柴那典の新譜キュレーション(年末特別編)
柴那典が選ぶ、2019年国内作品年間ベスト10 カネコアヤノ、小沢健二、KOHHら「日本語の音楽表現」
音楽は社会と密接に絡み合ったもので、だからこそアーティストは炭鉱のカナリヤのように未来のムードを感じてそれを表現する類の人たちだと思っている。そういう観点では、ドレスコーズは「もろびとほろびて」(アルバム『ジャズ』)が、そしてOGRE YOU ASSHOLEは「新しい人」(アルバム『新しい人』)が、それぞれグッときた曲だった。どちらも、ある種のディストピアをイメージさせる作品だ。
たとえばドレスコーズ「もろびと ほろびて」の〈500年続いた人間至上主義をいっかい おひらきにしよう〉〈核兵器じゃなくて/天変地異じゃなくて/倫理観と道徳が/ほろびる理由なんてさ〉という一節、OGRE YOU ASSHOLE「新しい人」の〈かつて人は/争いあったり/自ら死んだり〉という一節には、どことなく通じ合うようなものを感じる。
People In The Box「風景を一瞬で変える方法」(アルバム『Tabula Rasa』)の〈日々肥大していく獣、繁栄の彼方〉というフレーズもそう。テクノロジーの進化とグローバルな資本主義社会にまかせて21世紀の人類は発展を謳歌してきているけれど、ひょっとしたら、今は、その曲がり角に立っている時代なのかもしれない。そんなことを思わせるような作品だった。
AIによる技術的特異点や気候変動が取り沙汰され、ユヴァル・ノア・ハラリの『ホモ・デウス』がベストセラーになるような、2010年代末ならではの表現なのではないかと思っている。
ここに挙げられなかった中でも、KIRINJI『cherish』や、ROTH BART BARON『けものたちの名前』や、柴田聡子『がんばれ!メロディー』など、沢山の良作が相次いだのが2019年だった。
来年も楽しみに思っている。
■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」/Twitter