槇原敬之は、名曲をどうカバーしてきた? 「聞き間違い」「traveling」から特徴を分析

 2020年にデビュー30周年を迎える槇原敬之。すでにアニバーサリーイヤーは始まっていて、その第1弾企画として10月23日には、これまで3作発表してきたカバーアルバムシリーズ「Listen To The Music」の選りすぐり楽曲に加え、新録2曲(フジファブリック「若者のすべて」とYUKI「聞き間違い」)を収めた初のカバーベスト『The Best of Listen To The Music』をリリース(アナログ盤は12月4日発売)。また、10月18日19時より放送の『ミュージックステーション』3時間スペシャル(テレビ朝日系/以下、Mステ)では、同作からYUKIのバラード「聞き間違い」を披露する。

槇原敬之 「聞き間違い」 Music Video (Short Ver.)

 好評の「Listen To The Music」シリーズにおいて、宇多田ヒカル、松任谷由実、中島みゆき、矢野顕子といった、カバーするのが決して容易ではない女性アーティストの楽曲に数多く挑戦してきたマッキー。彼はどのように女性アーティストのカバーを試みているのか。その歌唱やアレンジの魅力を見直してみたい。

槇原敬之『The Best of Listen To The Music』(通常盤)

 まずは歌唱について。YUKIの「聞き間違い」(オリジナルは2017年発表のアルバム『まばたき』に収録)に耳を傾けてもらえれば明らかなとおり、槇原はカバーをする際、原曲のメロディに手を加えることはほぼない。大胆なフェイクやテンポチェンジなども必要としない。あくまで自分の持ついい成分――すなわち、胸にスーッと沁み入るあの透明感にあふれた、“うわぁ……!”と感嘆の声を漏らしてしまうほどの凄みがあるボーカルを、“普遍的ないい歌を歌いたい”という気持ちのもと、まっすぐ繊細に響かせる点に注力している。絶妙なハイトーンをはじめ、心が洗われるように綺麗な槇原の歌声は、それだけで聴き手をホッとさせながら楽曲に惹き込んでくれるし、それだけで元々の歌詞の美しさを十分に引き立たせてくれるため、凝ったことをせず、素材の味を活かせばいい。おそらく本人もわかっていて、ゆえに決してがなったりもしないのだと思う。

 アレンジについては、もちろんカバーする楽曲によってその都度さまざまな閃きがあるものの、やはり軸はブレない。基本的に歌詞とメロディが立つことを念頭に置いていて、原曲へ最大限のリスペクトを込めながら、歌詞とメロディがやさしく耳に残るように、時代も世代も超えたエバーグリーンなサウンドを施している。「聞き間違い」の場合、ピアノやストリングスといった素材の色を残しつつ、シンプルで温かみのあるシンセが加わり、アコギをじわりとフィーチャー。また新たなポップスとして楽しめる仕上がりとなった。もともと素敵な曲だけど、楽曲の魅力が立体的に見えてくるアレンジによって、リアルタイムで聴いていた人にも、その曲を知らない世代にさえも新鮮に響く。これがマッキーのカバーの醍醐味と言えよう。

 オリジネイターへの愛情も深く、「聞き間違い」はMVを制作するほどのお気に入り。ちなみに、この楽曲のカバーにあたって槇原は下記の絶賛コメントを寄せている

「あまりにも歌詞が素晴らしいことと、自分では思いつかないな、こういう言い方はとか。そういうのがギュッと詰まっている素晴らしい曲。特に聴いて欲しいのは“「素直で明るいだけで人には価値がある」~”という歌詞があって、そこで僕は電車の中で聴いていて思わず涙した。こんなにいい曲を作れるのは素晴らしい人だなと思って。

(MVを)本当に是非見てください。すごく素敵なビデオになっておりまして、誰かがそばにいることの心強さだったり、みんなが抱えている不安だったり、そういうものがとってもいい作風でイラストでまとめられていて、とっても僕も気に入っています。このビデオを見たらこの曲をもっと好きになってもらえるんじゃないかと思います」(参照

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