The Verve、Oasis、アデル......稀代の名曲とドラン映画の親和性とは 『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』を観て
思えば、ドランは出世作となった『Mommy/マミー』(2014年)でも幸せの絶頂を描いたシーンでOasisの「Wonderwall」を1曲丸ごと使用していた。その理由を彼はあるインタビューで「この名曲にまつわる思い出がない人はいないはず。各々の思い出を映画のシーンにリンクさせることで、観客が映画に能動的に参加することが出来るんだ」(参考:映画『Mommy/マミー』監督、オアシスの”ワンダーウォール”を最高のシーンでほぼフルで使った理由を語る)と語っているが、『ジョン ・F・ドノヴァンの死と生』では、同じ理屈でアデルの「Rolling in the Deep」を使用している。これはドランが2015年にアデル最大のヒット曲である「Hello」のMVを監督した縁もあって起用したそうだが、グラミー賞、アカデミー賞、ギネス記録に加え、イギリスの歴代アルバムセールス記録も持っているアーティストの曲(しかも既発曲)をオープニングにそのまま持ってくる大胆さには驚きを禁じ得ない。
このように、ドランの選ぶ音楽、それを使用する場面からは彼の純粋な音楽ファン(それもかなり王道的なタイプ)としての顔が垣間見えるのだ。ただ、一つ擁護すると、グザヴィエ・ドランは1989年生まれの30歳。特に「Bitter Sweet Symphony」や「Wonderwall」が流行りまくっていた頃はまだ子供だったので、リアタイ世代が抱く“ベタ感”はさほど感じておらず、楽曲として純粋に好きなのだと思う。
また、この映画には若くして亡くなった俳優、リヴァー・フェニックスへのオマージュがいくつか見受けられるのだが、フェニックスの出世作となったのは『スタンド・バイ・ミー』(ロブ・ライナー監督:1986年)で、『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』でも、このテーマ曲が重要なシーンで流れる。これもベン・E・キングのオリジナル・バージョンの印象が強烈なため普通なら使用を躊躇するところ、女性ボーカルのFlorence and the Machineによるカバーを採用したことで、子供に寄り添おうとする母親の心情を描いた場面にハマって、とてもよかった。
なお、リヴァー・フェニックスは1993年、オーバードースにより亡くなったが、これも作中のジョン・F・ドノヴァンとダブる。ちなみに、そのフェニックスに多大な影響を受けたのが、ドラン監督が若き日に心酔し、ファンレターを書いたという俳優、レオナルド・ディカプリオである。ドラン監督は本作を「ディカプリオに夢中だった僕の経験から誕生した物語」と発言しており、一つの映画の中で様々な事柄が繋がってドランのごくプライべートな趣味嗜好を浮かび上がらせている。それが、“母と子の関係”や“セクシャルマイノリティ”といった、彼が繰り返し描いてきたテーマと相まって、ドランならではの世界観を感じさせる作品となっているのだ。
■美馬亜貴子
編集者・ライター。元『CROSSBEAT』。音楽、映画、演芸について書いてます。最新編集本『それでも売れないバンドマン〜もう本当にダメかもしれない』(カザマタカフミ著/シンコーミュージック刊)が5月18日に発売予定。