人と醤油の魔人」。ネタ内で歌唱されたのは、「魔人のテーマ」と「お料理登場」の2バージョン。なかでも後者が、幅広い層に真似をされるようになった。これは過去にヒットした歌ネタと同様のムーブメントだ。ここでは「お料理登場」の曲について触れたい。

 まずサウンド面の魅力をひも解いていく。同じようなメロディとリズムが繰り返される、という意味ではジャンル的にはミニマルミュージックと言って良いかもしれない。ミニマルミュージックを取り入れたリズムネタの大ヒットとして記憶に新しいのは、ピコ太郎の「PPAP」だ。

 「塩の魔人と醤油の魔人」は、マイナー調のフレーズがひたすら反復される。延々とループする不穏な曲調と魔人たちのやりとり。ずっと見ているうちに、その光景がまるで悪い夢のような感覚に陥り、中毒におかされたみたいに没頭していった。

 この曲がヤミツキになる理由をより深く考察するため、音楽プロデューサー・星ひでき氏を取材すると、「同曲はジャンル的にはエレクトロスウィングでもあるかもしれない。そもそも歌ネタ、リズムネタのバックトラックは、基本的に作り込まず、逆にチープにした方が印象に残りやすい。『塩の魔人と醤油の魔人』も単音でシンプル。岩井さんがフッと思いついて、スマホのボイスメモなんかに吹き込んだメロディを、RAM RIDERさんが形にしたのではないか」と語ってくれた。

 伴奏などによって音数が多くなればなるほど、曲としての水準はあがる。でも、こと歌ネタに関しては、そうなってくるとメインのネタ部分がぼやける危険性がある。

 星氏も、「リズムネタはヒップホップに近いかもしれない。言葉の楽しさ、おもしろさをちゃんと聴かせられるトラックであるかどうかが重要。極端な話、ハモりを入れるなど音の情報量が多くなると、ネタ本来の味は伝わりづらくなる。音楽としては良いだろうけど、現在の歌ネタの流れでいくと逆効果」と指摘する。

歌ネタはうま過ぎず、凄過ぎずがちょうど良い

 ブレイクした歌ネタは、音源をリリースするためにロングバージョンが制作されるパターンが多い。不安定な音調のアカペラで歌唱されていたものが、演奏がつき、ピッチもきれいに合わせられ、曲としてのクオリティがグッと高くなる。でも豪華なフルバージョンの音源を聴くと、わたしは逆に物足りなさを抱く。おもしろく感じていたいろんなパンチラインが、薄まって聴こえてしまうからだ。

 たとえばクマムシの「あったかいんだからぁ」。リリースされた音源を聴くと、あまりに良い曲になり過ぎていて、〈あったかいんだからぁ〉というあのキラーフレーズ感が損なわれている気がした(それがフル音源としての狙いなのかもしれないが)。

 ムーディ勝山の「右から来たものを左へ受け流すの歌」やジョイマンのラップネタは、鼻歌をそのまま持ち込んだようなチープさがクセになる。藤崎マーケットの「ラララライ体操」は極めて分かりやすいし、〈行け行けGO GO〉の尻すぼみ感も後味として引きずるものがある。

 お笑いのネタという短尺勝負においては、シンプルを前提にして、ダサさ、粗さ、気持ち悪さは大きなフックとなり得る。これらのネタがもし、完成度の高いトラックが用意されたなかで披露されていたら、どうだっただろうか。

 歌ネタは、楽曲としてうま過ぎず、凄過ぎずがちょうど良い。

 情報量が多くて完成度も抜群に高い歌ネタといえば、岩井も出演するバラエティ番組『ゴッドタン』(テレビ東京系)のコーナー「芸人マジ歌選手権」がある。演奏される曲の数々は、トラックを含めてどれも完璧に作り込まれている。それでいて、いずれもネタとして成立しているのが驚異的だ。

 ただ、人気曲であるフットボールアワー・後藤輝基の「ジェッタシー」に関しても、盛り上がりどころである〈ジェッタシー〉というフレーズは、音がピタッと止むブレーク部分で炸裂する。この箇所での情報量は、「ジェッタシー」のひとつである。

 ちなみにピコ太郎の「PPAP」も、音楽的な趣向性の高さはありながらメロディラインはシンプルだし、〈ペンパイナッポーアッポーペン〉はブレーク部分に据えられている。ブレーク部分でオチを決めてくるから、ワンフレーズとしてダイレクトに刺さる。

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