高橋美穂の「ライブシーン狙い撃ち」第13回
サカナクション、ゆず、04 Limited Sazabys……アリーナ/ドームライブから見えるそれぞれのスタンス
アリーナやドームといった大きな会場を“どう使うか”によって、見えてくるアーティストの感性や思想がある。今回は、最近リリースされた映像作品の中でも、それが象徴的に表れていた3つをご紹介したい。
まずは、1月15日にリリースされた『SAKANAQUARIUM2019 “834.194” 6.1ch Sound Around Arena Session』。サカナクションにとって6年ぶりのアルバム『834.194』のリリース直前に行われたアリーナツアーのファイナルとなった、2019年6月14日のポートメッセなごや公演の模様がパッケージされている。サカナクションのライブの醍醐味といえばサウンドとビジュアル、とは知る人も多いと思うが、このツアーは6.1chの立体音響のサラウンド(=取り囲む)という環境で楽しむことができた。その方向性は映像作品にも落とし込まれており、DOLBY ATMOSというサラウンド音声が収録されている。またビジュアル面は、パッケージデザインを映像も手掛ける田中裕介が監修しており、トータルコンセプトが美しい“手に取って見てわかることがある”作品になっている。
そういった今作ならではのこだわりに加えて、ライブの内容も見応えたっぷり。まるでインスタレーションのような志の高いアートに挑戦しながらも、誰もが気張らずに楽しんでいるように見えるところに、バンドのポップセンスと、オーディエンスに寄せる信頼が感じられる。さらに、彼らは歌と演奏、そして楽曲という芯がしっかりしているからこそ、これだけ様々な挑戦ができるのだということも再確認できる。彼らは現在もツアー『SAKANAQUARIUM2020 “834.194 光”』の真っ最中。生で体感したい気持ちも募る作品だが……観れば家で踊ることもできるサウンドとエモーションが詰まった作品でもある。
続いては、同じく1月15日にリリースされた『LIVE FILMS ゆずのみ〜拍手喝祭〜』。2019年春に行われた、日本音楽史上初の試みである、弾き語りによる全国4大ドームツアー。そのなかから、5月30日に行われた東京ドーム公演の模様が、今作には収録されている。そう、このツアーのステージに立ったのは、ゆずの二人だけ。巨大なドームを二人だけで4カ所も制するという挑戦は、2001年から東京ドーム公演を行っていて、大きな会場を理解している彼らならではの演出と、結んできたオーディエンスとの絆があってこそ成功したものだろう。世界的彫刻家・名和晃平が、このツアーのためにゆずと共に作り上げた全長30メートルのシンボル“YUZUDRASIL(ユズドラシル)”が立つセットや、ライティングなどの演出は、かなりアーティスティックなものながら、音は自然体の歌とギター。でも、まったく負けていない。名曲のオンパレードだったことはもちろん、シンガロングやスマホライト、タンバリンなどで参加したオーディエンスの力も大きかったと思う。というか、彼らはその力を信じて二人きりのドームツアーを敢行したのではないだろうか。もちろん、コミカルな演技まで見せて奮闘し、「平日なのにありがとう!」と“普通の感覚”で叫ぶ二人の魅力ありきだとは思うが、このライブを作り上げたのは、紛れもなく“チームゆず”の一人ひとりだろう。3月から行われるアリーナツアー『YUZU ARENA TOUR 2020 YUZUTOWN』も楽しみだ。