声優音楽の“今”は、一体どうなってる? 元祖・林原めぐみから新人注目株・イヤホンズまで徹底解説
我が道をゆく坂本真綾という“異端”
そんな中で、水樹らとほぼ同時代に若干の異彩を放っていたのが坂本真綾だ。決してライブでの機能性を軽視していたという意味ではないが、どちらかというと録音作品としてのクオリティを重視した楽曲で高評価を獲得した。菅野よう子プロデュースによる緻密で繊細な音楽世界と、それを余すところなく表現しうる坂本のボーカリストとしての力量が相まって、まるで「本業のミュージシャンが全力で作りあげたアルバム」であるかのような高品質な音楽作品をシーンに送り出したのである。彼女自身の歌声は、シリアスで英雄的なものでもなければ、妹系ロリータボイスとも一線を画していた。どこまでもナチュラルでヒューマンな温かみを持ち、それでいて芯の強さを秘めた、青い炎のような独自の魅力を当初から持ち合わせていたのである。
これがこだわりの強い音楽ファンたちの心を捉え、「歌い手が声優であるかどうかなど本質的な問題ではない」「重要なのは音楽が優れているかどうかだ」というフラットな目線を呼び込んだ。それまで「所詮声優さんの副業でしょ?」という色眼鏡で見られがちだった“声優アーティスト”界は、彼女の音楽が知られていくことで徐々に偏見から解放されていったのである。また、のちに世界的に再評価されていくこととなるシティポップやジャパニーズAORを丁寧に歌い続けていた“ポスト飯島真理”こと牧野由依の存在も、決して無視できないだろう。この路線は、のちの中島愛などに受け継がれていくことになる。
アニソンがチャート侵略を開始
風向きが変わったことで、00年代〜10年代にかけてもうひとつ重要なパラダイムがシフトする。90年代にサブカル界隈で人知れずハイセンスな音楽を作り続けていた“渋谷系”アーティストたちが、声優業界に流入してきたのだ。最も象徴的だったのは、ROUND TABLEの北川勝利が花澤香菜を、元Cymbalsの沖井礼二が竹達彩奈を担当したこと。それ以外にも、クラムボンのmitoや空気公団、カジヒデキ、元Love Tambourinesの宮川弾など、そうそうたる面々が声優プロデュースを手がけ始めたのである。余談だが、このムーブメントは一部で“アキシブ系”などと呼ばれることもあった。
2009年に『けいおん!』が大ヒットしたことも追い風となった。それまでアニメ作品のノベルティに過ぎなかった“キャラソン”にも新たな意味が付与されていく。同作においては、キャラソンとしてリリースされる楽曲の多くは劇中で主人公たちのバンドが演奏するためのオリジナルナンバーという位置付け。それまで誰の胸にも引っかかっていた「どうしてアニメキャラが歌を歌うのだ?」という違和感を、本作は完全に解消してみせた。「バンドのメンバーが歌を歌うことに何か問題でも?」と全アニメファンが“納得”し、安心してCD作品を購入すべくショップに押し寄せたのだ。
この手法はその後の『Angel Beats!』や『ラブライブ!』シリーズ、『THE IDOLM@STER』シリーズなどに受け継がれていった。劇中で歌われるさまざまな楽曲の多くがヒットチャートを席巻し、劇中アイドルユニットであるμ'sやAqoursは、のちに紅白出場を果たすまでになっていく。