“アイドル戦国時代”がシーンにもたらしたもの AKB48、モー娘。、ももクロの10年ぶり共演から考える

 またそれぞれのパフォーマンスからは、各グループの現在地も垣間見えた。

 ももクロと言えば、いつも「全力」であることが人びとを惹きつけてきた。むろんその基本はいまも変わらないが、今回のステージではそのなかにも余裕が感じられた。

 4人バージョンで披露されたおなじみの「走れ!-ZZver.-」や「Chai Maxx」もそうだが、1990年代のユーロビート曲をサンプリングした「ロードショー」も盛り上がりのなかの端々にちょっと大人びた雰囲気があった。「笑一笑 〜シャオイーシャオ!〜」のフレーズを借りれば、いつのまにか「僕らは大人になっている」ということなのだろう。そのあたりは、他の2組と異なり、オリジナルメンバーのままで活動を続けている強みなのかもしれない。

 AKB48は、「会いたかった」「大声ダイヤモンド」「言い訳Maybe」「RIVER」「ポニーテールとシュシュ」「ヘビーローテーション」のメドレー、そして最新シングル「失恋、ありがとう」を披露した。

 連続ミリオンセラーの記録がなにかと話題になるAKB48だが、いまあげたメドレー曲はその記録以前の楽曲である。そこには単に代表曲を並べるというだけでなく、彼女たちが自分たちの記憶、さらに原点を再確認しようとしているように思えた。

 記録ばかりを気にしていては過去のパターンにとらわれ、思い切った挑戦は難しくなる。むしろそういったときに必要なのは、記憶をたどり初心に戻ることだろう。その点、山内瑞葵が初センターを務める「失恋、ありがとう」には、そんな初心の魅力があった。

 そして現在14名からなるモー娘。は、スタジオでも「アスリート」のようだと称賛されたようにエネルギッシュなパフォーマンスを繰り広げた。

 今回番組中では4曲が紹介された。現在のモー娘。のスタイルが確立されるきっかけになったともいえる「One・Two・Three(updated)」、さらに「ジェラシー ジェラシー」「愛の軍団」といずれもライブ映えする楽曲。フォーメーションダンスの円熟味も増してきた。そしていまやクラシックとも言える「LOVEマシーン(updated)」が挟まる。そこからは、1990年代の後半に誕生し、現在まで途切れることなく活動を続けてきたパイオニアとしての自負がうかがえた。

 3組のパフォーマンスはいずれも、グループの過去と現在をそれぞれの流儀で伝えるものだった。そこには、番組自体がフェスをイメージした企画だったこともある。つまり、普段の単独ライブとは違って自分たちのファン以外にもアピールするセットリストが求められた。

 ただ今回は、新型コロナウイルスの影響によって結局無観客での収録となった。それは残念なことだったが、一方で3組の歴史、そしてパフォーマンスの成熟度合いをじっくり堪能することができた部分もあった。

 かつて「アイドル戦国時代」というフレーズは、確かにアイドルシーンを活気づかせた。自分の推すグループに天下を取らせたいと、ファンの応援にも一層熱が入った。

 しかし、10年という時を経たいま、誰が天下を取るかということは実は本質的なことではなかったように思える。むしろそれぞれのグループが自立し、共存共栄していくことこそが大事であり、アイドルが一過性のブームに終わらず文化として根付いていくために必要なのではないか。今回の3組は、言葉ではなくパフォーマンスでそのことを教えてくれたと言えるだろう。

■太田省一
1960年生まれ。社会学者。テレビとその周辺(アイドル、お笑いなど)に関することが現在の主な執筆テーマ。著書に『SMAPと平成ニッポン 不安の時代のエンターテインメント』(光文社新書)、『ジャニーズの正体 エンターテインメントの戦後史』(双葉社)、『木村拓哉という生き方』(青弓社)、『中居正広という生き方』(青弓社)、『社会は笑う・増補版』(青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』『アイドル進化論』(以上、筑摩書房)。WEBRONZAにて「ネット動画の風景」を連載中。

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