村尾泰郎が選ぶ、2019年洋楽インディーベスト10 SSWの作品が豊富で哀愁に満ちた1年に

1.Purple Mountains『Purple Mountains』
2.Helado Negro『This Is How You Smile』
3.デヴェンドラ・バンハート『Ma』
4.ケイト・ル・ボン『Reward』
5.レオノール・ブーランジェ『Practice Chanter』
6.セコイヤ・マレー『Before You Begin』
7.エンジェル・オルセン『All Mirrors』
8.ワイズ・ブラッド『Titanic Rising』
9.(サンディ)アレックス・G『House of Sugar』
10.ジョアンナ・スタンバーグ『Then I Try Some More』

 今年の自分が担当した新譜キュレーションを振り返ってみると、シンガーソングライター作品が多い。バンドよりソロアーティストが強くなってきているのか、それとも自分の嗜好の問題なのか。ともあれ、年末のベストもシンガーソングライター(ソロユニットも含む)というくくりで、思いつくままに選んでみた(ので順不同)。

Purple Mountains『Purple Mountains』

 まずは、この原稿を書いている師走の現在、もっとも聴き返すことが多いのがデヴィッド・バーマンのソロユニット、Purple Mountains『Purple Mountains』。本作は、USインディーシーンの孤高の存在だったバンド・Silver Jews解散後、うつ病、離婚、母親の死と様々な苦しみと闘ってきたバーマンが、Woodsのジェレミー・アールとジャーヴィス・タヴェニエルのサポートを得て作り上げた11年ぶりの作品だ。カントリーやブルースなど、ルーツミュージックを染み込ませた骨太のインディーロック。哀愁を帯びたメロディにバーマンのソングライターとしての才能が光るなか、開き直りともいえるおおらかな歌声が胸に沁みる。アルバムは絶賛されたが、ツアーが始まる直前に死去。人生の苦みを力強い音楽に昇華させた渾身の一枚だ。

Purple Mountains “All My Happiness is Gone” (Official Music Video)
Helado Negro『This Is How You Smile』

 Helado Negroはフロリダ出身のロベルト・カルロス・ラングによるソロユニット。エレクトロ/ヒップホップシーンでトラックメイカーとして活躍していたロベルトが、スフィアン・スティーヴンスが主宰する<Asthmatic Kitty>から声をかけられてHelado Negroとしてデビューしたのは10年前のことだった。『This Is How You Smile』はエレクトロと生楽器、緻密な音響デザインと南米移民のルーツを感じさせるトロピカルな歌が融合。そこには彼が近年、テーマにしている移民問題も織り込まれている。エキゾチックな味わいを持った歌が細野晴臣を引き合いに出されたりもするけれど、そのデリケートなボーカルはデヴェンドラ・バンハートに通じるところも。

Helado Negro – Running
デヴェンドラ・バンハート『Ma』

 そのデヴェンドラ・バンハートの『Ma』も素晴らしかった。もはやベテランの域に入ってきたデヴェンドラだが、<Nonesuch>に移籍してからは孤高の存在としての輝きを増した。「母性」をテーマにした『Ma』は、盟友ノア・ジョージソンと共に60曲を超えるデモから選りすぐりの曲をレコーディング。ホーンやストリングスを加えることで、サウンドはますます幽玄な美しさを漂わせている。細野晴臣の曲にインスパイアされた「Kantori Ongaku」。デヴェンドラが大好きなシティポップを思わせるブルーアイドソウル「Love Song」。そして、ヴァシュティ・バニアンとのデュエットを聴かせるドリーミーなバラード「Will I See You Tonight?」など粒揃いの曲が並ぶ。

Will I See You Tonight? (feat. Vashti Bunyan)
ケイト・ル・ボン『Reward』

 そんな『Ma』に参加していたのが、ウェールズ出身のシンガーソングライター、ケイト・ル・ボン。新作『Reward』は、今年デヴェンドラに取材した際、「僕のアルバムより素晴らしい!」と勧められて聴いた一枚。プロデュースを手掛けたジョサイア・ステインブリック、ゲスト参加したジョシュ・クリングホッファーやステラ・モーツガワ(Warpaint)は、ケイトと2017年にBananaというユニットを結成していて、その時の相性が良かったのだろう。ポストパンク~プログレ~現代音楽など実験的な音楽性を吸収した不思議なポップセンスを持ったサウンドに、ケイトのシアトリカルな歌声が浮遊する。ちょっとレコメン系サウンドを彷彿させる味わいがあるところも好み。

Cate Le Bon – Home to You (Official Video)
レオノール・ブーランジェ『Practice Chanter』

 レオノール・ブーランジェはフランス出身のシンガーソングライターで、『Practice Chanter』は2作目のアルバム。彼女が所属している<Le Saule>は、フランスの個性的な若手アーティストが集う注目のレーベルで、彼女は<Le Saule>の顔ともいえる存在だ。『Feigen Feigen』(2016)では「新世代のブリジット・フォンテーヌ」もいえる強烈な個性を発揮したが、今作はさらに過激に進化。「声の練習」というタイトル通りに、様々な手法で発した声をひとつの素材として捉え、多彩な楽器と混ぜ合わせてコラージュのようにサウンドを構築。それをエキゾチックなメロディと変拍子のビートで縫い合わせる。遊び心と実験精神に溢れたアルバム。

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